「2点購入すると両方25%オフ」や「2点買うと安い方が50%オフ」といったキャンペーンを展開している企業もあるかと思います。
一見するとどちらも同じような割引に思えますが、実際には消費者の行動に異なる影響を及ぼします。
たとえば、「両方25%オフ」となる場合、1点目の商品を選んだ時点でその商品にも確実に割引が適用されるため、消費者は安心して2点目の商品を「好きなもの」や「必要なもの」から選ぶ傾向があります。
一方で「安い方が50%オフ」の場合、割引額が2点目の値段に左右されるため、消費者は自分の好みよりも、「どうすればより大きな割引を得られるか」を強く意識します。
安価な2点目を選ぶと割引金額が小さくなってしまうため、無意識のうちに1点目に近い価格帯の商品を選ぶようになるのです。
その結果、2点目の平均価格が上がり、全体としての支出額が増えるのです。
アパレル店舗での検証実験
このことはティルブルフ大学のタチアナ・ソコロワ博士らが実店舗を使って行った実験でも証明されています。
この実験ではレディースのアパレルショップで4週間に渡り、セールを行いました。
前半の2週間は「2点購入すると両方25%オフ」のセールを行い、後半の2週間はや「2点買うと安い方が50%オフ」のセールを行いました。
購買データを分析したところ、どちらのセールでも購入率に差はありませんでした。1点でも商品を購入した人に限るとどちらも、約4割が2点目も購入して割引を受けました。
しかし、選ばれる商品の単価は以下のように異なりました。
- 2点購入すると両方25%オフ(1点目の平均単価):83ドル
- 2点購入すると両方25%オフ(2点目の平均単価):39ドル
- 2点買うと安い方が50%オフ(1点目の平均単価):72ドル
- 2点買うと安い方が50%オフ(2点目の平均単価):65ドル
1点目の平均単価は「2点購入すると両方25%オフ」の方が高くなりましたが、1点目と2点目の合計の金額、つまり顧客単価は「2点買うと安い方が50%オフ」の方が高くなったのです。
消費者の心理で何が起こったのか
このとき、消費者の心理ではどのようなことが起こっていたのでしょうか?
まず、「2点購入すると両方25%オフ」のケースでは、2つの商品に確実に割引が適用されます。そのため、2点目の商品でも「とにかく好きなもの」や「安く追加できるもの」を選びやすくなります。
これに対して「2点買うと安い方が50%オフ」のケースでは、割引額は2点目の価格に大きく依存します。高めの商品を選ぶほど、割引で得られる金額も大きくなるため、消費者は「できるだけ1点目に近い価格の2点目を買った方がお得だ」と考えます。
その結果、自分の好みよりも、割引額を優先して商品を選び、支出額が大きくなるのです。
つまり、割引額にどれだけ注意を持っていかれたかが、こうした違いを生んでいるのです。
収益向上を導く割引戦略の具体的アプローチ
このように割引の提示方法を変えるだけで消費者の購買行動や売上に大きな差が生じることが分かりました。特に「安い方を大きく割引する」というフレームは、消費者に高価格帯の二次商品を選ばせやすく、結果として購買額全体を押し上げます。企業はこの知見を活かして、販売目標や在庫状況に合わせた戦略的なプロモーション設計を行うべきです。
高価格商品の販売促進
「安い方を50%オフ」などの条件を設定することで、消費者は一次商品と価格が近い二次商品を選ぶ傾向が強まります。
これにより、通常なら購入しにくい高価格帯の商品を組み合わせて売ることが可能になります。結果として、顧客単価を引き上げ、プロモーション後の売上総額を増やす効果が期待できます。
在庫構成に応じたフレームの使い分け
「両方割引」のフレームは、比較的安価な商品を消費者に選ばせやすい傾向があります。
したがって、在庫を多く抱えている低価格帯商品を効率的に動かしたいときに有効です。一方で、利益率の高い商品や高価格帯の在庫を動かしたい場合は「安い方を大きく割引」するフレームを選ぶべきです。
顧客体験の最適化
消費者は直感的に「どちらの割引が得か」を予測するのが難しく、実際の支出結果と直感が食い違うことがあります。他の研究では、消費者が「両方25%割引の方が得だろう」と思っても、実際には「安い方を50%割引」のほうが支出が増えるということも分かっています。
この認知のずれを理解し、プロモーションの内容をわかりやすく伝えることで、顧客満足度を維持しつつ収益性を高められます。
収益最大化のためのシナリオ設計
時期や顧客層に応じてプロモーションのフレームを切り替える柔軟性を持つべきです。
新商品の立ち上げや高額商品の動きを強めたいときは「安い方を大きく割引」を使い、季節の終わりで低価格商品を一掃したいときは「両方割引」を使うことで、収益性と在庫回転を両立できます。
フレーミング効果の応用
今回の研究が示した、プロモーションの枠組み(フレーミング)次第で購買行動が変わるという知見は、必ずしも小売業界だけにとどまることではありません。
例えば、サブスクリプションサービスの料金プラン設計や、Eコマースのポイント付与方法など、消費者や利用者が「どの選択肢により価値を感じるか」を左右する場面は多岐にわたります。
また、AIを活用したパーソナライズド・オファーの開発が進む中で、フレーミング効果を理解して組み込むことが、単に売上を伸ばすだけでなく、消費者の選択に安心感や納得感を与えるためにも重要となってくるでしょう。
参考文献:Sokolova, Tatiana and Li, Yi, Mix or Match? Consumer Spending Decisions in Conditional Promotions (May 1, 2018). Journal of Consumer Psychology.