広告効果を左右するのはサイト品質?最新研究が示すプログラマティック広告のリスク

インターネット広告の多くは、今や自動的に取引される仕組みで動いています。いわゆるプログラマティック広告は、広告枠をオークションのように瞬時に購入できるため、効率的に広告を配信できると注目されてきました。

複雑な手作業をしなくてもターゲットに届きやすいことから、多くの企業が活用しています。

しかし便利さの裏側には、見過ごせない課題も存在します。

その一つが「どのサイトに広告が掲載されるか分からない」という問題です。

例えば、自社のブランド広告が信頼性の低いサイトや不適切なコンテンツの横に表示されてしまうと、広告主が意図しないイメージダウンにつながる可能性があります。

過去には、大手動画配信サービスで不適切な動画の横に広告が掲載され、批判を浴びた事例も報告されています。

このような現象は一般に「ブランドセーフティの問題」と呼ばれます。ブランドセーフティは広告主にとって大きな関心事であり、広告代理店やプラットフォームも対策を強化してきました。

しかし、ブラックリストやホワイトリストを作るといった対応は限界がありますし、本当に効果があるのかどうかを疑問視する声もあります。

では、実際のところ広告の成果は「サイト品質」によってどれほど左右されるのでしょうか。

プログラマティック広告に潜むリスク

広告枠は「プレミアム」か「ノンプレミアム」か

広告が表示されるサイトは、大きく二つに分けられます。大手のニュースメディアや有名なコンテンツサイトなど、編集体制やブランド力がしっかりしたサイトは「プレミアムサイト」と呼ばれます。

一方で、小規模なサイトや、ユーザーが自由に投稿できるプラットフォームなどは「ノンプレミアムサイト」と位置づけられます。

プログラマティック広告では、こうした区別を問わず自動的に広告が配信されるため、広告主は望まない場所に広告が出てしまうことがあります。

ノンプレミアムサイトに広告を出すことで、コストを抑えて大量に露出を得られるというメリットはありますが、それが本当にプラスに働くのかどうかは不透明です。

実務で広がる「直感ベースの判断」

現場では、「ブランディング目的の広告ならプレミアムサイトに出すべき」「パフォーマンス目的、つまりクリックや購入を狙う広告ならサイト品質は関係ない」といった通念が広がっています。

こうした判断は一見合理的に思えますが、あくまで経験則や直感に基づいている部分が多く、科学的な裏付けがあるわけではありませんでした。

最新研究が検証した「サイト品質の効果」

研究の概要

ここで注目すべきなのが、コペンハーゲン・ビジネススクールのエドリラ・シェフ教授らによる研究です。教授らは、広告が配信されるサイトの品質が、広告効果に具体的にどのような影響を与えるのかを2つの研究から検証しました。

まず一つ目は、ブランディング広告を対象にした調査です。2012年に大手動画共有プラットフォームで配信されたプレロール広告を用い、約5,000人のユーザーを対象にしました。広告はプレミアムチャンネルとノンプレミアムチャンネルの両方で流され、視聴者に対してブランド想起や広告への好意度、ブランドへの好意度を測定しました。

二つ目は、パフォーマンス広告に関する実証分析です。2015年にヨーロッパの大規模アドエクスチェンジで配信された3億件を超えるインプレッションをデータとして利用しました。対象となったのは14のブランドで、プレミアムブランドとノンプレミアムブランドの両方が含まれています。広告はプレミアムサイトとノンプレミアムサイトに出稿され、クリック数の違いを分析することで効果を比較しました。

この二段階の研究によって、ブランドの種類とキャンペーンの目的を掛け合わせ、サイト品質が広告効果に与える影響を多面的に捉えることが可能になりました。

主な結果

結果は直感と一致する部分もあれば、意外な発見もありました。

ブランディング広告では、まずブランド想起にはサイト品質の差は見られませんでした。つまり、広告を見たことを思い出せるかどうかは、どのサイトで見たかには左右されなかったのです。

一方で、広告やブランドへの好意度には明確な違いが出ました。特にプレミアムブランドの場合、ノンプレミアムサイトに広告が出ると評価が大きく低下しました。逆にノンプレミアムブランドは影響を受けず、態度面のリスクは確認されませんでした。

パフォーマンス広告ではさらに顕著な差が見られました。ノンプレミアムサイトに掲載された広告はクリック率が下がり、特にプレミアムブランドでは6割以上の減少という強い負の効果が出ました。ノンプレミアムブランドでもクリック率は下がりましたが、影響の大きさはプレミアムブランドほどではありませんでした。

この結果は、認知よりも態度や行動にこそサイト品質の影響が強く表れることを示しています。

広告戦略への示唆

ブランディング広告の場合

ブランドの格が高いほど、ノンプレミアムサイトに出稿するリスクは大きいといえます。好意度の低下はブランド価値を損なう可能性があり、短期的なコスト削減よりも長期的なブランド保護を優先すべきです。

一方で、ノンプレミアムブランドの場合は状況が異なります。態度に悪影響が見られないため、コスト効率を重視して幅広く露出する選択肢が現実的です。特に認知度が低い段階では、ノンプレミアムサイトの活用が有効になる可能性があります。

パフォーマンス広告の場合

多くの実務では「クリックを狙うキャンペーンならサイト品質は関係ない」と考えられてきました。しかし研究結果はそれを否定しました。

プレミアムブランドでもノンプレミアムブランドでもクリック数は減少しており、特にプレミアムブランドにとっては深刻な影響です。

つまり、パフォーマンス広告においても、どのサイトに出すかを無視することはできないという結論になります。

これからの広告運用で考えるべきこと

今回の研究は、プログラマティック広告におけるサイト品質の重要性を改めて示しています。キャンペーンの目的やブランドの性質に応じて、出稿戦略を調整することが欠かせません。

また、GoogleによるサードパーティCookieの制限など、ターゲティング環境が大きく変化するなかで、広告が掲載される文脈やサイトの品質はこれまで以上に注目される要素となるでしょう。

単に安いインプレッションを追い求めるのではなく、長期的なブランド価値や広告効果を見据えた判断が求められています。

AIと透明性が変えるこれからの広告環境

プログラマティック広告の配信はアルゴリズムによって自動化されていますが、その仕組みがブラックボックス化していることが少なくありません。

広告主が「なぜそのサイトに表示されたのか」を理解できないまま出稿が進むこともあり、意思決定の透明性が課題となっています。

最近ではAIが広告配信に深く関わるようになり、より精緻なターゲティングやリアルタイムでの最適化が可能になっています。これにより、従来よりも効率的にユーザーへリーチできる反面、アルゴリズム任せにするリスクも拡大しています。

特にブランドイメージに直結する分野では、人の判断をどこまで介在させるかが重要なテーマになっています。

また、社会的な観点からは「広告が低品質なコンテンツを経済的に支えてしまう」問題も指摘されています。広告費が誤情報サイトや極端な内容を発信する場に流れることで、結果的に情報環境の健全性が損なわれる恐れがあるのです。

広告出稿は単なる企業活動にとどまらず、社会全体の情報流通にも影響を与えるという点を意識する必要があります。

参考文献:Shehu, Edlira and Abou Nabout, Nadia and Clement, Michel, The Risk of Programmatic Advertising: Effects of Website Quality on Advertising Effectiveness (October 21, 2020). International Journal of Research in Marketing.