ハゲタカ・マーケティング!競合ブランドの撤退時にPBが顧客を奪い取るための戦略

大手企業の展開していたブランドが、市場から突然姿を消すことがあります。

経営の効率化や採算性の見直しなどが理由ですが、実はこの「競合ブランド撤退」の瞬間こそ、プライベートブランド(PB)にとって大きなビジネスチャンスなのです。

ただし、何もしなければそのチャンスはすぐに他の競合に奪われてしまいます。

実際のマーケティング研究でも、競合ブランドの撤退によって、PBが自動的に売上を伸ばすわけではないことが明らかになっています。

せっかく空いた「需要の空白」を、ハゲタカのように奪い取るにはどうすれば良いのでしょうか?

競合ブランドが撤退すると売場で何が起こるのか?

実際の小売店の販売データ10年分使って、29のブランド撤退事例を分析したノースカロライナ大学のクリストファー・ケラー准教授らの研究があります。

対象となったのはP&G、Unilever、コカ・コーラ等の大手ナショナルブランドです。

研究者たちが注目したのは、撤退ブランドと同じカテゴリーで販売されていた他のブランドの売上の変化です。

姉妹ブランド(同じ企業が持つ他ブランド)、ライバル企業のナショナルブランド、そしてPBの3種類に分類し、それぞれの売上がどう変化したのかを検証しました。

分析には「シンセティックコントロール法」という手法が使われています。

これは、撤退が起きなかったと仮定した場合の売上を再現し、実際の売上と比較する方法です。

さらに、マーケティング施策(価格、商品数、売場展開など)が売上に与える影響をコントロールするために、統計モデルを組み合わせて分析が行われました。

競合ブランドが撤退してもPBの売上は増えない

データ分析の結果、競合ブランドの撤退により、他のブンランド全体の売上は平均で約1.8%増加していました。

特に恩恵を受けたのは、撤退したブランドと同じ企業が出している姉妹ブランドで、売上は2.3%増でした。

これは、消費者が同じ企業の商品に対して信頼や親しみを持っているため、撤退ブランドの代わりとして自然に選ばれやすいことが要因といえます。

また、企業側も意図的に商品ラインを増やしたり、プロモーションを調整するなど、顧客を自社内に留める動きを取りがちなことも要因です。

次に多かったのは、ライバル企業のナショナルブランドで1.8%の増加となっていました。

対照的に、小売店のPBは大きな利益を得られていませんでした。

PBは、信頼性や品質の面で「ナショナルブランドより劣る」と見なされがちなことが原因といえます。

マーケティングを試作を展開したPBは売上が増えていた

ただし、マーケティング施策を積極的に展開していた場合には、PBでも売上増が見らました。

具体的には、商品ラインの拡張(SKU数の増加)や棚展開の強化、価格の調整などを行った場合は、売上が有意に増加していました。

商品数を増やし、店頭の露出を強化し、価格も適切に設定することで、消費者に「これなら買ってみよう」と思わせることができたのです。

つまり、競合ブランドが抜けたことで生まれた「需要の空白」に対して、分かりやすい代替選択肢を提供することが重要ということです。

逆に言えば、これらの施策を行わなければ、せっかく競合ブランドが撤退しても、PBではほとんど売上を増やせないということです。

競合ブランドの撤退時にPBが取るべきマーケティング戦略

PBがライバル撤退のタイミングで売上を伸ばすためには、どのようなマーケティング施策を取るべきでしょうか?

今回の分析では、ただ市場に存在しているだけでは売上の増加は見込めず、具体的な施策を講じた場合にのみ、成果が現れることが示されています。

以下では、特に効果が大きいとされた3つの戦略――「積極的な展開」「商品ラインの拡張」「価格戦略の見直し」について、それぞれ詳しく解説します。

1.売り場での積極的な展開

分析からも分かるように、PBは競合ブランドの撤退後に積極的な展開をすることで、売上を伸ばしています。

逆に、そのようなチャンスにもかかわらず、展開を変えなかった場合には、売上面での恩恵は期待できません。

つまり、「空いた棚」を埋める存在として、PBを戦略的に配置することが、成果の分かれ道になります。

  • 撤退ブランドが占めていた棚の位置にPB商品を配置することで、自然な代替品としての導線を確保しましょう。
  • 売場内で目立つように陳列方法を工夫することが有効です。フェイス数(棚に並ぶ面の数)を増やしたり、エンド棚(通路の端など目立つ場所)で展開することで、購買意欲を高めることができます。
  • 新規出店エリアでの先行展開や、ネットスーパー上での優先表示など、オンライン・オフラインを問わず露出を広げていくことも有効です。

2.商品ラインの拡張(SKU数の増加)

SKU(商品バリエーション)を増やした場合にも、売上が伸びることが明らかになっています。

競合ブランドの撤退によって消費者が失った選択肢の代わりになるためには、PB側から消費者に対し「こちらも選べる」と感じさせてあげることが重要です。

適切な選択肢があることで、安心感や満足感が高まりやすく、乗り換えの心理的ハードルを下げる効果も期待できます。

  • 味、サイズ、香り、形状などのバリエーションを追加し、多様なニーズに応えることで「探していた商品があった」と思ってもらえる確率が高まります。
  • パッケージデザインをリニューアルすることで、見た目の新鮮さや品質感をアピールできます。特に高級感のあるデザインは、撤退ブランドの愛用者に安心感を与える手段になります。
  • 撤退ブランドのポジショニングに近い商品を素早く開発・投入することで、そのブランドの「空席」を狙い撃ちすることが可能になります。スピード感と市場理解がカギを握ります。

価格戦略の見直し

PBは価格の安さが強みである一方、価格が安すぎると「品質が不安」という印象を持たれるリスクもあります。

競合ブランドの撤退によって購買の選択肢が減った消費者は、「次に選ぶ商品が信頼できるかどうか」を重視する傾向があります。

そのため、安さだけで勝負せず、価格設定や訴求の仕方を工夫することが重要になります。

研究では、PBでも通常価格を適切に調整した場合に、売上の増加が確認されています。つまり、ただの値下げではなく、適切な価格調整が成果を左右するということです。

  • 撤退ブランドと同程度の価格帯でプレミアムPBを設けることで、「安すぎて不安」という印象を避けつつ、「お得で良いもの」という印象を与えることができます。
  • 価格は維持したまま、期間限定のキャンペーンで「試し買い」を後押しするのも有効です。とくに撤退直後のタイミングは試用のチャンスです。
  • 価格を下げるのではなく、品質や価値を伝えるベース価格の訴求を重視します。単なる「安さ」ではなく、「これでこの価格なら納得」と思わせる見せ方が必要です。

早く動いて継続すること

今回の研究ではもう一つ、見逃せない視点が示されています。

それは、ブランド撤退の影響がすぐに表れるわけではなく、時間をかけてじわじわと売上に影響を与えるという点です。

実際、競合ブランドの撤退後の1年を通して観察されたデータでは、売上の増加が「撤退直後」ではなく「半年以上たってから」ピークを迎えるケースもありました。

つまり、椅子取りゲームは早い者勝ちであるものの、継続的な取り組みが成果につながるということです。

PBを伸ばしたい小売企業にとっては、撤退ブランドの情報にすばやく反応しながら、中長期的な視点で商品展開や棚割を見直すことが求められます。

ライバルが動かないうちに動くこと。そして動き続けること。それが、競合ブランドの撤退を自社の成長の起爆剤に変えるカギとなります。

参考文献:Kristopher Keller & Harald Van Heerde. (2024). Vulture Marketing: How Competitor Brands Can Capitalize on Brand Pullouts.