ユーザー生成コンテンツ(UGC)がオンライン購買に与える心理的効果

オンラインで商品やサービスを選ぶとき、多くの人は企業が発信する広告よりも、実際に利用した人のレビューやSNSでの体験談を参考にしています。

これらの投稿はユーザー生成コンテンツ(UGC)と呼ばれ、今や購買行動に欠かせない存在となっています。

なぜUGCは購買に影響を与えるのか

従来型広告とUGCの信頼性の違い

従来の広告は、企業の一方的な情報発信にとどまることが多く、消費者はその信憑性を疑う傾向があります。

これに対してUGCは、同じ立場の利用者が自発的に発信する情報であるため、より客観的で信頼できるものとみなされやすいのです。

また、情報過多の時代において、消費者は「誰が言っているか」を重視します。企業ではなく「実際のユーザー」であることがUGCの強みといえます。

心理的メカニズムとしての社会的証明と共感

UGCが購買行動に影響する背景には、心理学的な原理が働いています。

その一つが社会的証明です。多くの人が購入した、評価したという情報は「自分も選んでよい」という安心感を与えます。

さらに、実際の利用体験が語られることで「自分と似た状況の人が満足しているなら、自分にも役立つはずだ」という共感が生まれます。

こうした共感や安心感が、購買意図を後押しするのです。

UGCが影響を与える4つの要因

1.ブランド・エンゲージメント

ブランドに対して関心や愛着を持つ人は、そのブランドに関するUGCを積極的に読み、または発信します。エンゲージメントが高まることで、UGCは単なる情報ではなく、自分とブランドをつなぐ体験として意味を持つようになります。

2.知覚された信頼性

UGCが信頼できると感じられるかどうかは、購買意図に直結します。投稿が誇張されていないか、偏りがないか、書き手が実際の利用者であるかといった要素が、信頼性の判断に影響します。

3.知覚された便益

消費者は、UGCが自分の購買判断に役立つと感じたときに価値を見出します。比較情報、注意点、リアルな使用感など、便益が明確なUGCは購買を後押しする力を持っています。

4.情報の質

情報が明確で、分かりやすく、具体性があるかどうかも重要です。たとえば「使いやすい」だけでなく「具体的にどの点が使いやすいのか」を説明するUGCは、情報の質が高いと評価され、購買意図につながりやすくなります。

研究で明らかになったUGCの心理的効果

研究の概要

ユーザー生成コンテンツがどのように購買意図に影響を与えるのかを検証したライスト大学のスムリティ・マサー博士らの研究があります。

この研究は消費者260名を対象に行われたものです。測定したのは、ブランド・エンゲージメント、知覚された信頼性、知覚された便益、情報の質といった要因で、それぞれが消費者の態度や購買意図に与える影響を分析しています。

分析手法には構造方程式モデリングが用いられ、単純な相関関係ではなく、要因が直接的に作用するのか、それとも態度を媒介して間接的に作用するのかが精密に検証されました。

これにより、単なる「UGCが購買に効く」という一般論を超えて、その背後にある心理プロセスを明らかにしようとしたのです。

主な結果

調査の結果、4つの要因はいずれもUGCに対する態度に有意な正の影響を持つことが確認されました。

具体的には、ブランドへの関わりが強い人ほどUGCを肯定的に受け止め、情報の信頼性や質を高く評価した人ほどUGCを参考にする傾向が見られました。

そして最も注目すべき点は、消費者のUGCに対する態度そのものが購買意図を強力に予測していたことです。

ブランド・エンゲージメントや信頼性、便益、情報の質は、それ自体では購買意図を直接的に押し上げることはありませんでした。

しかし、これらがUGCへの態度をポジティブに変えることで、その態度を経由して購買意図が高まるという構造が明らかになりました。

つまり、UGCは「購買意図を媒介する心理的な要因」として中心的な役割を果たしているのです。

実務への示唆

この結果から導かれる示唆は明確です。企業やブランドは、ただ商品情報を発信するだけでは十分ではなく、消費者がUGCに対して好意的な態度を持てるように工夫する必要があります。

例えば、投稿の信頼性を高める仕組みを整えること、あるいはわかりやすく質の高い体験談を増やすことです。

そうしたUGCが消費者に前向きに受け止められれば、最終的に購買意図の向上につながることが期待できます。

マーケティング戦略への応用

レビューや体験談を促す仕組み作り

レビュー投稿をしやすい環境を提供することは、UGCを増やす第一歩です。

購入後のフォローアップメールでレビューを依頼する、アプリやECサイトにワンクリックで投稿できる仕組みを設けるなど、小さな工夫がUGCの量を大きく左右します。

さらに、投稿に対してポイント付与やクーポンを提供するといったインセンティブも有効です。自然発生的に体験を共有できる雰囲気をつくることが、消費者の購買判断に役立つ豊富なUGCの蓄積につながります。

信頼性を高める運営の工夫

UGCの価値を左右するのは、その信頼性です。

偽レビューややらせ投稿が紛れ込むと、全体の信用が損なわれてしまいます。そのため、投稿者が実際に購入したかを確認する仕組みや、不適切な投稿を早期に発見するモデレーションの導入が重要です。

また、運営側が「不正レビューは排除する」という姿勢を明示することも、利用者に安心感を与えます。

コンテンツの質を高める支援

レビューがテキストだけでなく写真や動画を伴う場合、情報の具体性と説得力は飛躍的に高まります。

商品のサイズ感や使用シーンが視覚的に伝わることで、消費者は自分が使用する場面をより鮮明に想像できます。

企業としては、写真投稿を推奨したり、動画レビューを歓迎する仕組みを整えることで、情報の質を高めることが可能です。

このようなリッチなUGCは消費者の購買意図をさらに強く後押しします。

UGCの影響は世代や文化で変わる?

UGCの心理的効果は、消費者全体に共通する一方で、世代や文化的背景によっても違いが生まれると考えられます。

例えば、デジタルネイティブ世代はSNS上の投稿を日常的に消費しており、UGCに触れる頻度が高いことから、購買行動への影響もより直接的になりやすい傾向があります。

一方で、情報リテラシーが高い層はUGCに対して批判的に読み解く力を持っており、投稿の信頼性を慎重に見極めようとします。このように同じUGCであっても、誰が受け取るかによって心理的な効果が変化するのです。

また、文化的な要因も無視できません。集団主義的な文化では「他者の意見に従う安心感」が強く働きやすく、UGCの影響力は相対的に大きくなると考えられます。逆に、個人主義的な文化では「自分の判断を補強する材料」としてUGCが機能することが多いかもしれません。

このような違いを踏まえると、UGC活用においては一律の戦略ではなく、ターゲット層の世代や文化的背景に応じた調整が求められるといえます。

グローバルに展開するブランドであれば、国や地域ごとにUGCの受け止められ方を分析し、それぞれの消費者に響く形で設計することが重要になります。

参考文献:Mathur, S., Tewari, A., & Singh, A. (2021). Modeling the Factors affecting Online Purchase Intention: The Mediating Effect of Consumer’s Attitude towards User- Generated Content. Journal of Marketing Communications, 28(7), 725–744.