「リピート率を改善したい」「LTVを高めたい」——そう考えるとき、まず候補に挙がるのがロイヤルティプログラムではないでしょうか。
ロイヤルティプログラムとは、顧客の継続購入や来店を促すためのマーケティング施策であり、代表的なものとしてはポイントカード、会員ステータス制度、限定特典の提供などがあります。
航空業界のマイレージプログラムから、コンビニやECサイトのポイント制度に至るまで、さまざまな業界で活用されてきました。
しかし、実際には、「導入しても思ったほど効果が出ない」「割引が利益を圧迫して終わった」というパターンも少なくありません。
果たして、ロイヤルティプログラムは本当に顧客の継続的な購買を生み出しているのでしょうか?
もし効果があるとすれば、それはどんな条件下なのでしょうか?
110本の研究論文のメタアナリシス
メルボルン大学のアレックス・ベリ博士らが、ロイヤルティプログラムの効果を定量的に評価するために、過去に発表された110本の学術研究の論文をメタアナリシスしています。
メタアナリシススとは、複数の先行研究を統合し、全体としてどのような傾向があるかを導き出す方法です。
この研究では、顧客ロイヤルティを「行動的側面(繰り返し商品を買うか)」と「態度的側面(ブランドに愛着を持つか)」の2種類に分けています。
また、ロイヤルティプログラムの設計要素(例えば、報酬の種類や提供方法)、業界特性(購入頻度の違いなど)、そして効果を媒介する心理的メカニズム(認知的・感情的要因)に注目し、それらがどう影響するのかを分析しています。
ロイヤルティプログラムでブランドへの愛着を高めるのは難しい
詳細な分析の結果、まず、ロイヤルティプログラムは「行動的側面」、すなわち実際の購買行動には効果があるということが分かりました。
これは、顧客が実際に商品を再購入したり、利用頻度を高めたりすることには寄与しているということです。
しかし、「態度的側面」、つまり企業やブランドに対する好意や信頼といった内面的な部分に関しては、それほど効果を発揮しないことが分かりました。
ロイヤルティプログラムの設計による効果の違い
また、どのようなロイヤルティプログラムの設計が効果的かについても明確な傾向が見られました。
たとえば、参加条件が設けられているクローズドなプログラムや、階層(ティア)制があるもの、参加時に料金がかかるものは、ロイヤルティ向上に対して強い効果を示しました。
一方で、複数企業による共同運営型のプログラムは、顧客の注意が分散しやすく、効果が弱まる傾向がありました。
心理的な側面が重要
報酬の種類については、割引のような即時型よりも、ポイントのような蓄積型のほうが効果的なことも分かりました。
また、心理的な満足感や特別感を提供するソフト面での報酬(誕生日特典や限定イベントへの招待など)は、顧客の感情的つながりを高め、より強いロイヤルティを育てることが明らかになっています。
さらに、効果の裏には「認知的な価値判断」だけでなく、「感情的な報酬体験」が重要な役割を果たしていることも確認されました。
分かりやすくいうなら特別扱いをされたり、企業との関係性を感じたりすることが、長期的な関係維持につながっていくということです。
マーケターはロイヤルティプログラムをどう設計すべきか
この研究が示す最大の教訓は、「割引やポイントだけでは顧客の心をつかみきれない」ということです。
多くの企業がロイヤルティプログラムを値引きや特典の提供という、目に見えるインセンティブに頼りがちですが、それだけでは顧客との関係は一時的なものにとどまってしまいます。
真に効果的なロイヤルティ施策とは、顧客との長期的な関係性を「体験の設計」として捉え、意図を持って構築することにあります。
そのためには、まず「誰に向けてプログラムを提供するのか」というセグメンテーションが重要です。すべての顧客が同じ体験や報酬に価値を見出すわけではありません。購買頻度の高い顧客と、関係性の浅い新規顧客では、必要とされるアプローチは異なります。
次に、「どんな報酬がその顧客にとって意味があるのか」を見極める必要があります。
経済的な報酬、たとえば値引きやポイント還元は分かりやすいですが、それだけでは価格に敏感な顧客の離脱を防ぎきれないこともあります。
一方で、心理的な報酬、たとえば誕生日のメッセージや限定イベントの招待、上位会員としての特別待遇などは、顧客に「自分は特別に扱われている」「このブランドに認識されている」という感覚を与えることができます。
このような感情的なつながりが、態度的ロイヤルティや、より深い行動的ロイヤルティを生む土壌となります。
顧客が買い続ける理由は、単に得だからではなく、そこに信頼や共感、そして期待を超える体験があるからです。
「このブランドに属していたい」と思わせるようなつながりを、どうやって日々のコミュニケーションや報酬設計で育んでいくかが、ロイヤルティプログラムを戦略的に機能させるための鍵なのです。
ロイヤルティプログラムの効果は時間とともに変化する
最後にもうひとつ注目すべき点があります。
それは、ロイヤルティプログラムの効果が、時間とともに変化する可能性です。
研究では、観測期間が短いとプログラムの効果が過大に見積もられやすく、長期で見るとその効果が薄れる傾向があることも示されています。
つまり、施策を導入した直後の反応だけで判断せず、中長期的な視点で評価設計を行うことが重要ということです。
顧客との関係は、一度の購入や一時的な特典では築けません。だからこそ、感情・体験・利便性を含めた「関係の設計」が求められるのです。
ロイヤルティプログラムは、ただの販促手段ではなく、企業と顧客の長期的な信頼構築のための戦略的な投資として捉えるべきでしょう。
参考文献:Belli, A., O’Rourke, AM., Carrillat, F.A. et al. 40 years of loyalty programs: how effective are they? Generalizations from a meta-analysis.