インフルエンサーとセレブリティ、Instagramで効果が高いのはどっち?実験が示す答え

SNSは今や商品やサービスの認知拡大に欠かせない存在となっています。しかし多くの企業がSNSを活用する中で、消費者は大量の広告に触れる環境に置かれています。

その結果、広告を避けたり無視したりする人が増え、従来の広告手法では期待した成果を得にくくなっています。

こうした状況で注目されているのが「誰が商品を紹介するのか」という視点です。これは広告メッセージそのものの内容だけでなく、発信する人物の信頼性や親近感が購買行動に影響するという考え方に基づいています。

消費者が特定の人物に対して好意的な感情を持っていると、その人が発信する情報を受け入れやすくなるのです。

インフルエンサーとセレブリティの違い

SNS上でブランドが協力する人物には大きく分けて二つのタイプがあります。それがインフルエンサーとセレブリティです。

インフルエンサーとは、特定の分野において影響力を持ち、SNSを通じてフォロワーと活発に交流している人のことです。

たとえば美容やファッションに詳しいインフルエンサーは、自身の体験や専門的な知識を日々発信しており、その分野に関心のあるフォロワーから強い信頼を得ています。

一方でセレブリティとは、映画やテレビ、スポーツといった伝統的なメディアで有名になった人を指します。大衆的な認知度が高いため、多くの人に短時間でメッセージを届けられるのが強みです。

両者を比較すると、インフルエンサーは専門性とフォロワーとの距離の近さが特徴で、セレブリティは知名度の高さが武器になります。

ただし起用コストやブランドへの適合度(人物と商品がどの程度自然に結びつくか)には大きな差があり、この点が成果を分ける可能性があります。

Instagramユーザーのエンゲージメント行動

Instagramにおける代表的なエンゲージメントの形は「いいね」と「シェア」です。

いいねは投稿への共感や好意を簡単に表現する手段であり、シェアはその投稿を他者に広める行動を意味します。どちらも企業にとってはブランド認知や購買意欲に直結する重要な指標です。

ただし、誰もが同じように行動するわけではありません。Instagramの利用に積極的な人、つまり投稿や閲覧を頻繁に行う人は、自分が信頼する人物の投稿を強く支持する傾向があります。

これを専門的には「関与度」と呼びます。

ここで関与度という言葉を説明する理由は、単に利用時間の長さではなく、どれだけそのプラットフォームに感情や行動を投資しているかという質的な側面を含んでいるためです。

関与度が高い人は、新しい情報を受け入れやすく、自分のネットワークに広めることにも積極的です。一方で関与度が低い人は、興味を示す範囲が限られ、投稿を流し見することが多い傾向があります。

最新研究が示す「インフルエンサー vs セレブリティ」の効果

SNS上で誰を起用すべきかという問いに答えるために、アサンプション大学の研究者らによる検証が行われました。研究者たちはインフルエンサーとセレブリティのどちらがInstagramでより効果的にエンゲージメントを生み出すのかを調べました。

研究デザイン──誰にどんな投稿を見せたのか

調査対象は大学に通う258名の女性でした。被験者には、特定の商品を宣伝するInstagramの投稿を見せました。

投稿は二種類あり、一つはインフルエンサーが商品を紹介するもの、もう一つはセレブリティが同じ商品を紹介するものです。対象商品はシャンプーや日焼け止めなど日常的に使うアイテムでした。

このように投稿を比較することで、人物の違いによる反応の差を明確に捉えられるように設計されていました。

測定された指標──適合度、関与度、エンゲージメント

被験者が投稿をどのように受け止めるかを測定するために、いくつかの指標が設定されました。第一に「適合度」です。これは人物と商品がどれだけ自然に結びついているかという評価です。

次に「関与度」です。これはInstagramをどの程度積極的に利用しているかを示す指標で、単に使う頻度だけではなく、コメントやフォロー、投稿といった多面的な活動を含みます。

