STP分析では勝てない!必要なのは「+C」のマーケティング戦略

オンライン市場の競争が激化する中、「どの顧客に」「どんなアプローチで」商品やサービスを届けるかという基本戦略が、かつてないほど重要になっています。

従来から用いられてきたSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)分析を基にした戦略は、確かに有効な枠組みです。

しかし、変化のスピードが早く、ニーズが多様化する現在のビジネス環境においては、STPだけでは他社との差別化が難しくなっています。

そこで今回は、オンラインサービス業界の研究によって提案された「STP+C戦略」について解説します。

この戦略は、従来のSTPモデルに「カスタマイズ(Customization)」の視点を加えることで、個々の顧客のニーズや嗜好により柔軟に対応し、商品やサービスの提供価値を最大化しようというものです。

ターゲットを絞って適切な位置づけをするだけでなく、そのターゲットごとに「最適化された体験」を提供することで、エンゲージメントを促し、売上の向上やブランドロイヤリティの確立を目指します。

STP分析とは

そもそもSTP分析とは何かを簡単に振り返っておきましょう。

STP分析とは、マーケティングにおいて顧客をより深く理解し、効果的にアプローチするための基本的な考え方です。

この名称は、「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の頭文字を取ったものです。

それぞれのステップは順を追って行われ、マーケティング活動の土台を形成します。

1.Segmentation(セグメンテーション)=市場の細分化

セグメンテーションとは、市場(マーケット)を共通の特徴を持ったグループに分ける作業です。

たとえば、ひとくちに「飲料市場」といっても、人によって好みやニーズは異なります。ある人は「甘い炭酸が好き」、別の人は「健康志向の無糖飲料がいい」と感じるでしょう。

このように「ニーズが似ている人」を集めて、いくつかのグループに分けることで、企業はそのグループごとに適切な戦略を立てられるようになります。

セグメンテーションの例:

  • 地理的要因:都市部か地方か
  • 人口統計:年齢、性別、所得、職業など
  • 心理的要因:価値観、ライフスタイル
  • 行動的要因:購入頻度、ブランドロイヤリティなど

2.Targeting(ターゲティング)=狙う市場を決める

ターゲティングとは、分けたグループの中から「どのグループにアプローチするか」を決める段階です。

すべてのグループに同時に対応しようとすると、コストがかかったり、メッセージがぼやけてしまったりします。そこで、最も自社にとって利益が出そう、もしくは対応しやすいグループを「ターゲット市場」として選びます。

ターゲティングの際には、以下のような基準で判断します。

  • 市場の大きさ(十分な人数がいるか)
  • 競合の数(競争が激しすぎないか)
  • 自社の強みと合っているか

3.Positioning(ポジショニング)=顧客の心にどう位置づけるか

ポジショニングとは、自社の商品やサービスを、ターゲット顧客の頭の中に「どう認識してもらうか」を設計することです。

たとえば、同じ「ミネラルウォーター」でも、ある商品は「安さが売り」、別の商品は「自然でピュアなイメージ」が売りかもしれません。このように、顧客の心の中に、自社ならではのイメージを作ることがポジショニングです。

ポジショニングには、以下のような要素が使われます。

  • 価格
  • 品質
  • デザイン
  • ブランドの世界観
  • 使用シーンなど

STP分析の目的と効果

STP分析の最大の目的は、「誰に」「何を」「どう届けるか」を明確にすることです。これによって、マーケティングの無駄を減らし、効果的なプロモーションや商品開発ができるようになります。

例として、ダイエット用のスムージーを売る会社の場合:

  • セグメンテーション:健康志向の20代女性、働く30代男性などに分類
  • ターゲティング:特に「働く30代男性」を狙うと決める
  • ポジショニング:「忙しくても手軽に健康管理できるドリンク」としてアピール

このように戦略を明確にすることで、広告や商品設計の方向性が一貫し、売上やブランド力の向上につながります。

STPに関する理論と実態の両面からの研究

冒頭でもお伝えしましたが、上記のSTP分析だけでは、消費者の多様化するニーズに対応するのが難しくなっています。

ではどうすれば良いか?ということを調べたのが、ランシット大学のチームによる研究です。

この研究では、どのようなマーケティング戦略がより効果的かを検討するために、混合研究法が用いられました。

混合研究法とは、質的データと量的データの両方を収集・分析する方法であり、理論と実態の両面から戦略の有効性を検証するのに適しています。

専門家による見解

まず、質的調査では、専門家を対象としたインタビューによって、マーケティング戦略の構築に重要とされる要素を明らかにしました。

対象となった専門家は、公的機関の職員、マーケティング分野の大学教授、ブランド戦略の専門家、そして現場で活躍するオンラインサービス事業者など、4つの異なる背景を持つグループから構成されています。

