ブランド愛着が強い顧客にインフルエンサーは逆効果

日用品から高級ファッションまで、あらゆるブランドがインフルエンサーを起用しています。

フォロワーとの強い関係性を活かし、広告よりも自然で説得力のある形でブランドや商品を紹介できる点が、インフルエンサーマーケティングの大きな強みです。

しかし、常にインフルエンサーが売上を増やしてくれるとは限りません。

ブランド愛着の強い顧客の場合、むしろ購買意欲の低下につながりかねないのです。

ブランド愛着とは

ブランド愛着とは、消費者があるブランドに対して感じる強い感情的なつながりや親密さのことです。

単なる好感や満足を超えて、そのブランドが「自分の一部のように感じられる」ほどの結びつきを持つ状態です。

「このブランドじゃないとダメ」「このブランドは私の価値観に合っている」と強く感じている消費者は、ブランド愛着が強いといえます。

研究では、こうした愛着を持つ人ほど、そのブランドに対しての忠誠心が高く、多少の欠点や失敗があっても受け入れてくれやすいことが分かっています。

さらに、ブランド愛着が強い消費者は、購買行動だけでなく、口コミの発信やブランド擁護なども積極的に行ってくれます。

その分、「裏切られた」と感じたときの反動も大きくなります。

そしてインフルエンサーの起用が、その裏切りと映ってしまうこともあります。

ブランド愛着の強い顧客はインフルエンサーの投稿で購買意欲が低下

ブランド愛着の強さとインフルエンサーマーケティングへの反応を調べた、ポートランド州立大学のカラ・ベントレー准教授らの実験があります。

この実験では消費者に、米国小売業の「TARGET」の商品(デニム)に関する投稿を見せました。

この投稿には、ブランド自身(TARGET)によるものと、インフルエンサーによるものの、2パターンがありました。

消費者はこのどちらかを見せられ、そのデニムにいくらまで払いたいかを質問されました。また、ブランドに対する愛着も測定されました。

その結果、ブランド愛着の強い人は、インフルエンサーによる投稿を見たとき、支払い金額が低くなることが分かりました。

ブランド愛着が強くない人では、どちらの投稿でも、支払いたいと思う金額に差が出ないことが分かりました。

心理的契約の違反とはなにか?

なぜブランド愛着が強い人は、インフルエンサーの投稿を見たときに、支払意欲が低下してしまうのでしょうか?

それは「心理的契約の違反」を感じるためです。心理的契約とは、暗黙のうちに期待している信頼や公平性に基づく「非公式な約束」を意味する心理学の用語です。

ブランド愛着が強い人は、そのブランドとの関係をただの買い手と売り手の関係以上に感じています。

彼らは「ブランドは自分たちのような本当のファンを公平に大事にするはず」という暗黙の期待(心理的契約)を持っています。

ところが、インフルエンサーが報酬をもらって商品を紹介している様子を見ると、それを「不公平な特別扱い」と感じてしまうのです。

その結果、裏切られた感覚や嫉妬、怒りなどのネガティブな感情が生じ、そのブランドに対して「もうお金を使いたくない」と思ってしまいます。

つまり、強いブランド愛着がある人ほど、インフルエンサー起用が「信頼の裏切り」として作用し、購買意欲を下げてしまうということです。

別の実験では、インフルエンサーが案件としてではなく、純粋に良いものとして薦めているだけの場合には、購買意欲の低下は生じないことも分かっています。

つまり「自分以外の誰かが報酬を貰った」という事実が、不公平感をもたらしているということです。

ブランド愛着が強い消費者でも、受け入れやすいインフルエンサーマーケティング

今回の実験では、ブランド愛着が強い消費者でも、受け入れやすいインフルエンサーマーケティングのパターンも分かっています。

それは、インフルエンサーに対する愛着も強い場合です。この場合には、購買意欲は低下しない傾向にありました。

これは消費者がそのインフルエンサーを「自分と近い存在」「信頼できる人物」と感じているため、不信感や嫉妬を抱きにくくなることが要因です。

むしろ「自分の好きなブランドと、自分の好きなインフルエンサーがつながっている」と受け止め、ポジティブに感じる可能性さえあります。

また、このような関係では「インフルエンサーが特別扱いされている」ではなく、「ふさわしい人がブランドの魅力を広めてくれている」と解釈されやすくなります。

そのため、心理的契約の違反という感覚も生じにくく、結果としてインフルエンサーの投稿であってもブランドの投稿と同じくらいの購入意欲が維持されるのです。

ただし、インフルエンサーへの愛着が強いからといって、支払い意欲がさらに高くなるという効果は見られませんでした。

少なくとも今回の実験では、既にブランドに強い愛着を持っている消費者にとっては、インフルエンサーマーケティングの効果が出にくいという結果といえそうです。

ファン心理まで考えた戦略を

インフルエンサーマーケティングは、うまく活用すれば強力なプロモーション手段になります。

しかし、ブランド愛着の強い顧客にとっては、使い方を間違えると信頼を損なうリスクもあります。

とくに重要なのは、「インフルエンサーが誰なのか」「世間からどう見られているのか」といった細かな点に配慮することです。

なお、研究では触れられていませんが、近年ではAI生成のバーチャルインフルエンサーも登場しており、こうした存在がブランド愛着にどう影響するのかは今後の注目ポイントです。

テクノロジーの進化とともに、インフルエンサーの定義そのものが変わりつつあります。

話題の人を起用するだけでなく、ブランドとの関係性やファン心理まで考えた、より繊細な戦略が求められます。

参考文献:Kara Bentley, Priyali Rajagopal, Katina Kulow. (2024). Unfaithful brands: How brand attachment can lead to negative responses to influencer marketing campaigns.