商品にタグを付けすぎると逆効果?オンライン小売の落とし穴

オンラインで商品を探すとき、多くの人は検索窓にキーワードを入力します。

そこから表示される候補が購入の出発点になるため、商品が検索結果に現れるかどうかは販売に直結します。そのため、商品を登録する際に「タグ」を付けることは当たり前の作業になっています。

「和食」「低カロリー」「時短」といった料理レシピのタグや、「スポーツ」「パズル」「RPG」といったアプリのジャンル分けなど、私たちは日常的にタグに導かれて商品を見つけています。

そして多くの場合、より多くのタグを付けるほど露出度が上がり、売上にもつながるという考え方が浸透しています。

しかし、この「タグは多いほど良い」という直感は必ずしも正しくありません。

むしろ、タグを増やしすぎることが消費者の期待を裏切り、結果として評価や評判を下げる可能性があります。

タグの役割とメリット

タグの役割はシンプルに見えて、多面的です。

まず、検索エンジンやプラットフォームのアルゴリズムに対して商品を「分類」する役割があります。これによって消費者が入力したキーワードと商品がマッチしやすくなり、検索結果に表示されやすくなります。

また、タグは消費者にとってのナビゲーションでもあります。たとえば「ローファット」というタグが付いた食品を探している人は、そのタグがあるだけで安心してクリックできます。つまりタグは一種の信号であり、商品を選ぶ手がかりとして機能します。

さらに、タグの数が多いほど露出の機会が増えるため、レビュー数やクリック数も増えると期待されます。その結果、信頼性が高いと感じられ、購入へのハードルも下がると考えられてきました。

こうした点から、商品登録やコンテンツ配信の場では「可能な限り多くのタグを付ける」ことが推奨されてきたのです。

タグを増やすことの潜在的リスク

一見すると、タグを増やすことはメリットばかりに思えます。しかし、そこには見過ごされがちなリスクが潜んでいます。

最大のリスクは「消費者の期待と商品の実際の特徴のずれ」です。

検索から商品にたどり着いた人は、そのタグから一定の期待を抱いて商品を選びます。ところが、そのタグが商品の本質とはズレていた場合、消費者は「思っていたのと違う」と感じ、失望につながります。

この失望は単なる不満にとどまらず、レビューや星の数といった公開評価に反映されます。商品に多くの人がアクセスしても、その評価が低ければ新規の購入者は二の足を踏みます。

つまり、タグの数を増やして露出度を高めても、その後の評価低下によって販売全体にマイナスの影響を与えかねないのです。

「タグの多さ=成功」という単純な図式は、必ずしも正しくないということです。

実証研究から見えた「タグの落とし穴」

エセック経済商科大学院大学のアミール・セペリ博士らの研究では、タグ数と消費者評価の関係が体系的に検証されています。

研究は6つの異なる領域を対象としました。具体的には、料理レシピサイト、モバイルゲームアプリ、書籍レビュー、YouTube動画、学術論文、そしてオンライン実験です。

これらはいずれも消費者が商品やコンテンツを「タグを手がかりに探す」という共通点を持っています。

検証結果は一貫していました。タグが多いほど、確かに「露出度」は増えます。検索に引っかかる回数が増えるためです。

しかし同時に「消費者の評価」は下がる傾向が明確に現れました。

研究者たちは「間接的なプラス効果(露出増によるレビューやアクセス増)」よりも、「直接的なマイナス効果(期待外れによる低評価)」のほうが強く作用することを確認しました。

つまり、多くのタグを付けることは短期的には人目に触れる機会を増やしますが、長期的には商品の信頼や評価を損ないやすいということです。

複数タグが読者を失望させる瞬間

具体的な例を考えてみましょう。

たとえば、ある小説に「スリラー」「アクション」「SF」「恋愛」と複数のタグを付けたとします。

スリラーを好む読者は、その要素を中心に楽しめるかもしれません。しかし、恋愛を期待して購入した読者がページをめくったとき、恋愛要素がごくわずかしか描かれていなければどう感じるでしょうか。多くの場合「期待と違った」という不満に結びつきます。

こうした不一致はレビューに反映され、星の数やコメントの内容に影響します。つまり、タグが多いほど多様な人を呼び込める一方で、その多様性が「誰かにとっての失望」を生みやすくしてしまうのです。

結果的に、平均評価は下がりやすくなり、初めてその商品ページに訪れた人は低評価を目にして購入をためらう可能性が高まります。

タグを増やすことで入り口は広がるものの、出口での離脱を招くという矛盾した構造が生まれるのです。

短期の露出か、長期の信頼か

この知見は実際の商品登録やコンテンツ運営に大きな示唆を与えます。

従来は「タグは多ければ多いほど良い」と信じられてきました。しかし、研究の結果を踏まえると、無闇にタグを増やすのはリスクを伴うことが明らかです。

特に、レビュー評価や星の数が売上に直結する市場では、過剰なタグ付けがブランド価値や信頼を損なう危険があります。一度低評価が定着すると挽回は難しく、短期的な露出増加よりも長期的なダメージのほうが大きくなります。

したがって、最も重要なのは「関連性の高いタグを少数選ぶこと」です。消費者の期待を的確に誘導できるタグだけを付与することで、不一致を最小化し、満足度を守ることができます。

タグの選定は単なる入力作業ではなく、商品の魅力を正しく伝えるための戦略的判断であるべきなのです。

タグを選ぶときの3つの視点

理論や研究結果を理解したうえで、実際にどのようにタグを活用すべきかを考えてみましょう。以下のような観点で点検すると効果的です。

  • 消費者の検索意図との整合性
    タグを付ける際には「このタグから来た人が満足できるか」を常に意識する必要があります。魅力的に見えても、商品内容と乖離したタグは避けるべきです。
  • 商品のコア特性を反映しているか
    多角的な表現よりも、本質を捉えたタグの方が長期的には信頼を得やすいです。例えばレシピなら「低糖質」「グルテンフリー」など、消費者の健康志向と直結するものを選ぶと効果的です。
  • タグ同士の関連性
    相反するようなタグを並べると、消費者の期待を混乱させます。「スピード調理」と「本格的手間ひま」といった相反する言葉は両立させない方が無難です。

さらに実践的な方法としては、A/Bテストを通じてタグ数や種類を変えた商品ページを比較し、クリック率や購入率、レビュー評価の推移を観察することが挙げられます。

データを蓄積すれば、自社の商品にとって最適なタグの付け方が徐々に見えてくるでしょう。

商品ジャンルごとの効果の違い

今回紹介した研究は、レシピやゲーム、本、動画、論文といった「体験型商品」に焦点を当てていました。これらは消費者が期待と体験を照らし合わせて評価する性質が強いため、タグによる不一致が鮮明に表れます。

一方で、家電や日用品のように物理的な性能がはっきりしている商品では、同じ効果がどの程度生じるのかはまだ十分に検証されていません。タグが「スペック情報」に近い役割を果たす場合には、負の影響は小さいかもしれません。

また、消費者の特性や文化的背景によっても結果は異なる可能性があります。情報を深く吟味する人と、直感的に判断する人では、タグに対する反応が変わるでしょう。

つまり、タグ戦略は一律ではなく、市場や顧客層の特性を考慮しながら調整する必要があるのです。

参考文献:Amir S. 2021. Too Much of a Good Thing? The Unforeseen Cost of Tags in Online Retailing