企業はInstagramのアカウントにどんな内容を投稿すべきか?アイトラッキングによる研究

SNSマーケティングにおいては、どんなビジュアルを使うかによって、ユーザーの関心やエンゲージメント、さらにはブランド認知や購買意欲まで変わってきます。

中でもInstagramは、画像や動画といったビジュアルコンテンツが中心のプラットフォームであり、わずか数秒のスクロールの中で「目にとまるかどうか」が勝負となります。

そのような状況の中、多くの企業のSNS担当者が経験や勘を頼りに試行錯誤しているのが現状です。

そこで今回は、Instagramの投稿に対するユーザーの「視線の動き」を詳細に追跡した、サザンユタ大学のリージー・ジョウ准教授らの実験を紹介します。

どのような画像が注目されやすいのか、そしてそれがブランド認知や態度にどう影響するのかを分析したものです。

SNS運用やキャンペーン設計のための、実践的なヒントになるのではないかと思います。

アイトラッキング装置をつけてInstagramを閲覧する実験

この実験では、大学生272人を対象に、ブランドのInstagram投稿を見てもらいました。

使用された投稿は全て実験用に作成された架空ブランドのもので、3つのジャンル(コーヒー、ファストフード、デジタル機器)から選ばれています。

投稿画像には、以下の4つのパターンがありました。

  • 顧客:ブランドと顧客との関係性に焦点を当てた画像。商品を使っている様子や、ユーザーが投稿した自撮りなど。
  • 従業員:ブランドで働く従業員の画像。スタッフの紹介や職場の雰囲気、チームの活動の様子など。
  • 製品:商品の特徴や見た目を強調した画像。製品そのものを中央に配置し、カラー展開やデザイン、機能などを表示。
  • 象徴的なイメージ:商品や人が直接登場せず、ブランドの世界観や雰囲気を抽象的に表現する画像。物語性のある風景やアートなど。

さらに、それぞれの画像は「一人称視点」と「三人称視点」の2パターンで作られました。

一人称視点は、視聴者がその場にいるような感覚の構図で、三人称視点は対象を外から見る形になります。

参加者は時間制限なく、自由なペースで投稿を閲覧しました。

その間に、目がどこにどれだけ止まったか(視線の回数と時間)がアイトラッキングを計測する装置によって、記録されました。

そして、投稿を見終わった後、そのブランドを覚えているかや、どんな印象を持ったかを答えてもらいました。

注目されやすい投稿は「製品」と「顧客」にフォーカスしたもの

視線のデータを分析したところ、製品と顧客の画像が、より注目されやすいことが分かりました。

特に一人称視点では、顧客の画像がもっとも長く見られました。三人称視点では、製品の画像がもっとも注目を集めました。

象徴的なイメージや従業員中心の画像は、あまり見られませんでした。

ブランド名を覚えていたかどうかについては、視線を向けていた時間よりも、見た回数が大きく関係していました。

短時間であっても何度も見られると、ブランドを記憶してもらいやすい傾向にありました。

しかし、視線が多く集まったからといって、ブランドに対する印象が良くなるとは限りませんでした。

この実験では、視線と好感度の間に明確な関係は出ませんでした。

なぜ「製品」と「顧客」は視線を集めるのか?

「顧客」と「製品」のビジュアルが特に注目されたのかには、いくつかの理由があります。

【理由1】他のユーザーを自分と重ね合わせやすいから

まず、Instagramというプラットフォームの特性が影響しています。

Instagramは自己表現やライフスタイルの共有を目的とするユーザーが多いSNSです。

そのため、ユーザーは日常生活に関連のあるコンテンツや、自分自身と重ね合わせやすい投稿に自然と引きつけられます。

顧客中心の画像では、ユーザーと同じような人が製品を使っていたり、ブランドと関わっている様子が描かれているため、閲覧者が「自分ごと」として想像しやすくなります。

こうした共感や自己投影が視線を引きつけたのです。

【理由2】商品を探すという目的で閲覧しているから

また、製品中心の画像も注目を集めました。

これは、Instagramが「商品を視覚的に探す場所」としても利用されているためです。

ユーザーは新しいモノを発見したり、気になるアイテムのデザインや特徴を確認したりするために投稿画像をチェックしています。

製品の画像は、その外観やディテールがよくわかるように構図が工夫されていることが多く、視覚的な情報を求めるユーザーにとって魅力的に映ります。

特に三人称視点で撮られた製品画像は、商品の全体像がはっきりと見えるため、視線が集まりやすいのです。

このように、「自分と重ねられる人の姿」や「見てすぐに分かる商品情報」は、Instagramのユーザーにとって価値のある視覚情報であり、それが結果として注目につながったということです。

象徴的なイメージ画像の投稿が無意味なわけではない

研究の結果では、「象徴的なイメージ」は製品や顧客の画像に比べて、明らかに視線の滞在時間も回数も少ない傾向が見られました。

こうした画像には、具体的な人やモノが映っていないことが多いため、見る人が情報としてすぐに理解しにくく、注意を向けづらいためと考えられます。

特に、Instagramのように多くの投稿が並び、次々とスクロールされていく環境では、視覚的に意味が読み取りやすい画像の方が注目されやすくなります。

しかし、だからといって象徴的なイメージがマーケティングにおいて不要というわけではありません。

象徴的なビジュアルは、ブランドが大切にしている価値観や哲学、独自の世界観を言葉ではなく空気感で伝えることができます。

商品紹介のように「伝えるべき情報」が明確な場面では不向きかもしれませんが、ブランドの認知がある程度浸透している場合や、感性に訴えるブランディングキャンペーン、アート寄りのプロモーションなどには効果的です。

視線を集めることよりも、記憶や感情に余韻を残したい場面で、その真価が発揮されます。

つまり、どのタイプの画像が正解かは、投稿の目的、コンテキスト、タイミング、そしてターゲットによって大きく変わるということです。

「目を引くこと」だけをゴールにするのではなく、ブランドとしてどんな体験を提供したいのかを軸に、画像の種類や構成を柔軟に選んでいくことが大切です。

今回の研究は、ただ視線を集めるだけではブランドの好感度が上がるわけではないということも示唆されています。

注目を集めたその先に、共感や信頼といったより深い関係性を築けるかどうかが重要なのです。

参考文献:Lijie Zhou and Fei Xue. (2021). Show products or show people: an eye-tracking study of visual branding strategy on Instagram.