ネット通販や旅行予約サイトでは、レビューが消費者の判断材料の中心になることも少なくありません。しかし、すべての購入が同じようにレビューに左右されるわけではありません。
消費者行動の研究によれば、家電や家具といった物質型消費ではレビューが意思決定に強く影響を与えるのに対し、レストランや旅行、イベントなどの体験型消費ではレビューが与える影響が弱いことが分かっています。
なぜこのような違いが生じるのでしょうか?
それは、物質的な製品は性能や機能といった客観的に比較しやすい要素が多いため「レビューが品質を伝えている」と信じやすいのに対し、体験は人によって感じ方が異なり「他人の意見が自分に当てはまるとは限らない」と考えられやすい、という心理的な違いがあるからです。
否定的なレビューを見ると選択を変えるのか?実験
レビューの影響力を調べたUCLAのヘンチェン・ダイ准教授らの実験があります。
この実験では参加者に2つのアイスクリームメーカーを提示し、どちらの製品が良いか選ばせました。その後で、自分が選んだ製品に対する否定的なレビューを見せました。
それから再び選択させたところ、参加者の52%が最初の選択を変えました。
今度は、アイスクリーム店を選ばせる同様の実験をしたところ、選択を変えた参加者は35%しかいませんでした。
つまり、物質型消費(アイスクリームメーカー)では他者のレビューを参考にする人が多いのに対し、体験型消費(アイスクリーム店)では他者のレビューを参考にする人が少ないということです。
体験は主観、モノは客観――レビューが作用する心理メカニズム
実験のような結果となった理由は、人々が「モノ」と「体験」を評価するときに用いる基準の違いにあります。
アイスクリームメーカーのような「モノ」は、性能や使いやすさなど客観的に判断できる要素が多いと考えられます。
そのため「レビューは製品の客観的な品質を伝えている」と信じやすく、他人の意見を参考にする価値が高いと感じるのです。すると、否定的なレビューに直面したとき、自分の選択を見直す可能性が高まるということです。
一方で、「体験」は人によって感じ方や好みが大きく異なるものと考えられやすいため、他人のレビューを読んでも「自分に当てはまるとは限らない」と受け止められやすいのです。
ある人にとってアイスクリーム店が退屈でも、別の人にとっては楽しく思い出に残るかもしれません。そのため、レビューを読んでも自分の選択を変える動機になりにくいということです。
つまり、物質型消費ではレビューが客観的事実に近いと考えられるため影響が大きく、体験型消費ではレビューが主観的な感想とみなされやすいため影響が小さいという違いが、実験のような結果を生んでいるのです。
企業が取るべきレビュー戦略
今回の研究では、Amazonに投稿された約650万件のレビュー分析も行っていますが、物質型消費といえる製品に投稿されたレビューほど、「役に立った」ボタンが押されやすいことが分かっています。物質型消費においては他者の意見を参考にしている消費者が多いということです。これらの知見も踏まえて企業が取るべき施策を説明します。
モノを扱う企業の戦略
物質型の商品では、消費者がレビューを強く参考にする傾向があるため、レビューの数と評価の管理が特に重要です。まず、ポジティブなレビューを増やすために、インセンティブを用意して購入者のレビュー投稿を促すなど、システマチックにレビュー数を増やす仕組みを導入するべきです。
さらに、レビューの中身を整理・可視化する取り組みも効果的です。例えば、星評価だけでなく「耐久性」「デザイン」「操作性」といった項目ごとにまとめて表示すれば、レビューが製品の客観的な品質を反映していることを強調できます。こうすることで、消費者の信頼をさらに強固にできます。
体験型サービスを扱う企業の戦略
体験型の商品やサービス(旅行、レストラン、イベントなど)では、レビューの影響力が相対的に弱いことがわかっています。そのため、企業は単にレビュー数を増やすだけでなく、レビューの内容を工夫する戦略が重要です。
具体的には、レビューに「サービスの客観的側面」を盛り込むよう促すことが効果的です。例えば、レストランであれば料理の待ち時間や席の広さ、音楽の音量など、誰にとっても比較可能な要素に言及してもらうよう工夫できます。
これにより、消費者が「レビューは主観的な感想ではなく、品質の一部を客観的に示している」と受け止めやすくなり、レビューの影響力を高められます。
また、企業自身が公式サイトや販促資料に客観的な品質指標(例:年間来店者数、受賞歴、シェフの経歴など)を示すことで、レビューに頼らずとも安心感を与えることが可能です。
多様化する情報源と統合的レビュー戦略の必要性
近年はSNSや動画サイトの口コミ、インフルエンサーの発信、さらにはライブ配信での体験共有など、従来のテキスト型レビューを超えた多様な情報源が購買行動に影響を与えています。
こうした状況では、企業はレビュー戦略を単独で運用するのではなく、複数のチャネルを有機的に連携させ、全体的な顧客体験をデザインする姿勢が求められます。
例えば、体験型サービスでは動画やSNS上のリアルな共有をレビューと補完的に活用し、物質型商品では数値的な比較や専門家の評価と組み合わせるといった工夫が考えられます。
レビューの有効性を高める取り組みは、単なる販売促進の域を超えて、顧客に安心感を与え、ブランドへの信頼や愛着を育てる長期的な基盤づくりにつながるのです。
参考文献:Hengchen Dai, Cindy Chan, Cassie Mogilner, People Rely Less on Consumer Reviews for Experiential than Material Purchases, Journal of Consumer Research, Volume 46, Issue 6, April 2020.