ブランド・アイデンティティは再購入率をどのように高めるのか?

顧客が一度商品を購入してくれたとしても、そこから継続的な関係が築けるとは限りません。

リピーターをどのように生み出し、維持するかは、マーケターにとって永遠の課題です。

価格や機能、プロモーションだけでは差別化が難しくなる中、ブランドの「人格」や「価値観」が消費者の心をつかむカギとして注目されています。

では、顧客がブランドを再購入するとき、どのような心理的要因が働いているのでしょうか。

2024年にカラビュク大学のアイセグル・アカル准教授らによって発表された研究が、「ブランド・アイデンティティ」が再購入意図を大きく左右するという重要な知見を明らかにしました。

ブランドを意識している消費者の調査

この研究の対象となったのは18歳以上で、普段からブランドを意識して買い物をしている消費者です。

参加者は自分が好きなブランドを1つ選び、そのブランドについての質問にオンライン上で答えました。収集された回答数は610件で、有効なもののみが分析に用いられました。

これらのデータは統計的に分析され、ブランド・アイデンティティ、ブランドの価値観とライフスタイルとの一致度、満足度、再購入の意図が、どのように関係しているか調べられました。

また、家族や友人が同じブランドを使っているかどうかが影響しているかを調べるために、マルチグループ分析(グループごとに分けて分析する方法)も使われました。

さらに、年齢や性別、収入などといった情報も活用して、どんなタイプの人がどんな行動をとるかを詳しく分析しました。

ブランド・アイデンティティが消費者行動に与える影響

分析の結果から、ブランド・アイデンティティが消費者のブランドに対する評価や行動に幅広く影響を与えていることが明らかになりました。

具体的には以下のような効果がありました。

1.ブランド・アイデンティティが強いほど個人との一致を感じやすい

まず分かったことは、ブランド・アイデンティティがしっかりしている(=そのブランドがどんな価値観を持ち、それが誰に向けられているのか明確に伝わっている)ほど、「このブランドは自分のライフスタイルに合っている」と感じる人が多くなるということです。

そして、その「合っている」という感覚が強くなるほど、そのブランドに対して満足しやすくなり、再び同じブランドを買いたいという気持ちも強くなります。

つまり、消費者は「なんとなく良さそうだから」ではなく、「このブランドは自分にぴったりだ」と思えるブランドを選びやすくなります。

そう思えることで、そのブランドを信頼したり好きになりすく、結果としてまた買いたくなるという流れが生まれるのです。

2.ライフスタイルの一致感そのものが満足度に影響

ブランドとライフスタイルの一致感そのものも、ブランド満足度と再購入意図の両方に強い影響を持っていることが分かりました。

たとえば、消費者があるブランドを「自分の生き方にぴったりだ」と感じる場合、そのブランドを使うことに喜びや満足を感じやすくなります。

そしてその満足が、次回の購入にもつながります。

つまり、満足度は「一度だけの好印象」ではなく、今後もそのブランドを選び続けるかどうかを左右する重要な鍵となっているのです。

3.家族の影響

家族や友人の存在も無視できません。

特に家族の影響は非常に大きく、どのブランドに親しみを感じるか、どれくらい満足するか、そしてまた買いたいと思うかといったすべての段階に関係していました。

たとえば、家族がいつも使っているブランドを自分も使っていて、それが当たり前になっている人は、そのブランドを選び続ける可能性が高いのです。

4.知人や同僚の影響

一方で、知人や同僚といった関係性、いわゆる「ピア効果」については、家族ほど強く全体に関係しているわけではありませんでした。

研究によると、周りの人が同じブランドを使っているかどうかにかかわらず、自分自身の価値観やライフスタイルとブランドがしっかり合っていると感じている人は、そのブランドを「自分で選んだ」と強く認識している傾向がありました。

このような人たちは、他人の意見に左右されにくく、自分の判断でブランドを選ぶため、その選択に対する満足度が高くなりやすいです。そしてその結果として、「また同じブランドを選びたい」と思う気持ち、つまり再購入の意欲も高くなることが確認されました。

逆に、周囲の影響を強く受けてブランドを選んでいる人は、ブランドとのつながりがやや浅くなりがちであり、状況が変わると別のブランドに移る可能性も高くなると考えられます。

「このブランドは自分をよく理解してくれている」

ブランド・アイデンティティが消費者のブランドに対する評価や行動に幅広く影響を与えるのは、消費者が商品を選ぶ際に、単なる機能や価格だけでなく、「そのブランドが自分らしさを表現できるかどうか」を重視しているからです。

現代の消費者は、商品そのものよりも、それが持つ意味や価値観に共感することで、ブランドに対して好意や信頼を抱くようになっています。

ブランド・アイデンティティは、ブランドがどのような価値観や世界観を持ち、社会に対してどのような立場をとっているかを象徴的に示すものです。

これが消費者の価値観やライフスタイルと一致すると、強い心理的な結びつきが生まれます。

たとえば、環境問題に関心のある人は、エコ志向のブランドに共感しやすくなります。

また、革新性やスタイリッシュさを大事にする人は、常に先進的な技術やデザインを打ち出すブランドに魅力を感じます。

こうした一致感は、消費者に「このブランドは自分をよく理解してくれている」と感じさせ、その結果、ブランドに対してポジティブな感情や信頼感を持つようになります。

ブランドは自分のアイデンティティを他者に伝える手段

さらに、人は社会の中で自分のアイデンティティを他者に伝える手段として、ブランドを利用することがあります。

たとえば、自分がどういう価値観を持ち、どのようなライフスタイルを大切にしているかをまわりに示すために、自分の考えに合ったブランドを選ぶのです。

ブランドは、そうした「自己表現」の道具としても機能しているため、そのアイデンティティが消費者にとって共鳴するものであればあるほど、そのブランドは選ばれやすくなります。

このように、ブランド・アイデンティティは、消費者の内面と深く関わりながら、「自分に合っているブランドかどうか」「信頼できるブランドかどうか」といった判断に大きく影響を与えます。そしてその影響は、ブランドに対する好意、満足、さらには再購入といった一連の行動にまで広がっていくのです。

自社ブランドが社会に対してどんなメッセージを送っているのか、もう一度見直してみましょう。

参考文献:Aysegul Acar, Naci Buyukdag, et al. (2024). The role of brand identity, brand lifestyle congruence, and brand satisfaction on repurchase intention: a multi-group structural equation model.