男女平等が叫ばれて久しいですが、世間にはジェンダーステレオタイプというものが、存在しています。
「男らしさ」「女らしさ」といった、無意識に持ってしまっている、偏見です。
こういったステレオタイプが良い悪いは別にして、現実に存在している以上は、マーケティングにおいても、無視することができません。
ビジネスの場では、どのようなステレオタイプがあるのでしょうか?
例を挙げるなら、電化製品は男性、スキンケア用品は女性のジャンルといったイメージを、持っている人は多いのではないでしょうか?
実際の購入者の割合もおそらく、その通りですから、このようなイメージを持つのは自然なことかもしれません。
そして、このようなステレオタイプは、消費者が買い物をするときの心理にも影響します。
特に女性消費者は、男性の分野というイメージのある商品に対し、男性の営業担当者から買おうという意欲が落ちることがあります。
なぜなら「騙そうとするのではないか?」と不安になるからです。
女性は数式のある広告を見ると不安になる
ステレオタイプによる脅威が、購買行動にどのような影響を与えるかを調べた、ソウル国立大学のリー・キョンミ教授らの実験があります。
この実験では、女性と男性の参加者が、投資判断をサポートする金融会社の広告を見たときの購買意図を調べました。
広告には、数学要素(数式やグラフ)の有無と、掲載されるファイナンシャルアドバイザーの性別によって、以下の4パターンが用意されました。
数学要素は「女性は数学が苦手」というステレオタイプを喚起するためのものです。
- 数学要素あり × 男性アドバイザー
- 数学要素あり × 女性アドバイザー
- 数学要素なし × 男性アドバイザー
- 数学要素なし × 女性アドバイザー
参加者は4グループに分けられ、上記のうちの1つを見せられました。
その後で、「この会社に投資の相談をしたいか?」を評価しました。
その結果、「数式あり × 男性アドバイザー」の広告を見た女性は、依頼したいと思う気持ちが有意に低くなりました。
また、女性が数学要素の入った広告を見た際に、不安感が高まることも確認されました。
男性参加者にはこのような差は見られませんでした。
自動車修理サービスの広告でも同様の実験を行いましたが、結果は同じでした。
「詳しくないこと」ではなく、「騙したいのでは?と感じること」が不安
この実験から分かることは、ジェンダーステレオタイプを喚起させられた女性は、男性の担当者に何かを相談したり、その人から買ったりする意欲が、低下するということです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
それは女性の中で「この分野は女性が詳しくないと思って、男性担当者は騙そうとしてくるのではないか?」と思ってしまうからです。
このような不信感や緊張感が、その相手との取引を避けたいと感じさせてしまうのです。
この不安は、単なる気分の問題ではなく、実際に行動に影響します。
不安を感じた消費者は、その場で商品やサービスに興味があっても、購入を保留したり、別の選択肢に逃れたりします。
ここで非常に重要なことは、女性本人がステレオタイプを信じているかどうかは関係ないという点です。
例えば、大学の理系学部を出ている女性であっても、「相手が自分をジェンダーバイアスに当てはめて見ているかもしれない」と思うだけで、不安は引き起こされます。
自分が詳しいかどうかの問題ではなく、相手は騙したり、不誠実な対応をするのではないか?という不安が購買意欲を下げてしまうのです。
女性の購買意欲を低下させないための対策
ステレオタイプの脅威によって女性の購買意欲が下がるのを防ぐには、企業側の工夫が必要です。
まず、担当者の多様性を確保することです。
営業やカスタマーサポートなど、顧客と直に接する場面に女性スタッフを配置することで、女性顧客にとって「自分と同じ立場の人がいる」と感じられる環境をつくることができます。
特に金融や自動車など、従来「男性向け」とされがちな分野では、この工夫が効果的です。
また、偏ったイメージの広告やプロモーションを避けましょう。
数式や専門用語ばかりを並べた広告や、男性ばかりが登場するCMなどは、無意識に「このサービスは自分向きではない」という印象を与えてしまいます。
誰にでもわかる言葉で説明し、性別や年齢に偏らない演者を使うことで、心理的なハードルを下げられます。
つまり、女性客が「安心できる」「見下されていない」と自然に思える状況を整えることが、購買意欲の低下を防ぐうえでとても大切なのです。
バニラの香りで購買意欲の低下を防げる
余談ですが、上記のような対応を取る余裕のない企業でも、店内の雰囲気を変えることで、安心感を提供することは可能です。
今回の実験では、中古車の購入場面における、購買意欲を調べるパターンも実施しているのですが、このとき参加者は、バニラの香りがある条件と、香りのない条件のグループに分けられました。
すると、バニラの香りのあるグループに分けられた参加者は、ジェンダーステレオタイプを喚起させられても、男性担当者に対する購買意欲が低下しなかったのです。
これは、香りによって、不安が軽減されたことが原因と考えられます。
ちなみにグレープフルーツの香りではこのような、効果は発生しないことも分かっていますので、落ち着いたフレーバーを選ぶ必要があります。
匂いに限らず、「男のイメージの商品」を女性に売るためには、安心できる環境を整えることが大切です。
参考文献:Kyoungmi Lee, Hakkyun Kim and Kathleen D. Vohs (2011), “Stereotype Threat in the Marketplace: Consumer Anxiety and Purchase Intentions.