近年、多くのB2B企業がSNSをマーケティングに活用し、顧客との接点を築こうとしています。
しかし、どんな投稿が顧客の関心を引きつけ、エンゲージメントを高めるのかについては、まだ明確な答えが見つかっていないのが実情です。
企業の公式アカウントが、一方的に情報を発信するだけでは、なかなかユーザーの心をつかめません。
そんな中で目を向けたいのが、社員が個人として投稿する「社員生成コンテンツ(EGC)」の効果です。
実は企業の公式アカウントより、社員アカウントからの投稿の方が、エンゲージメントが高まることがあるのです。
社員アカウントのほうが好感度、エンゲージメントともに高い
B2B企業のソーシャルメディア投稿に対するユーザーの反応を調べた、レンヌ・ビジネススクールのバラジ・マカム准教授らの実験があります。
この実験では、SNS投稿の発信者を「企業アカウント」と「社員アカウント」の2パターンに分け、それぞれが、どれほどユーザーのエンゲージメントを引き出すか比較しました。
投稿内容は同じにして、ユーザーの関心や好意、反応意図を調べたのです。
その結果、社員アカウントの方が、興味を強く引きつけ、好感度も高くなることが分かりました。
また、投稿文の中に「詳しくはこちら」という形でURLリンクを設け、どちらの投稿からより多くクリックされるかも測定しました。
こちらでも、社員アカウントの方が多くクリックされました。
なぜ社員アカウントからの投稿が効果的なのか
社員アカウントの方がエンゲージメントを高めやすいのは、それが受け手にとって「より信頼できて、親しみを感じやすい情報」として受け取られるからです。
企業の公式アカウントは、ブランドイメージを守るために、丁寧に整えられた言葉で情報を発信することが多いです。
製品やサービスについて正確で詳細な説明がなされる一方で、投稿は形式的になりやすく、企業側の意図や販売目的が前面に出てしまいがちです。
その結果、読み手が「売り込み」や「広告」として受け取ってしまい、感情的なつながりが生まれにくくなるのです。
これに対して、社員アカウントの投稿は、より自然で個人的な語り口になることが多いです。
社員自身の視点や経験を通じて語られることで、投稿内容に現実味や具体性が加わり、「本音が伝わってくる」と感じさせるのです。
たとえば、実際の業務での気づきや顧客とのやり取り、プロジェクトの裏話などが含まれていれば、読み手はその内容を「中の人」からの率直な情報として捉えることができます。
このとき、読み手は投稿内容そのものに対して「この情報は信頼できそうだ」と感じるだけでなく、発信している社員本人に対しても「この人なら信用できる」「話してみたい」といった親近感を抱きます。
こうした感情が、投稿に対するコメントや「いいね」、リンクのクリックなどの具体的な行動、すなわちエンゲージメントへとつながっていくということです。
B2B企業がSNSをマーケティングに活用して成果を上げるためには、従来の一方向的な情報発信だけでは不十分です。
エンゲージメントを高め、顧客との関係性を深めていくためには、伝え方そのものを見直す必要があります。
特に、誰が情報を発信するのか、どのような語り方をするのかといった「メッセージの届け方」が重要なポイントになります。
では、具体的に企業はどのような工夫をするべきなのでしょうか。
ここでは、実際の顧客との接点を持つ社員の力を活かした発信戦略を中心に、B2B企業のSNSマーケティングをより効果的にするための取り組みをご紹介します。
1.「共感される語り口」を重視する
社員による発信を促す場合には、ただ情報を出せばよいというわけではありません。
専門的な話や技術的な内容であっても、自分自身の体験や考えを交えた語り口にすることで、読み手の共感を得やすくなります。
難しい言葉を避けたり、少しくだけた表現を使ったりすることで、堅苦しくない印象を与えることができます。
そうした工夫によって、投稿が一方通行の情報ではなく、人と人とのコミュニケーションとして機能するようになります。
2.情報の役割に応じて発信元を使い分ける
研究によると、企業としての正式な見解や数値データ、技術的な情報などを発信する場合には、企業アカウントの方が信頼されやすいことが分かっています。
こうした情報は正確性や一貫性が求められるため、企業としての立場で伝えることに意味があります。
一方で、顧客との関係構築や、ブランドに対する信頼感を醸成することを目的とする投稿では、社員の声の方が効果的です。
伝える内容に応じて、どちらの発信元が適しているのかを見極め、戦略的に使い分けていくことが求められます。
3.社員に発信しやすい環境を整える
社員の情報発信を促すためには、本人任せにするのではなく、社内での支援体制が必要です。
たとえば、投稿のガイドラインを用意したり、SNSでの発信例を共有したりすることで、不安なく投稿できる環境をつくることができます。
また、投稿内容を評価する文化や、優れた発信を社内で紹介する取り組みも、社員のモチベーションを高めるうえで有効です。
会社として信頼して発信を任せる姿勢を示すことが、発信の質にもつながります。
企業全体の信頼性やブランドイメージも向上する
社員による情報発信は、社外だけでなく社内にも良い影響を与えます。
自分の言葉で会社の魅力を伝えることで、仕事への誇りや当事者意識が高まるからです。そうした姿勢は、組織全体の活気にもつながります。
さらに、社員がSNSを通じて専門性を発信することで、企業全体の信頼性やブランドイメージも自然と向上していきます。
これは、採用やパートナーシップの面でもプラスに働く可能性があります。
SNSをただの情報発信ツールと考えるのではなく、人と人のつながりを育てる場として活用することが、これからのB2Bマーケティングでは欠かせないのです。
参考文献:M.S. Balaji, Abhishek Behl. (2023). Effectiveness of B2B social media marketing: The effect of message source and message content on social media engagement.