「お客様の声」を分析して分かった、天気と顧客心理の関係

天気と売上には相関があることが、複数の研究で分かっています。

晴れの日は来店数も売上金額も多く、雨の日はその逆となる傾向があります。

しかし、そんな時こそ、丁寧な接客が求められます。

なぜなら、天気は人間の気分に影響し、それがサービスへの評価にも影響するからです。

つまり、雨や蒸し暑さのせいでイライラしているのに、店員の接客態度が原因と思われるリスクがあるのです。

そうでなくとも、イライラしているときは評価が厳しくなりがちなのです。

天候と「お客様の声」の記載内容の関係

天候が消費者の評価にどのような影響を及ぼすのか調べた、ニューヨーク大学のミロス・ブジシック博士らの調査があります。

この調査では、米国の全国チェーンのカジュアルレストラン32店舗に寄せられた、「お客様の声」を分析しています。

これは店員の接客態度や、料理の味、値段などについて、自由な意見が書かれたカードです。

これらの内容と、国立気候データセンターのデータ(気圧、降雨、気温、湿度など)を照合しました。

分析の結果、雨が降ること、気温の上昇、そして気圧の上昇は、顧客がネガティブなコメントを残す可能性を有意に高めることが分かりました。

例えば、雨の日には、「非常にネガティブ」なコメントを残す確率が約2.9倍に増加していました。反対にポジティブなコメントを残す確率は低下していました。

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悪天候が顧客からの評価を下げる心理的なメカニズム

雨などの不快な天気が、低評価を引き起こすのはなぜでしょうか?

それは、人間の気分(ムード)が環境要因、とりわけ天候の影響を強く受けるからです。

心理学や気象学の研究では、曇天や降雨、極端な気温、高湿度などが、人間の気分を抑うつ的・不快な状態に導きやすいことが示されています。

こうした気分の変化は、たとえ直接的な不満がなくても、周囲の出来事やサービスに対して否定的な認知を促しやすくなるのです。

つまり、天候によって生じた不快感が、レストランの料理や接客といった本来は関係のない体験にネガティブな色づけをしてしまうということです。

さらに、悪天候は身体的なストレスや移動時の不快感をも引き起こすため、来店時点ですでに疲労や苛立ちを感じていることも要因です。

そのような状態では、些細なサービスのミスや待ち時間の長さといったことが、通常よりも大きな問題として認識されやすくなるのです。

また、天気が悪い日は全体的に人の行動意欲が低下する傾向があるため、そもそも顧客が「楽しむ準備ができていない状態」のまま飲食体験に臨んでしまうことも一因といえます。

このような心理的・生理的な負の連鎖によって、実際のサービスが通常と同水準であっても、顧客はそれをネガティブに評価しやすくなってしまうのです。

悪天候の日に飲食店に求められる対応

このように、不快な天気は、顧客の気分を悪化させ、それがサービス評価や口コミ行動にネガティブな影響を及ぼします。

つまり、飲食店側には天候による顧客の気分の揺らぎを理解し、それを和らげる工夫が求められます。

1.天候によって顧客心理が変わるこを共有

まず重要なのは、天候によって顧客の心理状態が変わるという前提を店舗スタッフ全員が共有し、対応の意識を高めることです。

雨の日や気温の高い日は、来店客が通常よりも苛立ちやすく、些細なミスに過敏になっている可能性があります。

こうした日は、スタッフがいつも以上に丁寧かつ温かみのある接客を心がけることで、顧客のイライラを和らげることができます。

2.店内の環境設計でストレスを和らげる

店内の環境設計においても、天候に起因する不快感を軽減するための演出が有効です。

雨の日には、タオルや傘袋を準備したり、落ち着いた音楽を流すことで、外で感じたストレスを和らげることが期待できます。

また、冷房の効きすぎや室内の蒸し暑さなど、屋内の温度環境にも細やかな配慮が求められます。

こうした店内環境への気配りは、顧客の無意識的な満足感に寄与します。

3.小さな気遣いやサプライズ

天候に応じた小さな気遣いや、サプライズも有効です。

雨の日に来店した客に対し、温かいお茶を無料で提供する、あるいは「雨の日限定クーポン」を配布するといった施策は、悪天候によって下がりがちな気分を引き上げ、店に対する好印象を生み出すきっかけとなります。

これらの施策は、その場の満足度向上にとどまらず、ポジティブな口コミ(WOM)の誘発にもつながります。

店舗に向かうときから顧客体験は始まっている

天候は、私たちの気分や行動に無意識のうちに影響を及ぼしており、それは飲食体験の受け止め方にも反映されます。

飲食店としては、食事やサービスの質を保つだけでなく、「その日、その天気の中で来てくれた顧客」にどのような気分で過ごしてもらうかを考えることが重要になります。

研究によれば、感情の波は連鎖的に広がる性質があり、ネガティブな気分の顧客が周囲の雰囲気や他の客の体験にも影響を及ぼす可能性があることも分かっています。

つまり、不快な天候によって不機嫌な客が一人いるだけで、それが店舗全体の空気に悪影響を及ぼすリスクがあるということです。

天気をコントロールすることはできなくても、それに反応する顧客の感情を和らげることは可能です。

顧客が店舗に向かって歩いているときから、顧客体験は始まっているという視点が大事かもしれません。

参考文献:Bujisic, M., Bogicevic, V., Parsa, H. G., Jovanovic, V., & Sukhu, A. (2019). It’s Raining Complaints! How Weather Factors Drive Consumer Comments and Word-of-Mouth.