Instagramマーケティングでブランドが投稿すべき写真

Instagramマーケティングでは、多くの企業がクオリティの高い写真を投稿しようと考えます。

従来の広告やカタログでも、プロがスタジオで撮影した高品質な写真が信頼や高級感を象徴していましたから、当然の考え方かと思います。

完璧に照明が整い、モデルの表情や構図も緻密に計算された写真は、まさにブランドの顔でした。

しかし、現代のSNSユーザー、とくにミレニアル世代やZ世代に対しては高品質な写真は逆効果となるかもしれません。

彼らは毎日のようにSNS上で他者と関わり、自分自身も発信者として見られる存在になっています。

つまりSNSは「人と人との会話の場」として機能しているのです。

そこに、いかにも広告然とした完璧な写真が流れてくると、直感的に「宣伝だ」と距離を置いてしまいます。

さらに、「あざとい」「演出しすぎ」と感じられる投稿はフォロワー離脱の原因にもなります。

つまり、SNSの世界では美しさの基準そのものが変わっているのです。

フォロワーがブランドに求めるのは「高級感」ではなく「リアルな共感」なのです。

Instagramで好かれる写真を調べた実験

では、どのような投稿が信頼と好感を生み出すのでしょうか?

Instagramでどんな写真を投稿すると好かれやすいかを検証した、ストックホルム商科大学のジョナス・コリアンダー准教授らの実験があります。

この実験では架空のブランド「Blacklabel」のアカウントを2つ作りました。

1つにはスタジオ撮影のプロっぽい写真を、もう1つにはスマートフォンで撮影したようなスナップショット写真を投稿し続けました。

被験者215名にどちらかのアカウントを1週間フォローしてもらい、1日1回はアクセスして当日の投稿のうちの一つに「いいね」を付けるよう指示しました。

そして一週間後に以下の項目について評価してもらいました。

  • 写真への好感度(例:この画像が好きだ)
  • ブランドの信頼性(例:Blacklabelは誠実だ)
  • ブランドへの好み(例:Blacklabelの印象は好ましい)
  • 推薦の意図(例:このアカウントを他人に勧めたい)

これらの評価を分析したところ、全ての項目においてスマホで撮影したようなスナップショット写真のほうが高い評価を得ました。

なぜInstagramでは日常的な写真が高評価なのか?

なぜ高品質な写真よりも、スナップショット写真のほうが高評価を得たのでしょうか?

この結果の背後には心理的・文化的なメカニズムが存在します。これを以下の4つの視点から簡単に説明します。

1. メディア環境との整合性(媒体の文脈効果)

まず最も根本的な理由は、Instagramという媒体の文化と写真の「文脈的整合性」が一致していたことです。

Instagramはもともと日常の一瞬を切り取るためのプラットフォームとして発展してきました。

ユーザーの多くがスマートフォンで撮影したリアルな瞬間を共有しており、そこに広告的で完璧すぎる写真が混ざると、場の雰囲気から浮いてしまうのです。

これに対し、スナップショット風の写真は「その場のノリ」に合致しています。

SNS上の「文化的期待」に沿っているため、自然に受け入れられやすく好感度も高まりやすいのです。

2. 処理流暢性理論

人間の脳は理解しやすく処理しやすい刺激を好む傾向があります。

これを心理学では「処理流暢性理論」と呼びます。

Instagramの利用者は、日常的なスナップ写真を見慣れています。

そのため、スナップショット風の投稿は脳にとって「見慣れた形式」であり、情報処理の負担が少なく済むため好まれやすいのです。

一方、スタジオ撮影の写真は「異質」であり、処理が困難なため好まれにくいのです。

3. オーセンティシティ(本物らしさ)の知覚

SNSユーザーは作られたイメージよりも、リアルで人間的な表現に価値を感じます。

スナップショット風の写真は、多少の粗さや偶然性を含むことで、「嘘がない」「素の姿を見せている」という印象を生みます。

こうした特性は、「オーセンティシティ(本物らしさ)」と呼ばれます。

このオーセンティシティの知覚が、ブランドの誠実さや信頼性につながります。

さらに研究では「オーセンティシティ=信じられる=好きになる=勧めたくなる」という心理的連鎖が起きていることが分かっています。

4. 社会的関係のシグナルとしての「日常性」

SNSでは、ブランドとフォロワーの関係が「企業→消費者」ではなく、「人↔人」に近い形で成立しています。

スナップショット的な写真は、フォロワーに対して「私たちは同じ世界にいる」という親近感のシグナルを送ります。

つまり、ブランドが「上から話しかける存在」ではなく、「同じ目線で共感できる存在」として認識されるのです。

一方、スタジオ写真は遠い存在や企業の宣伝を連想させ、親近感の形成を妨げます。

この社会的距離の差が、ブランドへの好感度や信頼性の差として現れたのです。

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ブランドが取るべきInstagramマーケティング戦略

では、実際にブランドがInstagramマーケティングを行う際には、どのような工夫が必要なのでしょうか。

ここでは、具体的な4つの戦略を紹介します。

1. 人間味のある瞬間を見せる

商品そのものだけでなく、ブランドの舞台裏や人の存在を伝えることが大切です。

社員の仕事風景、制作の過程、チームの笑顔、あるいはユーザーの日常的な使用シーンなど、「人のいるブランド」を感じさせる投稿が信頼を生みます。

2. 投稿のトーンをSNS文化に合わせる

Instagramではフォーマルすぎない軽やかさが好まれます。

完璧なライティングよりも、自然光や偶然の一瞬に価値があるのです。

言葉づかいも、カジュアルで会話的な方がフォロワーとの関係を深めやすくなります。

3. スタジオ撮影とのバランスを取る

すべての投稿をスナップ風にする必要はありません。

ブランドの世界観を保つために、スタジオ写真とスナップ写真を意図的に組み合わせるのが理想です。

特に高価格帯ブランドでは、「完璧さ×リアルさ」のバランスが鍵になります。

4. 一貫したビジュアル美学を持つ

日常的であることは雑であることではありません。

色味・トーン・構図などに一貫性を持たせることで、自然体でありながらも「ブランドらしさ」を維持することができます。

ブランドに求められるのは「共感されるリアル」

Instagramの企業アカウントは、もはや販促ツールではありません。

企業が自分たちの「価値観」や「世界の見方」を語る、人格のメディアへと進化しています。

どれだけ美しく整えた写真を載せるかよりも、どれだけ人の心に寄り添う表現ができるかが問われているのです。

フォロワーは、ブランドの投稿を広告としてではなく、人の発信として見ています。

過度に演出された世界よりも、ちょっとした生活感や予想外の瞬間に、親しみやリアルな信頼を感じるのです。

ブランドが等身大の姿を見せることは、消費者にとって「この企業も私たちと同じ世界に生きている」と感じさせるきっかけになります。

光の当たり方が少し乱れていても、構図が完璧でなくても、そこに真実味と温度があれば人は自然と心を動かされます。

そのような日常の一瞬を丁寧に発信し続けることで、共感されるブランドが確立されていくのです。

参考文献:J Colliander, B Marder. (2017).‘Snap happy’ brands: Increasing publicity effectiveness through a snapshot aesthetic when marketing a brand on Instagram.