InstagramやX(旧Twitter)などのSNSでは、数秒単位で次々と広告が流れています。
その中で、ユーザーに目を留めてもらい、購買やアプリのダウンロードへとつなげることは容易ではありません。
注目してもらうには、デザインや色彩の設計にこだわる必要があります。
それと同じくらい重要なのが「広告コピー」、つまり広告に記載する短い文章です。
数十文字のフレーズが、クリックするかどうか、購入するかどうかを左右します。
これらの広告コピーは「感情ベース」と「事実ベース」の2つに分類することができます。
例えば「あなたに最高のワクワクを!」というのは感情ベースです。「20時間の長持ちバッテリー」というのは事実ベースです。
ところで、SNS広告ではどちらのパターンのがより効果的なのでしょうか?
実際のSNS広告のデータを分析
Weibo(中国版Twitterのようなサービス)の広告データを用いて、感情ベースのコピーと事実ベースのコピーの効果の違いを比較した研究があります。(M Huang, 2022)
この研究では、大手ゲーム会社がSNS広告として出稿したデータを分析しています。
出稿されたSNS広告は全部で249種類(コピーのパターンは99種類)あり、合計で1億1951万回以上表示されました。
最終的なクリック数は約135万回、コンバージョン(ダウンロード)数は約1.8万という結果となりました。
感情ベースはCTRを高め、事実ベースはCVRを高める
これらのデータを細かく分析したところ、広告コピーのスタイルによって、クリック率(CTR)とコンバージョン率(CVR)が変わることが明らかになりました。
まず、感情ベースの広告コピーはクリック率を有意に高めることが示されました。
具体的には「今すぐ体験してみよう」「最高の楽しさを味わおう」といった感情的な呼びかけを含む広告コピーはクリックされやすい傾向にあったのです。
一方、コンバージョン率では逆の傾向が見られました。
「ストレージ容量〇〇」「会員登録で〇〇無料」といった事実ベースのコピーのほうが、ゲームをダウンロードされる確率が高かったのです。
なぜこのような違いが出たのでしょうか?
感情ベースのコピーは深く考える前に反応させる
まず、感情ベースのコピーがクリック率を高めた理由は、SNSを閲覧しているときのユーザー心理を考えると分かります。
ユーザーはSNSを見ているとき、必ずしも商品を探しているわけではありません。友人の投稿や娯楽的なコンテンツを流し読みしていることが多いです。そのような状況では「なんだろう?」「面白そう」という直感が行動を左右します。
「今すぐ体験してみよう」「最高の楽しさを味わおう」といった表現は、こうした直感に訴えかけるものです。そのため深く考える前に反応したくなる欲求を引き出し、クリックさせる効果を持っているのです。
事実ベースのコピーは合理的に納得させる
一方で、クリックした後の段階では、ユーザーは多少の関心を持っています。
このときに求められるのは「本当に自分にとって有益かどうか」の判断材料です。ここで感情的なコピーばかりだと、「実際にどんな価値があるのか」が伝わらず、購入やダウンロードといった行動に結びつきにくくなります。
逆に、事実ベースのコピーであれば製品の特徴や利点が明確に分かるため、ユーザーが合理的に納得しやすくなり、結果的にコンバージョン率が高まるのです。
セールスファネルとも一致
つまり、感情ベースのコピーは「第一印象で関心を引く力」が強く、客観的コピーは「最終判断を後押しする力」が強いということです。
これは、購買行動が段階的に進むという「セールスファネル」の考え方とも一致しています。
上流では感情に響く訴求が効果的であり、下流では具体的な情報提供が重要になるという構造です。
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SNS広告のデザインによる効果の違い
広告のデザイン要素についても、いくつかの重要な結果が得られています。
まず、動画を含む広告は静止画やテキストのみの広告よりも、CTR・CVRともに高い効果を示しました。これは人間が動くものに注目してしまう本能を持っていることが理由といえます。動きが見えることでゲーム内容を想像しやいこともダウンロードにつながりやすい要因です。
また、広告に登場する人物が正面を向いている場合、ダウンロード率が向上することも確認されました。これは、目が合うことで信頼感や共感を生むからです。
また、広告のダウンロードボタンが分かりやすく表示されている場合はCVRが上がり、ユーザーがスムーズに行動へ移りやすくなることが分かりました。
一方で、ボタンが目立たない場合にはCTRが高まる傾向がありました。これは、ユーザーが「詳しく見てみたい」と思い、クリックにつながるためと考えられます。
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SNS広告の目的に応じてコピーを変える
以上の結果から、広告の目的に応じてコピーのスタイルを切り替えることが有効といえます。
まず、商品の認知を広げたい段階では、感情ベースのコピーを積極的に活用しましょう。
SNS上で多くの情報に触れているユーザーにとって、感情的な表現や呼びかけは強いフックになります。
「今すぐ体験しよう」「あなたも仲間入りしませんか?」といった言葉は、詳細を知らなくても「気になる」という気持ちを起こさせ、クリックにつながります。
次に、購買や会員登録、アプリのダウンロードといった実際の成果を狙う段階では、事実ベースのコピーを使いましょう。
クリックした時点でユーザーはある程度の関心を持っているため、その後は「自分にとって本当に価値があるのか」を判断しようとします。
この段階では「初回限定30%オフ」「容量128GBで動画も保存可能」といった具体的で信頼できる情報を提示することで、行動を後押しできるのです。
さらに、広告媒体やターゲット層に応じて戦略を調整することも大切です。
感覚的な訴求が好まれるTikTokやInstagramでは感情的なコピーを強め、情報を求める利用者が多いX(旧Twitter)やニュース系媒体では客観的なコピーを重視するなど、プラットフォーム特性に合わせた最適化によって、CTRとCVRを向上させることができます。
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参考文献:M Huang & T Liu. (2022). Subjective or objective: How the style of text in computational advertising influences consumer behaviors?

