「サステナブルな商品」とアピールすると店全体の売上もアップするという実験結果

「この商品はリサイクル素材を使っています」と書かれた小さなプレート。

そのたった1枚のプレートが、消費者の行動を大きく変え、店全体の売上まで増やす効果があることが分かりました。

家庭用品を扱う大型店舗での実験

サステナブルな商品であると、アピールすることで、売上がどのように変化するのかを調べたバーリ大学のチームによる実証実験があります。

この実験が行われたのは、家具や生活雑貨、家庭用品などが広く取り扱われている実店舗です。

まず最初は、店内にあるサステナブル商品に対して、特別な表示や説明は一切行わない状態で来店客の行動を観察しました。

その次に、サステナブル商品の側にプレートやバナーを設置しました。

これらには「この商品は再生素材を使っています」「環境への影響を抑えた製造工程です」など、商品の持つサステナビリティに関する特徴が記されていました。

この実験のポイントは、実験が自然な状況で行われたことです。つまり、来店客は自分が研究対象になっていることを知らないまま、普段通りに買い物をしたということです。

サステナブルな商品であると説明する方が売れる

この実験の結果は明白でした。

サステナブルな商品であることの説明を付け加えたときのほうが、その商品はより多く売れたのです。

特に、商品の説明が丁寧で具体的であるほど、効果的でした。

これは「情報の見える化」が大きな役割を果たしていることを意味します。

消費者は、環境に優しい商品を選びたいという気持ちを持っていることが多いですが、実際の売り場ではそれがどの商品なのか分からないことがあります。

今回の実験で使われたバナーは、「この商品はリサイクル素材で作られています」といった、明確で簡単なメッセージを伝えていました。

このように、商品が持つ「サステナブルな価値」を視覚的に伝えることで、消費者の不安や迷いを減らし、購入という行動に結びつけやすくしたのです。

また、人は「良いことをしている」という感覚に満足感を覚える傾向があります。

バナーによって「この商品を買うことは環境に貢献している」と明示されると、その行動が「自己肯定」につながります。

そのため、少々値段が高くても手を伸ばす動機になったと考えられます。

店舗全体の売上も増える

さらに、驚くべきことに、この実験ではサステナブル商品に限らず、店舗全体における買い物の平均金額も増えていました。

これにも、気分の高揚が関連しています。

消費者は、商品に対する案内表示からポジティブな印象を受けると、そのお店全体に対する信頼や好感も高まります。

これが「この店は社会的に良いことをしている」という印象につながり、安心してお金を使える気持ちを後押しします。

さらに、「せっかく来たのだから少し多めに買おう」という気持ちが生まれたり、サステナブル商品を選んだことで得られた満足感が、ほかの買い物にもつながっていったのです。

急進的なサステナブル商品は売れない

一方で、すべてのサステナブル商品が等しく効果を得られたわけではありませんでした。

特に、外見や機能性が従来品と大きく異なる「急進的なサステナブル商品」に関しては、購入の増加が見られませんでした。

たとえば、極端にミニマルなデザインや、使用感が大きく異なるような商品は、いくら環境に良いと説明されても、消費者が手に取りにくいことがわかりました。

これは、消費者が見慣れた形や使い方に安心感を持っており、それを大きく外れるものには慎重になるという心理が影響しているためと考えられます。

消費者の関心や価値観による売れ行きの違い

今回の実験では来店客に対するアンケートも行っています。

その結果を分析したところ、商品の「品質」や「環境への配慮」に強い関心を持っている消費者ほど、サステナブル商品を積極的に購入していることが分かりました。

こうした人々は、価格よりも商品の社会的価値を重視する傾向があるからです。

その一方で、「とにかく安いこと」を重視する消費者については、情報を提供しても行動があまり変わらないという結果も示されました。

このことから、情報提供がすべての人に同じように作用するわけではなく、その人の関心や価値観によって効果が異なることが分かります。

サステナブルな商品が売れないなら伝え方を変える

今回の実験が行われたのは家庭用品を扱う大型店舗でしたが、得られた知見は他のさまざまな業種にも応用できます。

たとえば、食品業界ではオーガニックや地産地消といった要素が、サステナブルな価値として訴求できます。

アパレルではリサイクル素材の使用やフェアトレード、コスメでは動物実験を行っていない商品や環境に優しいパッケージなど、多くの企業がすでにサステナブルな工夫を取り入れています。

しかし、それらが実際にどれだけ消費者に伝わっているかという点については、まだ大きな課題が残っています。

この研究が示すように、重要なのは、サステナブルであるという価値を「わかりやすく、具体的に」伝えることです。

そして、「それを選ぶことで、ちょっといいことをした」という感覚を、消費者が実感できるようにすることが求められます。

こうした感覚を生み出すには、派手な広告や高額なプロモーションを行う必要はありません。

たとえば、商品棚のポップに「この製品は海洋プラスチックを再利用しています」と一言添えるだけでも、消費者の視点を変えるきっかけになります。

パッケージに小さなアイコンを加える、商品ラベルの言い回しを少し工夫する、それだけで「選ぶ理由」が生まれるのです。

サステナブルな取り組みを行っているにもかかわらず、それが売上やブランド価値に十分反映されていないと感じているなら、それは商品の中身の問題ではなく「伝え方」の問題かもしれません。

まずは現場で使っているバナーやラベルの文言を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。シンプルですが、確実に行動を変える力を持つ改善策です。

参考文献:Rocco Caferra, Imbert Enrica, et al. (2023). Consumer analysis and the role of information in sustainable choices: A natural experiment.