試食、POP、プレミアムのどれが最も効果的な店頭プロモーションなのか?

店頭プロモーションには、POPの設置や試食の実施、購入特典の提供など、さまざまな手法があります。

しかし、「どの手法が本当に効果的なのか」「どれが記憶に残り、購買につながるのか」といった問いに対して、明確な根拠を持って判断するのは簡単ではありません。

現場の肌感覚や過去の経験に基づいて判断している担当者も多いかもしれません。

それぞれの施策が消費者の行動や記憶にどう影響しているのかを数値で比較できれば、プロモーション戦略の精度は格段に向上します。

そこで本記事では、店頭プロモーションの効果を比較した、ルンド大学の実験を紹介します。

スーパーマーケットの店頭における実証実験

この実験では、スウェーデンのICAというスーパーマーケットで、実際にプロモーションを行うことで消費者の反応を確認しました。

ICAは日本であまり知られていませんが、北欧最大の小売チェーンです。

行われたのは以下の3つのプロモーションです。

  • POPディスプレイ:棚の端やスタンドに商品を目立たせて展示
  • プレミアム・プロモーション:商品を購入した人におまけや特典をつける
  • 試食の提供

店内でこれらのプロモーションを行い、買い物を終えて出てきた顧客にインタビューを行いました。

インタビューでは、「店内でそのプロモーションを見かけたか」「どのブランドだったかを覚えているか」「実際にその商品を買ったか」という3点が聞かれました。

最も効果的なプロモーションは試食

調査の結果、まず「注意を引いた」という点で最も効果的だったのは試食でした。

回答者の88%が試食の存在に気づいていたと答えています。

これに対し、POPディスプレイは72%、プレミアム・プロモーションは61%でした。

つまり、体験を伴うプロモーションは視覚的なものや価格的な訴求よりも、強く注目を集める傾向があることがわかります。

ブランドを覚えているか?

次に、ブランド認知への影響です。試食に注意を向けた88人のうち、56人がブランド名を覚えていました。これは全体の約64%にあたります。

POPディスプレイでは21人、プレミアム・プロモーションでは16人がブランド名を記憶していました。

単に目に留まるだけでなく、実際にブランドの名前を覚えてもらえるという点でも、試食は他の手法より優れているという結果になりました。

さらに、事前にそのブランドを知らなかった人がブランド名を覚えていたかどうかも確認されています。

これは「ブランド再生(リコール)」の観点から重要です。

試食では10人が「知らないブランドだったが、覚えている」と答えています。

POPディスプレイでは3人、プレミアム・プロモーションでは7人という結果でした。

このことから、初見のブランドでも試食を通じて印象を残せる可能性があることが示唆されます。

実際の購買につながっているか?

最後に、実際の購買行動についてです。

ブランド名を覚えていた人の多くが、その商品を購入したと答えました。

特にPOPディスプレイでは、ブランド名を覚えていた21人全員が購入しており、プレミアム・プロモーションでも同様に覚えていた16人全員が購入していました。

試食についても、ブランド名を記憶していた56人中20人が購入しています。

これらの結果から、ブランド名を覚えてもらうことが、実際の購買行動につながりやすいという関係が見て取れます。

なぜ試食が効果的なのか?

試食がもっとも効果的なプロモーション手法であった理由は、五感を伴う体験と商品との接触機会の深さにあります。

まず、試食は視覚や言葉だけでなく、味覚や触覚といった五感を通じて商品に直接ふれることができる体験型プロモーションです。

人は視覚情報だけよりも、実際に「体験」した記憶の方が定着しやすい傾向があります。

たとえば、「見るだけ」のPOPディスプレイでは、消費者の関心が表面的なものにとどまりがちですが、試食の場合は「食べる」という行為そのものが能動的であり、印象に残りやすくなります。

また、試食は「無料で商品を試せる」機会であり、消費者にとってリスクがありません。これは「購入前の不安」を取り除き、商品への心理的なハードルを下げる効果があります。

さらに、食品であれば味そのものが訴求力を持っているため、気に入ればその場で購買意欲が高まる可能性が高いです。

もうひとつ重要なのは、商品に対してじっくりと向き合う時間が生まれるという点です。

POPや価格訴求は瞬間的な判断を促すのに対し、試食はその場に立ち止まり、手に取り、口に入れて判断するプロセスを伴います。このような時間の長さも、注意喚起とブランド記憶にとって有利に働きます。

この研究では、実際に食べたかどうかまでは確認されていませんが、それでも「見ただけ」で他の手法より高いブランド記憶率や購入率を示したという点から、試食というプロモーションの「体験的な性質」が、視覚的なものよりも強く消費者の心に残る要因だったと考えられます。

つまり、五感を活用した深い接触と、行動を伴う記憶が、試食の高い効果を支えていたといえます。

参考文献:Luiz Gustavo Pinke Rodrigues. (2010). Effects of In-Store Promotions.