生産者情報と性別。なぜ女性が作った製品のほうが売れるのか?

商品が「誰によって作られたか」という生産者情報は、これまで必ずしも重視されてきたわけではありません。

しかし、消費者の価値観が多様化する今の時代において、その情報が購買行動に明確な影響を及ぼし始めています。

特に注目されているのが、女性消費者による「女性によって生産された製品」への選好です。

単なる共感や好印象といった感情だけではなく、そこには社会的な意識と消費行動のつながりが存在しています。

今回は消費者心理学の研究をもとに、こうした選好がどのように形成され、どのような背景から生まれるのかを分かりやすく解説したいと思います。

男性が作った製品と女性が作った製品はどちらが売れるのか?

生産者の性別が、消費者の購入意図にどんな影響を与えるかを調べた、ミュンヘン工科大学のベネディクト・シュヌール教授らの実験があります。

この実験の参加者はオンラインサイトでマスクを購入するよう誘導されました。

このとき、マスクの生産者として「ポール(男性名)」か「サラ(女性名)」のどちらかの名前が表示されました。

そして、最終的に販売されたマスクの総数をカウントしたところ全部で190枚で、内訳は以下の通りでした。

  • ポール(男性名)85枚
  • サラ(女性名)115枚

女性が作ったとされるマスクのほうが多く売れたのです。

内訳を見ると、女性参加者ほど、女性生産者から買う傾向が高いことが分かりました。

1人の女性参加者が女性生産者からマスクを買う枚数の平均は0.72枚だったのに対し、男性生産者から買う枚数の平均は0.36枚だったのです。

男性参加者においては、このような差は見られませんでした。女性生産者からも、男性生産者からも買う枚数の平均はほぼ同じだったのです。

研究チームは、ベルトやスマホケースでも同様の検証を行っていますが、これらの製品でも、女性参加者は女性生産者から買いたがる傾向にあることが分かりました。

「アクション・エフィカシー」が消費者の選択に影響している

なぜ女性は、女性生産者から買いたがるのでしょうか?

女性の方が丁寧な製品を求めるので、女性が作ったもののほうが丁寧だろうと考えるからでしょうか?

そうではありません。

これには、「アクション・エフィカシー(action efficacy)」が関係しているのです。

アクション・エフィカシーとは、「自分の行動が、ある目的や結果を達成するのに効果的である」と信じられる感覚のことです。日本語にするなら「行動効力感」といったところです。

もう少し嚙み砕いて説明すると、「自分が○○をすれば、状況を変えられる」「この行動は意味がある」と感じられることです。

たとえば、環境問題に関心のある人が「エコバッグを使えば、プラスチックごみを減らせる」と信じているとします。このとき、「エコバッグを使う」という行動が有効だと感じていることが、アクション・エフィカシーです。

この感覚が高い人ほど、実際に行動を起こしやすくなります。逆に、「どうせ自分1人がやっても意味がない」と感じてしまうと、アクション・エフィカシーは低くなり、行動につながりにくくなります。

心理学や社会運動の研究では、このアクション・エフィカシーが、個人が社会的・倫理的な行動を取るかどうかを左右する重要な要素とされています。

女性生産者から買いたいと思うのも「アクション・エフィカシー」の影響

女性が女性生産者から買いたいと思うのも「アクション・エフィカシー」が関係しています。

女性は、ビジネスの場において「自分たちが不利な立場に置かれている」という認識を持ちやすく、こうした構造的不平等に対する問題意識も高い傾向があります。

そのため、「女性が作った製品を買う」という行動が、女性の経済的地位の向上やジェンダー平等の推進に貢献すると信じやすいのです。

つまり、生産者が女性であることを知ったときに、ただ単に「同じ女性だから応援したい」と感じるのではなく、「この選択が社会の不平等を是正する一助になる」と感じやすいのです。

実際に今回の実験でも、購買によって直接的に女性生産者にメリットが生じる、という情報を提示したときほど、女性参加者が女性生産者を選ぶ傾向が強まることも分かっています。

また、アクション・エフィカシーは個人のジェンダーアイデンティティの強さによって左右されることも分かりました。

自分の性別に強く帰属意識を持っている女性ほど、その不平等を自分ごととして捉えやすく、「自分が買うことで変化を起こせる」と感じやすくなるということです。

一方、男性は「購買という行為が性別による社会的不平等の解消に良い影響を与える」という感覚を持ちにくいため、生産者の性別が選択の基準とはなりにくいのです。

小売業者が地元産品や伝統品を売るための戦略

小売業者がアクション・エフィカシーをビジネスに活かすためには、消費者が「自分の選択が社会に良い影響を与える」と感じられるような仕組みをつくることが重要です。

この考え方は性別に限らず、さまざまな社会課題や価値観に応用することができます。

たとえば、環境への配慮を前面に出した商品展開はその代表例です。

「この商品を購入することで、海洋プラスチックの削減に貢献できます」と明示することで、消費者は「自分の買い物が環境保護に役立っている」と感じることができます。

同様に、地元の生産者や伝統的な職人が関わっている商品なども、背景のストーリーを伝えることで「応援している」という実感を提供できます。

また、購買のたびに何かが寄付される仕組み(たとえば、1商品につき給食1食分を寄付するなど)もアクション・エフィカシーを喚起しやすい方法です。

こうした取り組みでは、金額の大小よりも「具体的な影響が可視化されていること」が重要です。

消費者は自分の選択が明確に何かにつながっていると感じるとき、より積極的にそのブランドや商品を支持するのです。

さらに、店舗やオンラインショップにおいて、「お客様の購入で〇〇が実現されています」といったフィードバックを表示することも有効です。

購入後に達成感や納得感を与えることで、リピート購入やブランドロイヤルティの向上にもつながります。

このように、ビジネスの場面でアクション・エフィカシーの考え方を活かすには、単なる商品の提供だけでなく、「購入によって達成される社会的な意味」を設計し、それを明確に消費者に伝えることがカギとなります。

人は、ただのモノを買う場所ではなく、「自分が社会の一員として貢献している」と感じられる場所を求めているのです。

参考文献:Benedikt Schnurr, Georgios Halkias. (2020). Made by her vs. him: Gender influences in product preferences and the role of individual action efficacy in restoring social equalities.