さらに、実際の行動意欲として「いいねを押したいか」「シェアしたいか」という二つの反応が測定されました。

結果の要点──インフルエンサーの方が「いいね」「シェア」で優位

結果は明確でした。インフルエンサーが商品を紹介した投稿の方が、セレブリティによる投稿よりも「いいね」や「シェア」をしたいという意欲が有意に高かったのです。

さらに、Instagramを熱心に使っている人ほどインフルエンサー投稿に強く反応する傾向が見られました。一方で、利用頻度が低い人はセレブリティ投稿に対して相対的に好意的な反応を示しました。

この結果から分かるのは、フォロワーとの距離が近く専門性を持つインフルエンサーの方が、Instagram上でエンゲージメントを生みやすいということです。

SNS施策を成功に導く三つの実践視点

1.ブランドとインフルエンサーの「フィット」が最重要

インフルエンサーを起用すること自体が目的になってしまうと、成果は限定的になります。大切なのは、商品やブランドの特性と発信者の専門性・キャラクターが一致しているかどうかです。

たとえばスキンケアブランドが美容系インフルエンサーと組むのは自然ですが、同じ商品をスポーツ系インフルエンサーが紹介した場合、消費者に違和感を与える可能性があります。

この「フィット感」が高いと、投稿が単なる広告ではなく日常的な推薦として受け止められるため、共感が高まりやすいのです。

2.高関与ユーザーを意識したキャンペーン設計

Instagramを頻繁に利用し、情報発信や交流に積極的な人は、フォロワーとの距離が近いインフルエンサーを通じて大きな影響を受けます。

この層を狙ったキャンペーンでは、単発の投稿よりも継続的なコラボレーションやストーリーズでの実体験シェアが効果を高めます。

高関与ユーザーは自身のネットワークに情報を広めやすいため、口コミ的な波及効果を期待することができます。

3.セレブリティ起用が有効になる条件とは?

一方で、セレブリティの活用は依然として重要な戦略になり得ます。とくにInstagramへの関与度が低い層に向けて、幅広い認知を一気に獲得したい場合には有効です。

新商品の発売時にテレビ出演や雑誌広告と組み合わせてセレブリティを起用すれば、SNSだけに留まらない大規模な露出が可能になります。

つまりセレブリティは「広げる力」、インフルエンサーは「深める力」を持っていると捉えると、それぞれの役割を明確に位置付けやすくなります。

マイクロインフルエンサーとアルゴリズムの関係

ここまで紹介してきた研究は、インフルエンサーとセレブリティを大きく二分して比較していました。しかし現場では、さらに細かい分類が重要になりつつあります。

その一つが「マイクロインフルエンサー」です。

マイクロインフルエンサーとは、数千から数万人規模のフォロワーを持つ比較的小規模な影響力者のことを指します。マイクロインフルエンサーはフォロワーとの距離が近く、コメントやDMなど直接的な交流を活発に行っています。その結果、エンゲージメント率が高くなる傾向が報告されています。

また、Instagramのアルゴリズムの観点からもこの現象は注目に値します。アルゴリズムは投稿への反応が高いアカウントを優先的に表示する傾向があります。つまり、フォロワー数の多さよりも、反応の濃さが拡散に直結しやすいのです。マイクロインフルエンサーの起用は、この点で合理的な戦略になり得ます。

加えて、セレブリティや大規模インフルエンサーに比べて起用コストが低いため、複数人を同時に起用する「分散型アプローチ」も可能です。これは一度に異なるコミュニティにアクセスできるというメリットを生みます。

つまり、SNS施策を考える際には単純な「インフルエンサー vs セレブリティ」という二者択一だけでなく、「マイクロ規模の影響力をどう組み合わせるか」という新しい選択肢も重要なポイントということです。

参考文献:Arash Ahmadi, Siriwan Ieamsom; Influencer fit post vs celebrity fit post: which one engages Instagram users more?. Spanish Journal of Marketing – ESIC 5 May 2022; 26 (1): 98–116.