顧客が自発的にそのブランドを他人に薦めたり、ポジティブに語ったりする行動を「ブランド・アドボカシー」といいます。
ブランド・アドボカシーは、広告よりも信頼性が高く、長期的なブランド価値の向上にもつながる重要な要素です。
しかし、何をどう投稿すればアドボカシーにつながるのかは、感覚や経験だけでは見えてこない部分も多くあります。
そこで今回は、実際のSNS投稿をもとに、どのような内容が実際にアドボカシーを引き出しているのかを明らかにした、ブラウィジャヤ大学のアリ・イラワンらの実証研究をご紹介します。
科学的に導き出されたSNS戦略のヒントを、ぜひ日々の運用に取り入れてみてください。
投稿内容に含まれる価値観とアドボカシー
この研究では、アメリカのフォーチュン500に選ばれている企業の公式Twitterアカウント(169社分)が分析対象となりました。
調査期間は2021年4月から2022年3月までの1年間で、この期間中に企業が投稿したすべてのオリジナルツイートが収集されました。
研究者たちは、これらの投稿の中に含まれる「価値観」の種類と頻度に注目しました。
個人的価値観とは、人が生活の中で大切にしている信念や指針のことで、研究では以下の4パターンに分類しています。
- 自己の超越:他者や社会全体の幸福を重視する価値観。思いやり、公平性、環境保護、社会正義などが含まれる。
- 自己の強化:分自身の成功や地位、権力を追求する価値観。達成、競争、影響力、物質的な成功を重視する。
- 変化への開放:新しさや自由、創造性を求める価値観。好奇心、自立、冒険、革新といった姿勢が含まれる。
- 保守的:安定や伝統、秩序を守ろうとする価値観。安全性、規範への従順、慣習の維持などを重視する。
こうした価値観が投稿にどの程度含まれているかを、自然言語処理ツールを用いて分析しました。
そして、これらのツイートがどれほどリツイートされたのかをブランド・アドボカシーの指標としました。
リツイートの数は、単なるクリックやいいねよりも、他人に勧めたいという気持ちの表れとして信頼できると考えられるからです。
ブランド・アドボカシーに影響するもの
分析の結果、「自己の強化」と「保守的」な価値観が、もっとも強くブランド・アドボカシーと関連していることが分かりました。
つまり、自己実現や成功、安全性や安定性を重視するような内容が投稿に含まれていると、それが他者に共有される可能性が高くなるということです。
一方で、「自己の超越」や「変化への開放」といった価値観は、期待されたほどの効果を示しませんでした。
これらの価値観は社会貢献や革新性に関係しますが、アドボカシーに強い影響を及ぼしていないことが示されました。
ユーザーの間で共感を呼ぶメッセージと、実際に行動につながるメッセージには、ずれがある可能性が示唆されています。
業種ごとの違い
業種ごとの違いもありました。
製造業においては、「保守的」な価値観がとくに効果的でした。
たとえば、「長い歴史」「品質の安定」「安心・安全」といったメッセージは、製造業におけるブランド・アドボカシーを高める要因となっていました。
これは製品の信頼性や堅実さが評価されやすい業界特性と一致しています。
一方、サービス業では傾向が異なっていました。
ここでは「自己の強化」に限らず、「自己の超越」や「変化への開放」といった価値観も、アドボカシーにつながっていました。
サービスは形のない価値を提供する産業であり、体験や共感が重要になります。
そのため、顧客の内面に訴えかけるメッセージが、他人に薦めたくなる行動へとつながりやすいものと考えられます。
日々の投稿にブランド価値の軸があるか?
この研究が示す最大のポイントは、「どんなメッセージを発信するか」だけでなく、「どの価値観を伝えるか」が、ユーザーの行動を左右するということです。
従来のSNS運用では、反応率や最適な投稿時間などのテクニックに注目が集まりがちでしたが、それだけではブランドへの共感や信頼は生まれにくい時代になっています。
企業アカウントが意識すべきなのは、投稿を通じてブランドの人格をどのように感じ取ってもらうかです。
そのためには、自社がどの価値観を体現しているのか、あるいはユーザーにどの価値観を届けたいのかを明確にする必要があります。
日々の投稿に、その軸があるかどうかを見直すことから始めてみるのがよいかもしれません。
SNSはアルゴリズムの世界であると同時に、人間心理の世界でもあります。言葉の一つひとつが、ブランドの世界観や姿勢を伝える手段になります。
数字を追うだけでなく、「この投稿はどんな価値観を映しているのか?」と意識することで、SNS投稿がブランド構築の一助となります。
参考文献:Ari Irawan and Julian Ming-Sung Cheng. (2025). Elevating Customer Brand Advocacy Through Owned Social Media Content.