消費者がレストランを探すときに、ネットで情報を得るのは当たり前の行動となりました。
このような環境のなか、味や価格だけで勝負していても生き残れないのが現状です。
選ばれるためにはネット上の発信やコミュニケーション、つまりデジタル・マーケティングが重要となっています。
レストランのマーケティングに求められるのは、オンライン接点をどう設計するかという発想です。
マーケティングの目的はただの集客ではなく、「認知 → 興味 → 来店 → 再来店」という一連の流れをデザインすることにあります。
しかし、マーケティングの重要性を認識しつつも、何から手を付ければいいのか分からないという経営者も多いです。
そこで今回はレストランのデジタル・マーケティングにおいて、何が有効な施策となるのかを解説します。
消費者がレストランを選ぶ際にどこからの情報を重視するか?
消費者がレストランを選ぶ際に、どこからの情報を重視しているのか調べた、インド経営大学院のシワンギ・シン博士らの調査があります。
この調査では頻繁に飲食店を利用するユーザーにアンケートを行っています。
具体的には以下の6項目のうち何を重視しているかを聞き取りました。
- SNS:Instagram、Xなどを通じたキャンペーンや顧客とのコミュニケーション
- オンライン広告:Google広告やSNS広告などの有料プロモーション
- オンライン・ブランディング:ネット上でのブランドの認知、信頼性、一貫性
- アフターサービス品質:食事後のフォローアップや苦情対応、顧客サポートの質
- ウェブサイト体験:公式サイトにおけるデザイン性、使いやすさ、情報の明確さ
- オンラインサービス品質:予約や注文、支払いなどデジタル上で提供されるサービスの利便性
アンケート結果を分析したところ、ユーザーは以下の4項目を重視して、レストランを選択していることが分かりました。
- SNS
- オンライン広告
- オンライン・ブランディング
- アフターサービス品質
ウェブサイト体験とオンラインサービス品質を重視しているというユーザーもいましたが、影響は小さい傾向にありました。
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4つの施策がレストランの選択に強い影響を与える理由
上記の4つの施策がレストランのマーケティングに有効である理由を、それぞれ説明します。
1. SNSが有効である理由
SNSが強い効果を持つ理由は、双方向の関係を築ける点にあります。
SNSでは店舗が発信した投稿に対して顧客がリアクションを返し、さらにその反応が他のユーザーにも拡散されるという循環が生まれます。
シェフの調理風景やスタッフの日常を紹介する投稿は、広告色が薄く人の温かみを伝えるコンテンツとして好感を得やすく、コメントやメッセージのやり取りを通じて店舗への親近感が育まれます。
また、SNSはリアルタイム性にも優れており、季節限定メニューやイベント情報を即座に発信できる点でも集客効果が高いといえます。
2. オンライン広告が有効である理由
オンライン広告の影響が強いのは、特定の地域やターゲット層に的確に届けられる精度の高さと、効果を数値で把握しながら改善できる即効性があるためです。
限られた予算でも、興味を持つ可能性の高い層に集中して配信できるため、費用対効果が高くなります。
さらに、広告の内容を店舗のストーリーや料理へのこだわりと結びつけることで、単なる宣伝ではなく「共感を生む情報発信」として機能し、来店意欲を直接刺激できる点も強みです。
3. オンライン・ブランディングが有効である理由
オンライン・ブランディングは信頼や愛着を形成する有効な施策となりますす。
研究では、オンライン上で一貫したブランドイメージを築くことが、顧客の購買意欲や再訪意向に直結することが示されています。
写真やロゴ、言葉遣い、レビュー対応などが統一されていると、顧客は店舗に対して明確で安定した印象を持ちやすくなります。
特にレストランのように体験価値が重視される業態では、「どんな雰囲気の店か」「どんな人が働いているのか」といった感覚的な要素がブランドへの信頼感を高める要因となります。
このように、オンライン・ブランディングは顧客の心に「この店は自分に合う」という感覚を作り出し、それが競争力を高める強い要因として作用しているのです
4. アフターサービスが有効である理由
アフターサービスも顧客ロイヤルティを高める上で欠かせない要素です。
来店後にレビューへ感謝のコメントを返したり、苦情に迅速かつ誠実に対応したりすることで、顧客は「自分の声が届いている」と感じます。
この体験が信頼と再訪意欲につながるほか、ポジティブな口コミ(eWOM)の拡散を通じて新規顧客獲得にも寄与します。
リピーターを中心としたコミュニティづくりに成功すれば、店舗は安定した顧客基盤を築くことができ、競争環境の中でも持続的に成長できるのです。
ウェブサイト体験とオンラインサービス品質の影響が小さかった理由
レストランの公式ウェブサイトがそれほど集客に大きな影響を与えなかった理由として、グルメアプリなどの普及が挙げられます。日本でいうと「食べログ」や「ぐるなび」などです。
これらのアプリは、メニューの閲覧やレビュー確認、予約までを一貫して行える利便性を持ち、多くの消費者が店舗選びの主要な情報源として利用しています。
そのため、公式ウェブサイトを通じた体験が顧客の意思決定に及ぼす影響は相対的に小さくなっているのです。
とはいえ、公式サイトはロングテールのキーワードで検索してくる、コンバージョン率の高い顧客の集客効果は高いですから、きちんと設計しておいて損はありません。
しっかりと設計された公式サイトは採用候補者に対する良いイメージを与えることにも役立ちます。
オンラインサービス品質についても、競争力を高める明確な影響は見られませんでした。
これは、飲食業という業態の特性に起因する部分が大きいと考えられます。
レストランの顧客体験は、主に店舗での接客や料理の質といったオフライン要素に左右されるため、オンライン上での利便性は補助的な役割にとどまる傾向があります。
つまり、オンライン予約やチャットサポートといった機能は顧客の利便性を高めるものの、それ自体が店舗の競争優位を決定づける要因にはなりにくいということです。
効率より共感へ!デジタルが縮める心の距離
デジタル・マーケティングというと、効率やデータ分析など無機質な世界を思い浮かべるかもしれません。
しかし、実際に成果を上げている飲食店の多くは、むしろ「人の温かみ」をデジタルでどう再現するかに注力しています。
SNSの投稿一つを取っても、美しい料理写真を並べるだけでなく、スタッフの表情や仕込みの風景、常連客とのエピソードなどストーリーを伝えているお店ほど、ファンの定着率が高い傾向にあります。
そこにあるのは、広告ではなく共感です。顧客は「この店を応援したい」と思う瞬間に、消費者ではなくコミュニティの一員になるのです。
また、アフターサービスの文脈でも、デジタルツールの使い方次第で印象は大きく変わります。
テンプレート通りの返信ではなく、特別な一言を添えるだけで顧客の心は温かくなります。
AIチャットや自動返信が普及する今だからこそ、「人間らしさ」を意識した対応が競争力を高めてくれるのです。
テクノロジーは顧客との距離を縮めるための手段であり、それ自体が目的ではありません。
料理の味が記憶に残るように、デジタル上での「心の後味」を残せるかどうかが、これからのレストランのマーケティングには求められるのです。
参考文献:Shiwangi Singh, Gurtej Singh & Sanjay Dhir (2022): Impact of digital marketing on the competitiveness of the restaurant industry.

