ブランドの好感度が高いとクレーム報告が増える?実はフィードバックでした

好感度の高いブランドは、製品トラブルが起こっても、多少は見逃してもらいやすいんじゃないか…

といったイメージを多くの人が持っているかと思います。

しかし、研究によると、良いイメージのあるブランドほど、問題が発生したとき、顧客から企業への意見が増えるようです。

好感度の高いブランドほど問題が報告される

ブランドのイメージが消費者による問題の報告にどのような影響を与えるかを明らかにした、マギル大学のヴィヴェック・アストヴァンシュ准教授らの研究があります。

この研究ではまず、大手広告会社ヤング・アンド・ルビカムが提供する「Brand Asset Valuator(BAV)」というデータベースから、自動車ブランドに対する消費者の「温かみ評価」に関する情報を取得しました。

ここでの温かみとは、「親しみやすさ」「顧客への配慮」「信頼性」「思いやり」などの要素に基づいて構成されたものです。

次に、アメリカ運輸省が運営する製品安全レポートのデータベースを用いて、自動車に関する被害報告の件数とその内容を収集しました。

これら2つのデータを統合し、17年間にわたる177社の観察データ(計1,448件)を分析しました。

問題の報告は悪いことではない

その結果、ブランドの温かみのスコアが1%上昇すると、製品の問題に対する報告件数が平均で約27%増加することが明らかになりました。

この報告数の増加は、一見するとブランドにとって悪いことのように見えます。

しかし、研究チームは報告の中身にも注目し、そのテキストを機械学習によって分析しました。

具体的には、報告文に含まれる語彙に基づいて、「フィードバック(建設的な提案)」と「苦情(怒りや非難)」のどちらの動機が強いかを分類しています。

その結果、温かみがあると認識されているブランドに対する報告は、苦情よりもフィードバックの比率が有意に高いことが判明しました。

消費者からの信頼の証

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

それは、消費者は好意的に見ているブランドに対しては、「改善してほしい」「対応してくれるはずだ」と前向きな意図を持っている傾向があるからです。

このような傾向は自動車業界だけではなく、金融業界におけるデータ分析においても見られました。

また、研究室における実験においても、好意的に見ているブランドに対しては、フィードバック的な性質を持った報告をする可能性が高まることが分かりました。

消費者からの報告にどう返信するか?と日頃のブランディング

消費者から商品やサービスに対する問題を報告されると、嫌な気持ちになることもあります。

中には「文句を言うほどのことか?」と感じるものもあるでしょう。

しかし、それは単なるクレーマー気質からくるものではなく、ブランドに対する愛着からくる行動である可能性もあるのです。

そして、そのときにどう対応するかによっても、顧客満足度が大きく変わります。

ブランドイメージと返信内容の関係

実は今回の研究では、消費者が製品トラブルを企業に報告した後に受け取る返信メッセージが、その後の顧客満足度にどのような影響を与えるかも調べています。

具体的には、参加者に架空のスマートフォンブランドの利用者になったことを想像してもらい、そのスマートフォンの問題について企業に報告するという課題に取り組んでもらいました。

このとき、ブランドの印象は以下の2パターンに分けられました。

  • 社会的責任や環境に配慮する温かみのある企業
  • 社会的責任や環境に配慮しない冷たい企業

そして、報告後に企業から返ってくるメッセージの内容も以下の2通り用意しました。

  • 「ご報告ありがとうございます」とだけ伝える一般的な返信
  • 「問題を解決するためのフィードバックとしてのご報告に感謝します」と報告の動機に言及する返信

この2軸(温かみの高低×返信メッセージの内容)を組み合わせた4つの条件を設定し、それぞれの条件下で参加者が企業にどれだけ満足したかを評価しました。

ブランドの温かみがないと誠意が信用されにくい

その結果、温かみのあるブランドが、消費者のフィードバック動機に触れた返信を行った場合、参加者の満足度が明確に高まることが分かりました。

これは、ブランドが自分の意図を正しく理解し誠実に受け止めてくれた、という印象を与えるためと考えられます。

一方で、ブランドの温かみが低い場合には、たとえ同じようにフィードバックへの感謝を伝えても、満足度にはほとんど変化が見られませんでした。

これは、もともと企業に対する信頼感が低いと、丁寧なメッセージを受け取っても、その誠意が信用されにくいことを示しています。

つまり、企業が誠実な対応をしたとき、それをポジティブに受け取ってもらうには、日頃から「温かみのあるブランド」としての信頼を築いておくことが必要ということです。

「どう語られているか」「なぜ語られているか」という視点もブランド戦略に取り入れる

ブランドの好感度が消費者のフィードバック行動に影響を与えるという今回の発見は、ブランド戦略における新たな評価指標を示唆しています。

従来、ブランド価値はロイヤルティや購買意図といったポジティブな成果に偏って測定されがちでした。

しかし、製品トラブルという「ネガティブな瞬間」に、消費者がどのような姿勢で反応するかという行動も、ブランド資産の一部として捉えるべきなのです。

また、この研究は企業が保持する苦情・問い合わせデータの解釈にも新たな視点を与えます。

報告件数が多いこと自体をネガティブに捉えるのではなく、そこに含まれる意図の違い、つまり「攻撃」なのか「善意の助言」なのかを分析することで、ブランドへの感情的な信頼度を把握することができます。

近い将来、自然言語処理などのツールを用いて、報告の中身を定量化し、消費者がブランドに感じる温度の推定指標として活用することも視野に入るでしょう。

今後は「語られる回数」だけでなく、「どう語られているか」「なぜ語られているか」という視点もブランド戦略に取り入れていく必要があります。

参考文献:Astvansh, V., Suri, A. & Damavandi, H. Brand warmth elicits feedback, not complaints.