イノベーションを起こす組織の設計法。多様性のある人材を集めても実現性の低いアイデアしか出ない

イノベーションを起こすには、創造性(独自性+有用性)が必要です。

そして創造性を発揮するには組織の「多様性」が大切だとよく言われます。

異なる専門性を持つ人たちが集まることで、新しい発想やユニークな視点が生まれやすくなるからです。

しかし、現実の組織では「話がかみ合わない」「意見がまとまらない」といった悩みも少なくありません。

実際に創造性を高め、イノベーションを起こすためには、どのような組織設計を行えば良いのでしょうか?

同質的なチームと異質的チームのどちらが創造的なのか?

専門性の違う人材が一緒になることで、創造性にどう影響するかを調べたアモイ大学のヤーシェン・チェン教授らの実験があります。

実験の参加者は経営学部と工学部の大学生たちで、以下の組み合わせで、合計40チーム(80名)が作られました。

  • 同質的チーム:同じ学部の2人(経営×経営、または工学×工学)
  • 異質的チーム:違う学部の2人(経営×工学)

それぞれのチームは、「大学の使われていないスペースをどう活用するか」というテーマで創造的な提案を作るという課題に取り組みました。

このスペースは約800平方メートル、予算は24万ドルと設定されており、「独自性(どれだけ斬新か)」と「有用性(どれだけ実現可能か)」の両方が求められます。

チームはZoomを使って20分間話し合い、最終案をチャットで提出しました。

その間、fNIRS(機能的近赤外分光法)用装置を頭につけて、脳の活動を記録しました。

これは、脳の働きの「同期」を見るためのもので、チーム内でどのような思考が共有されているかを測定できます。

提出されたアイデアは、専門家(実務家)などによって評価されました。

異質な組み合わせは「独自性は高いが有用性の低いアイデア」を出す

結果を分析したところ、異質チーム(異なる専門性を持つ組み合わせ)は、同質チームよりも独自性の高い提案を出す傾向が強いことが分かりました。

これは、異なる視点や知識が合わさることで、よりユニークなアイデアが生まれやすくなるためです。

一方で、異質チームは、有用性(実行可能性)の面では同質チームに劣るという結果が出ました。

異なる分野のメンバー間では、目的のすり合わせや具体的な実行案の詰めが難しくなることが、その理由として考えられます。

また、脳の活動データもこの結果と一致しました。

異質チームでは、発散的思考に関係する領域の活動が強く同期していました。これは、ユニークなアイデアが活発に生み出されている証拠です。

反対に、収束的思考に関係する領域の活動は、異質チームで同期が弱くなっていました。これは、意見をまとめたり実行性を高めたりする過程で、認識のズレが起きていることを示しています。

結果として、異質チームは「斬新だが実現性に欠ける」提案を出しやすく、同質チームは「目新しさには欠けるが実行性が高い」提案を出しやすい傾向があることが分かりました。

また、全体的な創造性スコア(独自性+有用性)では、両チームに統計的な優劣は見られず、多様性が一概に良いとも悪いとも言い切れないという結論になりました。

企業がイノベーションを起こすための組織設計

この研究結果からわかるのは、イノベーションを起こすためには、単に多様な人材を集めるだけでは不十分であり、目的に応じた組織設計が極めて重要であるということです。

具体的には、創造的な発想や斬新なアイデアを求める初期フェーズでは、機能的に異なる専門性を持つ人材を意図的に組み合わせる組織設計が効果的です。

多様な視点が交わることで、従来の枠を超えたアイデアが生まれやすくなります。

ただし、このようなチームは実行性や収束的な判断に弱くなる傾向があるため、次の段階では注意が必要です。

一方で、プロジェクトを実際に動かし、形にしていくフェーズでは、ある程度似た専門性や価値観を共有したメンバーによる同質性の高い構成のほうが、合意形成や実行力を発揮しやすくなります。

このように、アイデアの創出段階と実装段階で組織設計を動的に切り替えることが、イノベーションの成功には不可欠です。

さらに、チーム内で発散的思考と収束的思考がどのように交互に発生するかを考慮した組織設計が求められます。

単一のチームに両方を求めすぎるのではなく、思考の特性に応じた役割分担や段階的な構成変更をあらかじめ計画することが望ましいです。

つまり、企業がイノベーションを促進するには、「常に多様性を重視する」という固定的な方針ではなく、創造性の性質に応じて組織設計を柔軟に変化させる能力が求められます。

これにより、独自性と有用性という創造性の両輪をバランスよく活かすことができるのです。

「心理的な結びつき」と「相互理解の質」の影響

最後に、もうひとつ注目すべき点があります。

それは、脳活動の「同期」が高いチームほど、協調的に創造的な作業ができるという研究結果です。

ここからわかるのは、チームの創造性は、能力や知識だけでなく、「心理的な結びつき」や「相互理解の質」によっても左右されるということです。

いくら優秀なメンバーを揃えても、お互いに意見を受け入れ合えなかったり、信頼関係が築かれていなければ、思考のリズムは合わず、創造性も十分に発揮されません。

つまり、イノベーションを起こすには、誰をチームに入れるかという「人選」だけでなく、その人たちがどのように関わり合うかを考えた「組織設計」が必要です。

さらに言えば、チーム内で安心して話し合える雰囲気や、違いを尊重できる文化づくりも欠かせません。

創造性の源泉は、知識の多様性と、それを結びつける関係性の質、その両方に宿るのです。

イノベーション創出に向けては、個々のスキルだけでなく、「つながり方」と「組み合わせ方」にも目を向けた戦略的な組織設計が重要です。

参考文献:Chen, Yasheng and Presslee, Adam and Yang, Xue. (2022). The Effect of Functional Diversity on Team Creativity: Behavioral and fNIRS Evidence.