自社サイトの社員紹介ページに、どんなプロフィール写真を載せているでしょうか?
多くの企業が笑顔で明るい表情のものを選んでいると思います。
確かに笑顔は親しみやすさを演出しますし、サービス業や営業職ではポジティブな印象を与えると考えられがちです。
しかし、業種によっては、満面の笑顔が逆効果となる場合があります。高い専門性が求められる業種では「有能なイメージ」が損なわれてしまうのです。
特に弁護士や会計士などの士業や、生命、健康に関わる業種では、こうしたマイナスの効果が出やすい傾向にあります。
写真の表情が性格と能力の評価に与える影響
セントラルフロリダ大学のシェ・ワン准教授らの実験によると、業種や閲覧者の感情によって、プロフィール写真の表情に対する評価が異なることが分かっています。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
「満面の笑顔」より「控え目な笑顔」のほうが有能と評価される
最初の実験では、参加者を2グループに分け、同一人物の「満面の笑顔の写真」と「控えめな笑顔の写真」のどちらかを見せました。
その後で写真の人物から感じ取れる「温かさ」と「有能さ」を7段階で評価してもらいました。
その結果、「満面の笑顔の写真」の方が温かいと評価され、「控えめな笑顔の写真」の方が有能と評価されました。
士業のプロフィール写真は損失とリスクの認知が影響
次に、消費者に喚起される感情が、プロフィール写真の評価にどう影響するかを調べました。
こちらでは、以下の4パターンの弁護士の広告を提示し、温かさと有能さを評価してもらいました。
- 満面の笑顔の写真&得られる利益を強調するメッセージ(※1)
- 満面の笑顔の写真&避けられる損失を強調するメッセージ(※2)
- 控えめな笑顔の写真&得られる利益を強調するメッセージ
- 控えめな笑顔の写真&避けられる損失を強調するメッセージ
※1の例文:「満額の補償を受けたいなら、私にご依頼ください」
※2の例文:「事故で重傷を負った場合は、私にご依頼ください」
結果、「満面の笑顔の写真&避けられる損失を強調するメッセージ」のパターンにおいては、有能さを低く見積もられてしまう傾向がありました。
また、栄養士の広告では、「不適切な食事管理が深刻な健康問題を引き起こす可能性があります」という一文を加え、閲覧者のリスク思考を高めたうえで評価してもらいました。
その結果、リスク思考が高まると、満面の笑顔の栄養士の能力を低く評価してしまうことも分かりました。
つまり、損失やリスクが関わる場面において、満面の笑顔は逆効果となってしまうということです。
控えめな笑顔のプロフィールの方がクラファンも集まる
より現実に近い場面として、クラウドファンディングサイト「Kickstarter」における、実際のプロジェクト画像と支援者の行動データも分析しています。
研究チームは、数百件のプロジェクトからプロフィール写真を収集し、笑顔の強さを3段階に分類しました。
そのうえで、各プロジェクトの支援金総額、支援者1人あたりの金額、SNSでのシェア数などを調べました。
その結果、満面の笑顔を見せていたクリエイターのプロジェクトはFacebookでのシェア数が多くなることが分かりました。
しかし、支援金総額や高額支援の数は控えめな笑顔のクリエイターの方が多いことが分かりました。
なぜ、笑顔の強さによって評価が変わるのか?
なぜ、笑顔の強さによって評価が変わるのでしょうか?
まず、満面の笑顔が「温かい」と評価される理由を考えてみましょう。
それは、人間の進化の過程で、笑顔が「敵意を持っていないことのサイン」として機能してきたからです。そのため、人は大きく笑っている人に対して、「この人は優しそう」「好意的だ」と感じやすくなり、温かいと評価するのです。
一方で、そうした満面の笑みは「軽さ」や「気楽さ」の印象も同時に与えてしまいます。
人は本当に有能で真剣な人ほど、冷静で落ち着いていて、必要以上に感情を表に出さないというイメージを持ちやすいものです。
そのため、あまりにも大きく笑っている人は「真面目さ」や「専門性」に欠けるように感じてしまうのです。
さらに、満面の笑顔は「競争に積極的でない」「現状に満足していて向上心がない」といった、支配性や目的意識の低さとも結びつけられることがあります。
これは、有能さに求められる「判断力」「信頼性」「実行力」といった要素と対立するため、結果として「この人は能力面ではどうかな」と疑われてしまうのです。
このように、満面の笑顔は「いい人そう」という温かさの評価を高める一方で、「頼りがいがありそう」「専門的に優れていそう」といった有能さの評価を下げる要因になってしまうということです。
ウェブサイトの社員紹介ページの設計方法
以上のことから、ウェブサイトの社員紹介ページでは「誰に」「どんな印象を持ってもらいたいか」に応じて、写真の表情や構成を戦略的に選ぶことが重要といえます。
BtoB企業や法律、コンサルティング、医療、金融など、専門性や判断力が重視される業種では、笑顔が強すぎると「頼りなさ」や「軽さ」の印象を与えてしまう可能性があります。
こうした業種では、自然な口元の上がり具合と落ち着いた視線の控えめな笑顔の写真を使いましょう。
それによって、訪問者に「信頼できる」「有能そう」「専門的」といった印象を与えることができます。
一方で、採用向けのコンテンツや、社内の雰囲気を伝えるページのように親しみやすさを強調したい場合は、大きな笑顔でも有効です。
ただし、その場合でもあまりに口を大きく開けたり、感情が強く出すぎていたりすると、今度は「プロっぽさ」が失われる可能性があるため、あくまで「明るく自然な表情」にとどめるのが望ましいです。
また、写真だけでなく、肩書きや紹介文といった他の要素でも「温かさ」と「有能さ」のバランスを取ることができます。
例えば、「社員からの信頼が厚い技術の要です」といった一文を添えれば、写真では伝えきれない人柄も補完できます。
一瞬で決まった第一印象が、その後の評価や行動に影響する
社員紹介ページの写真は、見る人の印象を大きく左右します。
ただ見た目を整えるだけでなく、「どんな評価を引き出したいか」を考えて選ぶことが大切です。
ちなみに、研究では写真を短時間、見せただけでも印象が形成されることもわかっています。
つまり、第一印象はほんの一瞬で決まり、その後の評価や行動にまで影響を与えるということです。
社員紹介ページは、ただのプロフィール紹介ではなく、企業の信頼やブランド価値を伝える接点でもあります。
写真の表情ひとつにも気を配り、「誰に、どんな印象を届けたいか」を意識して設計しましょう。
参考文献:Ze Wang, Huifang Mao, Yexin Jessica Li, Fan Liu. (2017). Smile Big or Not? Effects of Smile Intensity on Perceptions of Warmth and Competence.