アパレルECの世界では、いまだにスリムなモデルばかりが商品ページを飾っています。
しかし、本当にそれが売上につながっているのでしょうか?
実は、自分の体型と大きく異なるモデルを見た消費者は、その商品が自分に合うかどうか判断しづらくなり、購入を控える傾向があることが、調査で判明しています。
しかも、そのような商品は返品される可能性も高くなるのです。
アパレルのECサイトに出ているモデルの体型と消費者の購買意欲
アパレルのECサイトに掲載されているモデルの体型が、消費者の購買意欲にどのような影響を与えるのかを検証した、アムステルダム自由大学などのチームによる実験があります。
この実験では、431人の女性参加者をランダムに3つのグループに分け、それぞれ以下のいずれかのモデル写真を見せました。
- スリムなモデル
- 参加者の平均的な体型に近いモデル
- 自分よりやや大きめの体型のモデル
モデルはいずれも同じ服(ワンピース)を着ていました。
モデルの写真を見た後、参加者は「その商品が自分に合うと思うか?」「その商品を買いたいと思うか(購買意欲)」について、回答しました。
また、自分の体型とモデルの体型がどれくらい似ていると感じるかも評価しました。
平均的な体型のモデルが最も購買意欲を高める
これらの回答を分析したところ、平均的な体型に近いモデルの画像を見た参加者の購買意欲が、最も高くなることが分かりました。
また、「この服は自分に似合わないのではないか?」という不安も感じにくいことが分かりました。
反対に、スリムなモデルを見た参加者は、自分との体型の差を感じることで「この服は自分には合わないかもしれない」と不安を抱きやすく、その結果、購入したいという気持ちが弱まる傾向が見られました。
大きめの体型のモデルを見た参加者では、一部の参加者は類似性を感じていたものの、平均的な体型のモデルを見たグループよりも、購買意欲がやや低くなっていました。
体型の違いと「返品意向」との関連性
この実験では、モデルの体型が「返品したい気持ち」にまで影響するのか、別の参加者で検証しています。
さきほどの実験と同様に、異なる体型のモデルが着用する商品画像を見せ、「この商品を返品する可能性はどれくらいあるか」という質問をしました。
結果、モデルと自分の体型が似ていない場合、参加者は「フィットしない可能性がある」と感じやすく、返品する意向が高くなることが分かりました。
つまり、消費者とかけ離れた体型のモデルを使うことで、購買意欲を低下させるだけでなく、返品する可能性まで高めてしまうということです。
無料で返品できる場合でも購買意欲は高まらない
ちなみに別の実験では、たとえ無料で返品できるという条件であっても、モデルの体型が自分とかけ離れている場合には、購入したいという気持ちになりにくいことも分かっています。
気軽に返品できるというメッセージは、リスクを感じる消費者にとって有効ではあります。
しかし、それでも最初に出てくるモデルの画像が与える印象の強さにはかないません。
最初に「あっ、なんか違うかも」と思われてしまったら、売れないのです。
サイズ感が重要な商品でこそ影響が大きい
また、モデルの体型が及ぼす影響は全てのアパレル商品で同じように出るわけではありません。
特に体のラインやサイズ感が重要なアイテム(たとえばワンピース、スキニージーンズ、水着など)では、モデルの体型と消費者の体型が合っているかどうかが大きな判断材料になります。
一方で、パーカーやオーバーサイズのTシャツのように、多少のサイズ差が目立たないアイテムでは、モデルの体型が購買意欲に与える影響は比較的少ないことも判明しています。
自分の体型に合ったモデルは「自分ごと」と認識される
別の実験によると、自分の体型に合ったモデルを選んで表示できる機能を導入した場合、購入意欲がさらに高まるという結果も出ています。
これは、消費者がより「自分ごと」として商品を感じられるようになるからです。
このような体験設計は、パーソナライズされた接客やコンテンツ配信が求められる現代のアパレルECにぴったりなアプローチと言えるでしょう。
モデルへの憧れが、そのまま「欲しい」という気持ちにつながるとは限らないことを、忘れないでください。
参考文献:Zhang, Y., Ikonen, I., Eelen, J. et al. One size does not fit all: Optimizing size-inclusive model photography mitigates fit risk in online fashion retailing.