スーパーで売れる陳列は「イマジネイティブ・ディスプレイ」だった

スーパーや雑貨店の買物客の購買行動を分析すると、当初の予定になかった商品をつい買ってしまったというパターンが多いことが分かります。

こうした衝動買いは店内の視覚的な刺激や、感情の動きが引き金になっています。売場での見せ方によって売上が変化するということです。

そのため、多くのスーパーが値引きシールや赤札で「安さ」をアピールしたり、POPで商品の特徴を紹介したりしながら顧客に訴求してきました。

確かにこれらの手法は効果があります。しかし、どの店舗でも同じような手法をとっているため、差別化が難しくなっているのも事実です。

価格競争には限界がありますし、POPも消費者の目が慣れてしまえばインパクトを失います。

そこで試したいのが「イマジネイティブ・ディスプレイ」です。

イマジネイティブ・ディスプレイとは

イマジネイティブ・ディスプレイとは、商品をただ並べるのではなく、形や配置に工夫を凝らしユニークで美しい陳列を作る方法のことです。

たとえば、ジュースを積み上げてタワーのようにしたり、お菓子のパッケージを組み合わせて動物の形を表現したりするパターンがあります。

こうした陳列は顧客の目を引くだけでなく、「面白い」「綺麗」といったポジティブな感情を喚起し、商品そのものにも好意的な印象を抱かせやすくします。

イマジネイティブ・ディスプレイの利点は、特別な什器や高額な販促ツールを導入しなくても実現できることです。

商品そのものを素材にして形を作るため、余計なコストがほとんどかかりません。

つまり、アイデアと工夫次第で低コストにもかかわらず、大きな販促効果を得られる可能性があるのです。

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スーパーでの実際の販売データ

イマジネイティブ・ディスプレイが本当に売上に影響するのかを確かめた、モナシュ大学のヒアン・タット・ケー教授らによる実験があります。

この実験では実際のスーパーの店舗を使って、イマジネイティブ・ディスプレイと通常の陳列方法の比較を行っています。

対象となった商品はボックスティッシュです。

最初の1週間は整然と横に並べて販売しました。(通常の陳列方法)

そして次の一週間では箱を積み上げてピラミッド型にして販売しました。(イマジネイティブ・ディスプレイ)

それぞれの期間の売上を比較したところ、イマジネイティブ・ディスプレイを行ったときのほうが売上が有意に増えていました。(49個差)

また、陳列に掛かった従業員の時間を考慮した場合のROI(投資収益率)も、イマジネイティブ・ディスプレイのほうが高くなっていました。

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なぜイマジネイティブ・ディスプレイにすると売れるのか

イマジネイティブ・ディスプレイが売上を増やす理由には、人間が持つ心理メカニズムが関係しています。

私たちは普段見慣れたものよりも、少し変わった形や意外な配置に強く注意を向けやすい傾向を持っています。これは「選択的注意」と呼ばれる心理作用で、外敵や危険な場所から身を守るために備わった本能のようなものです。

この本能によって、ティッシュがピラミッドの形に積み上げられたような、非日常的な状況に注意が向きやすくなるのです。

そして、このようなユニークな陳列方法は消費者に高揚感を与えます。心理学ではこれを「覚醒(arousal)」と呼びます。覚醒状態では脳が刺激に敏感になり、行動を起こしやすいモードに入ります。

そのため「見て楽しい」「ちょっと特別」という感覚がそのまま購買意欲につながり、「せっかくだから買ってみよう」という行動に結びつきやすくなるのです。

さらに、ピラミッド型のようなユニークな形状は「ただの生活必需品」というイメージを覆し、商品に対して「人気があるのかもしれない」「注目されている商品なのだろう」といった社会的な意味づけを与えます。

人間は「多くの人が選んでいる」と感じると安心感を覚え、購入のハードルが下がります。そのため、必需品として今すぐ必要でなくても「今買っておくのが良さそうだ」と思いやすくなるのです。