これにより、理論的な知見と実務的な視点の両方が反映された意見が集まりました。

収集されたデータを分析したところ、オンライン事業者のマーケティングにおいて特に重要とされる4つの戦略的要素が浮かび上がりました。

それが、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の要素と、「カスタマイズ(顧客のニーズに応じた対応)」でした。

実際の企業のデータ

次に、量的調査では、オンラインフード関連の企業800社を対象にアンケートを実施しました。

こちらの調査では、上記で抽出された4つの戦略要素をどのように採用しているか、それが業績や顧客対応にどのように影響しているかが尋ねられました。

企業からの回答を分析したところ、セグメンテーション(S)が最も高い影響力を持つことが分かりました。

これは、顧客を明確に分類し、その特性に応じてサービスを最適化することが、オンラインビジネスの競争力を高めるうえで極めて重要であることを示しています。

次に影響力が高かったのはカスタマイズ(+C)であり、顧客ごとのニーズに合わせて商品やサービスを柔軟に調整する姿勢が、顧客満足と売上に直結することが明らかになりました。

続いて、ターゲティング(T)とポジショニング(P)も有意な要素であるとされ、特に適切なターゲットを選定し、そのターゲットに響く形でブランドのメッセージを伝えることが成果に結びついています。

さらに、すべての要素が理論的モデルと統計データの両面で高い一致を示しており、この「STP+C」モデルが信頼性の高い戦略フレームワークであることが確認されました。

具体的なSTP分析とカスタマイズ(C)を組み合わせた戦略

具体的にSTP分析とカスタマイズ(C)を組み合わせた戦略とはどのようなものでしょうか?

たとえば、オンラインフードデリバリーを例に考えてみましょう。

まず、セグメンテーションによって「健康志向の30代男性」「忙しい共働き家庭」などのグループを見つけ出します。

次に、自社が「忙しい共働き家庭」をターゲットとして選び、「手間をかけずに栄養バランスの良い食事を届けるサービス」としてポジショニングを行います。

ここまでは従来のSTP分析です。

そこにカスタマイズを加えると、たとえば注文履歴や時間帯、好みの料理ジャンルなどに基づいて、一人ひとりに合わせたレコメンドメニューを提示したり、個別のクーポンを送ることができます。

さらに、注文者が子育て中かどうか、ベジタリアンかどうかなどの情報が分かっていれば、メニュー自体も細かく最適化することができます。

こうした対応は、ユーザーに「自分に合っている」「ちゃんと理解されている」と感じさせ、満足度や再利用意欲を高めることにつながります。

また、カスタマイズの度合いはデジタル技術によってコントロールできます。

AIを使ったレコメンド機能や、チャットボットによる対話形式の注文支援などを通じて、ターゲットごとに、そして個人ごとに内容を変えることができるようになります。

つまり、STP分析によって「誰に届けるか」を明確にし、カスタマイズによって「どう届けるか」を最適化するという関係です。

このように、STPとカスタマイズを組み合わせることで、ただターゲットを絞るだけでなく、そのターゲットの中の一人ひとりに響くコミュニケーションと提案が可能になり、結果として顧客満足やロイヤルティの向上、そして売上アップにつながるのです。

中小企業こそSTP+カスタマイズ(C)の戦略が重要

ただ顧客を分類して商品を売るだけではなく、その人に合わせた方法でアプローチすることが、STP+カスタマイズ(C)の戦略です。

特にオンラインサービスでは、顧客の行動データや好みをすぐに知ることができるという強みがあります。

その情報を上手に活かすことで、サービスの質を上げることができます。

また、今回の研究では触れられていませんが、STP+カスタマイズの考え方は、リピーターの獲得やクチコミの拡散にもつながります。

人は「自分に合っている」と感じるサービスを、自然と誰かに勧めたくなるものです。その積み重ねがブランドへの信頼やファンづくりにつながっていきます。

中小企業が競争の激しいオンライン市場で生き残るには、大きな広告費を使うよりも、一人ひとりの顧客を丁寧に見ることが重要です。

これからマーケティング戦略を考える際は、ぜひこの「STP+カスタマイズ」の視点を取り入れてみてください。

顧客との関係が変わり、ビジネスの可能性も広がっていくはずです。

参考文献:Yongyoot Nilplengsang, Sumaman Pankham. (2023). STP Plus C Strategy Superior Marketing Strategies for Online Service Businesses.