こんにちは。東京と群馬を中心にマーケティングやコンサルティングの仕事をしております、カネコです。
ちょっと今日は、いつもの記事とは趣向を変えて、口語のような感じで説明していきたいと思います。
ここ数年、仕事の関係者との話題でアンドリュー・アレンバーグの名前を聞くことが増えました。(増えたといっても、年に1回か2回ですが)
ということで、今回は彼が論文の中で、何を主張していたのか、分かりやすく解説したいと思います。
なぜアンドリュー・アレンバーグの名前が出始めたのか?
このアンドリュー・アレンバーグとは何者かというと、統計学とマーケティングの研究者です。
なので、私の仕事であれば、名前を聞くのもおかしくないのかもしれないのですが、けっこう不思議なことです。
業界にいる人なら分かると思いますが、基本的にアカデミックな世界の専門家の名前が出ることは少ないのです。
せいぜい、フィリップ・コトラーやマイケル・ポーターくらいです。
このあたりの研究者と比べると、アンドリュー・アレンバーグは、ややマイナーな気がします。
私も今この記事を書いているので意識していますが、急に名前を出されたら「誰でしたっけ?」となります。
では、なぜここ数年、急に名前が出始めたかというと、おそらく株式会社刀の森岡毅CEOの影響だと思います。
ご存じの方も多いと思いますが、USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)を再建したことで知られる伝説のマーケターです。林修先生の『日曜日の初耳学』にも出演していました。
現在は、ジャングリア沖縄を手掛けていらっしゃいます。
この森岡さんのマーケティング手法というのが、高度な数学を用いたものなのですが、その理論のヒントとなったのが、アンドリュー・アレンバーグの研究のようです。
そして、森岡さんが取材で名前を出したことで、日本のビジネスパーソンにも広く知られるようになったのではないかと思います。
アンドリュー・アレンバーグが論文で主張した2つの理論
前置きが長くなってしまったのですが、ここからアンドリュー・アレンバーグが何を主張したのか?を説明したいと思います。
といっても、300本くらいの論文を書いていますし、本も何冊か出していますので、それを全て解説するのは不可能です。
なので、代表的なものを2つに絞って解説したいと思います。
あくまで私の判断ですが、おそらくこの2つは代表的な研究だろうというものがあります。
それが、以下の2つです。
- NBDモデル(Negative Binomial Distribution Model、負の二項分布モデル)
- ダブル・ジェパディの法則(Double Jeopardy、二重の不利)
それぞれについて、詳しく説明します。
1.NBDモデル
NBDモデルとは何かというと、消費者の購買行動を確率的に予測するためのモデルです。
NBDは「Negative Binomial Distribution」の略で、日本語では「負の二項分布」といいます。
簡単にいうと、ある事象が成功するまで何回失敗するのか?という確率分布です。
アンドリュー・アレンバーグは、消費者が商品を買うパターンが、この「負の二項分布」の形にうまく当てはまることを発見しました。
そして、おそらく、それを最初に発表した論文が『THE PATTERN OF CONSUMER PURCHASES』(1959)だと思います。
アンドリュー・アレンバーグは、NBDモデルに関する論文を複数出していますが、その中で最も古く、なおかつ最も他の研究者から引用されているのが、この論文なのです。
この論文では、人々が日用品をどのくらいの頻度で買っているかについて、大量のデータを集めて分析しています。
分析の結果、「ある一つの商品について、多くの人が1度も買わないか、1度だけ買って終わる傾向が強く、何度も買う人はごく僅かしかいない」という偏ったパターンが自然に現れていることが分かりました。
これが「負の二項分布」に当てはまるのです。
この発見の何が凄いかというと、「その商品の平均購入回数」と「1度も買っていない人の割合」さえ分かれば、1度買った人、2度買った人の割合まで、かなりの精度で予測できるようになったことです。
これは、アンケート結果が少なくても全体の傾向を再現できることを意味し、消費者の購買行動の予測に使えるということです。
2.ダブル・ジェパディの法則
2つ目に紹介するアンドリュー・アレンバーグの理論は「ダブル・ジェパディの法則」です。日本語にするなら「二重の不利の法則」といったところでしょうか。
これは市場シェアの小さいブランドは「購買者数が少ないだけでなく、既存の購買者のロイヤルティも低い(=リピート購入されない)」という二重の不利を抱えているという現象のことです
この理論に関しての有名な論文は『Double jeopardy revisited』(1990)だと思います。現時点で1,000回以上も他の論文で引用されています。マーケティングの専門家である、ジェラルド・グッドハートと、パトリック・バーワイズとの共著です。
この論文ではインスタントコーヒーがどれくらい買われているかや、テレビ番組がどれくらい見られているかというデータを分析しています。
その結果、市場シェアの大きいコーヒーほど多くの人から何度も買われ、人気の番組ほど多くの人から何度も見られる、といった傾向が判明しました。
逆に、売れていないものは、少数からしか買われず、その少数さえもリピートしてくれないことが分かりました。
このような差が生まれる原因は、認知度や露出度にあるとされています。
市場シェアの大きなブランドは、目立つので多くの人から選ばれやすく、思い出してもらいやすいのでリピートもしてもらえます。
一方、シェアの小さなブランドは、そもそも知られていませんから選ばれにくいうえに、思い出してもらえずリピートもされないということです。
つまり、商品やサービスの品質が同じであっても、「どれだけ知られているか」「どれだけ人々の意識にのぼっているか」が、実際の購入頻度やリピート率に大きな影響を与えるということです。
これがダブル・ジェパディの法則です。
※「ダブル・ジェパディの法則」を最初に提唱したのは社会科学者ウィリアム・マクフィーです。そして、マーケティングに応用し体系化したのがアンドリュー・アレンバーグです。
最期に
以上がアンドリュー・アレンバーグの有名な論文とその理論の内容です。
他にもマーケティングに役立つ論文はたくさんありますので、機会があればまた他の記事で紹介したいと思います。
ちなみにですが、私、ゴリゴリの私立文系、国、英、社の3科目受験ですので、統計学とかホントに苦手です…。
なので今回の内容も細かい説明は微妙なところがあるかもしれません。あまりアテにしないでください。
間違ってても責任とりません!ではサヨナラ!
<参考文献>
・A. S. C. Ehrenberg, The Pattern of Consumer Purchases, Journal of the Royal Statistical Society Series C: Applied Statistics, Volume 8, Issue 1, March 1959, Pages 26–41.
・Ehrenberg, A. S. C., Goodhardt, G. J., & Barwise, T. P. (1990). Double Jeopardy Revisited. Journal of Marketing, 54(3), 82-91.