以上のように様々な心理的要因が絡み合うことで、売上が伸びるということです。

高く積み上げるだけの陳列では売れない

こうした効果は商品をただ目立たせるだけでは発生しません。目立つ場所に商品をたくさん並べるだけでは意味がないのです。

今回、紹介した研究では、別の菓子店で知名度のないチョコレートを使って同様の実験を行っています。

こちらの実験では以下の3パターンを検証しました。

  • イマジネイティブ・ディスプレイ
  • イマジネイティブ・ディスプレイと同じ高さに積み上げた通常の陳列
  • 高く積み上げていない通常の陳列

こちらでもイマジネイティブ・ディスプレイの購入率が最も高いという結果となっています。

そして、「イマジネイティブ・ディスプレイと同じ高さにした通常の陳列」と、「高く積み上げていない通常の陳列」に差は出ませんでした。

つまり、ただ商品を高く積み上げて目立たせただけでは効果がないということです。

そこに面白さや意外性がなければ、顧客の高揚感は生じませんから、購買意欲も高まらないのです。

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スーパーの陳列にどう活かすか?

派手な広告や大幅な値下げをせずとも、商品をどう見せるか工夫するだけで売上を伸ばしROIを改善できることがご理解いただけたと思います。

では、スーパーなどの小売業を運営する企業は、この知見をどのように活かせばよいのでしょうか。以下では、実務に直結する具体的なアプローチを紹介します。

商品特性とテーマの「適合性」を重視する

今回の研究では、陳列方法と商品の特性が合っていないと逆効果になることも分かっています。

たとえば「リラックス効果」をうたう飲料を、戦車型のディスプレイで見せても違和感があるため、購買意欲を下げてしまう可能性があるのです。

イマジネイティブ・ディスプレイを検討するときは、商品が持つベネフィット(力強さ・爽快感・軽さなど)とテーマが一致するかを確認しましょう。

季節・イベントと結びつけた売場演出

イマジネイティブ・ディスプレイは、季節性イベントと組み合わせると一層効果的です。

たとえば、飲料をクリスマスツリーの形に積み上げる、豆菓子を節分の鬼の顔に見立てるといった工夫は、消費者に「限定感」や「旬」を感じさせます。

年間の販促カレンダーと連動させ、シーズンごとにテーマ性のある陳列を計画的に導入しましょう。

店舗スタッフを巻き込んだ仕組みづくり

イマジネイティブ・ディスプレイには発想力が求められます。

そのため、本部の指示だけでなく、店舗スタッフからの提案を積極的に取り入れると効果的です。

社内コンテストや表彰制度を設けて「誰でもアイデアを出せる文化」を育てると、現場に創造性が生まれ売場全体の魅力が高まります。

データを分析しながら最適な陳列を行う仕組みをつくる

当然ですが売上やROIがどれだけ変化したかを測定することは欠かせません。

感覚的に「売れている気がする」と判断するのではなく、POSデータや在庫回転率といった客観的な数値で効果を検証する必要があります。

通常の陳列とイマジネイティブ・ディスプレイを期間ごとに比較し、販売数量の増減、人件費の投資に対する回収率などを定量的に確認します。

さらに、売上だけでなく「どの曜日や時間帯に効果が出やすいか」「新規顧客とリピーターで反応に違いがあるか」といった細かい切り口で分析することで、次回以降の陳列をより精緻に行うことができます。

こうした仕組みをマニュアル化すれば、特定の担当者のセンスや経験に依存することなく、データに基づいた改善サイクルを回せるようになります。

持続的に売上を伸ばせる戦略的な武器として、ぜひイマジネイティブ・ディスプレイを活用してください。

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参考文献:Keh, H. T., Wang, D., & Yan, L. (2021). Gimmicky or Effective? The Effects of Imaginative Displays on Customers’ Purchase Behavior. Journal of Marketing, 85(5), 109-127.