バナー広告は動く方が強い?デザイン要素がクリック率に与える影響

インターネットを利用する時間が日常の大半を占めるようになり、企業が消費者と接点を持つ手段としてオンライン広告の重要性はかつてないほど高まっています。

その一方で、広告ブロックの普及や情報過多によるユーザーの関心低下といった課題が生まれ、従来の方法では期待する成果を得にくくなっています。

こうした状況の中で注目されているのが、広告そのものの「デザインの工夫」によってユーザーの注意を引き、行動を促すアプローチです。

どのような見せ方をするかが、広告の成果を大きく左右する時代になっているのです。

広告デザインとクリック数・CTRの検証

バナー広告のデザイン要素がユーザーの関与と効果にどのように影響するのかを調べた、ロヨラ・メリーマウント大学の研究チームによる検証があります。

この研究では、以下の3つの要素が、クリック数とクリック率(CTR)に与える影響を検証しました。

  • 広告の種類(静止かアニメーションか)
  • サイズ(120×600、240×400、468×60)
  • フォーマット(IAB:インタラクティブ広告協会の規格に準拠したサイズか)

データは、アメリカ西部に店舗を持つアパレル小売業者が配信したバナー広告7,453件から収集されています。各広告について、24時間以内のクリック数とCTRが記録され、分析されました。分析手法には回帰分析(OLS)が用いられました。

その結果、アニメーション広告は静止広告に比べてクリック数が多く、CTRも高いことがわかりました。

また、サイズに関しては、黄金比に近い240×400の広告がクリック数を増やす効果を持つことが確認されました。ただし、CTRには有意な影響が見られませんでした。

標準フォーマットかどうかは、クリック数やCTRのどちらにも影響を与えないという結果になりました。

クリック率を左右する人間の知覚の仕組み

このような差が出たのには、バナー広告に対する人間の注意や認知の仕組みに理由があります。

まず、アニメーション広告は動きがあるため、静止した画像よりも自然に視線を引きつけます。人間の脳は本能的に動きを捉えやすく、注意を奪われやすい仕組みを持っています。そのため、アニメーション広告はユーザーが無意識のうちに目に留め、クリックにつながりやすくなります。結果として、クリック数とCTRの両方で効果が表れました。

次に、黄金比に近いサイズの広告がクリック数を増やしたのは、視覚的に「心地よい形」だからです。黄金比は建築や美術で使われるように、人間にとってバランスが良く、違和感を与えにくい比率です。そのため広告が自然に視界に溶け込みやすく、結果的にクリックする人が増えたと考えられます。

ただし、クリック率(CTR)に影響が出なかったのは、広告が視界に入りやすいだけであって、その内容自体が「クリックするかどうかの判断」を決定づけたわけではないからだと解釈できます。

一方で、IABの標準フォーマットかどうかが効果に影響しなかったのは、多くのユーザーにとって「広告サイズが標準規格に沿っているかどうか」は意識されないからです。広告の存在感やデザインそのものに比べ、サイズの規格性はユーザーの心理に大きな違いを生まなかったため、実験的に見ても差が出ませんでした。

ROI改善に向けた具体的アプローチ

この研究の結果から、企業がオンライン広告戦略を考える際には、いくつか具体的に活用できる示唆が得られます。

まず、広告表現の種類に関しては、静止画像よりもアニメーションを優先的に活用することが効果的です。アニメーションはユーザーの視線を集め、クリック数とCTRの両方を高めることが確認されています。したがって、広告制作においては、単に製品写真を並べるのではなく、動きを取り入れたクリエイティブを積極的に導入するべきです。特にSNSやニュースサイトなど情報量が多く、競合する広告やコンテンツが目立つ環境では、アニメーションが大きな差別化要因になります。

次に、広告サイズの設計では、黄金比に近い比率(240×400ピクセルなど)を取り入れることが有効です。このサイズはクリック数を増やす効果があるため、ユーザーの初期的な関与を高めたいキャンペーンに適しています。例えば、新商品のお披露目やブランド認知度向上を目的とした施策では、このサイズを活用することで広告効果を最大化できます。

ただし、CTR自体には影響しないため、コンバージョン率を高めたい場合には、広告のメッセージやランディングページの設計と組み合わせる必要があります。

一方、標準フォーマットにこだわる必要はあまりありません。研究ではフォーマットの違いが効果に影響しなかったため、規格への準拠は媒体側との取引や配信の利便性のための条件にすぎないと考えられます。企業としては、規格に縛られるよりも、ユーザーの注意を引くためのデザイン要素やコンテンツ内容にリソースを投じる方が効果的です。

AIとデータドリブン運用による広告最適化

オンライン広告市場は今後も拡大を続け、消費者の注意の奪い合いはますます激しくなっていきます。

その中で企業が成果を上げるためには、単に広告を出すだけでなく、人間の心理や視覚的な特性に基づいた「科学的なデザイン戦略」を取り入れることが重要です。

さらに、AIによる広告最適化やリアルタイム分析技術が進化している現在では、今回の研究で示されたアニメーションや黄金比の効果を、データドリブンな運用と組み合わせることで、一層高い投資対効果を実現できる可能性があります。

広告はもはや感覚や経験だけに頼る時代ではありません。実証された知見を取り入れ、テクノロジーと融合させることで、企業はより確実に消費者の心をつかむことができるのです。

参考文献:Namin, A., Hamilton, M. L., & Rohm, A. J. (2017). Impact of message design on banner advertising involvement and effectiveness: An empirical investigation. Journal of Marketing Communications, 26(2), 115–129.