なぜCMO(最高マーケティング責任者)がいる企業は利益率が高いのか?4万社のデータ分析

CMO(最高マーケティング責任者)とは、その名の通り、企業のマーケティング戦略を統括する役職です。

今や多くの企業に設置され、経営戦略全体に大きな影響を与えているケースも少なくありません。

とはいえ、経営者の中には、CMOを置くことが本当に売上や利益に影響をもたらすのか、疑わしいという人もいるでしょう。

実は、これまで多くの研究がCMOの有無と企業の業績との関係を調べてきましたが、結論はバラバラでした。

アメリカ企業に偏った調査が多かったことなどが、その原因といわれています。

そんな状況の中、ケネソー州立大学のアタナス・ニコロフ准教授らが、地域や業種、文化を問わず、世界中の企業を対象に分析を行い、CMOが企業の利益や効率性に本当に貢献しているのかを明らかにしました。

CMO(最高マーケティング責任者)の有無と企業業績の関係

この研究は、93か国の上場企業およそ4万社のデータ11年分を調査対象としています。

まず、企業にCMOがいるかどうかを、役員名簿や年次報告書などから丁寧に調べました。それから、企業の業績指標として「総資産利益率(ROA)」を算出しました。

分析の結果、CMOが存在する企業は、有意に高い業績をあげていることがわかりました。

特に、複数の事業を展開している複雑な組織ほど、CMOの存在が企業の利益に良い影響をもたらしていました。

また、将来の不確実性を嫌う文化を持つ国(日本やドイツなど)の企業においても、CMOの存在が業績を押し上げる傾向が確認されました。

不確実性を嫌う文化とは、変化やリスクに慎重で、明確な指針や情報を求める傾向のことです。

これらの文化を持つ国の企業は、柔軟な対応に慣れておらず、創造性や即興的な行動を受け入れにくいため、マーケティングの効果が出にくいと考えられがちです。

しかし今回の分析では、これらの企業でもCMOの存在がプラスの効果をもたらすことが分かりました。

なぜCMOのいる会社は伸びるのか?

なぜ、CMO(最高マーケティング責任者)がいる企業の業績は良くなるのでしょうか?

それには次のような理由が考えられます。

【理由1】マーケティング戦略の全社的な統合が進む

CMOは企業全体のマーケティング活動を統括する役職です。

つまり、広告、ブランディング、製品開発、営業との連携など、断片的になりがちなマーケティング施策を、会社のビジョンや戦略に沿って一元的に設計・調整できます。

これにより、マーケティング投資の効果が最大化され、結果的に業績向上につなげることができるのです。

【理由2】複雑な組織構造をうまく調整できる

複数の事業部門が存在する企業では、それぞれが別々の市場や顧客に向き合っており、マーケティングの方向性がバラバラになり、無駄なコストも掛かりがちです。

そのような企業でも、CMOがいることで、全社的な方針が明確になり、マーケティング活動の重複や無駄を削減することができるのです。

実際に今回の研究でも、事業が複雑な企業ほど、CMOの効果が強く出ることが分かっています。

【理由3】不確実な環境に強くなる

国や市場によっては、消費者の好みや競合の動きが読みづらい、不安定な状況が続きます。

そのような市場でも、CMOは消費者インサイトの収集やブランド戦略の立案など、「情報収集と意思決定支援」の役割を担うことができます。

つまり、経営陣が不確実性に直面したとき、CMOが提供するデータと判断軸が、最適な意思決定の確率を高めてくれるのです。

【理由4】顧客志向が強まり、ブランド価値が上がる

CMOがいる企業では、「顧客中心の思考」がトップマネジメントに組み込まれやすくなります。

これにより、顧客体験の質が向上し、ブランドの信頼性やリピート率が高まりやすくなります。

こうした流れが、中長期的な収益率向上や成長の源泉になります。

【理由5】経営層との意思疎通がスムーズになる

CMOがトップマネジメント(経営陣)に加わることで、マーケティング視点が経営の中枢に反映されやすくなります。

特に、商品戦略や成長戦略を練る場面で、現場の声や市場の変化をダイレクトに経営判断に組み込むことができます。

それにより、ヒット率が高まるため、高収益へと結びつくのです。

CMOを置く余裕のない中小企業はどうすれば良いか?

CMOを置くことがプラスになるとはいえ、全ての企業に設置する余裕があるわけではありません。

しかし、CMOを置く余裕がない企業でも、マーケティングの力を経営に活かすことは十分に可能です。

ポイントは「CMO的な役割を誰かが担うこと」です。

つまり、専任の役員を置けなくても、経営陣の中に「市場や顧客に目を向け、全社の視点でマーケティング戦略を考える人」を明確に設定することが重要です。

社長自身がその役割を兼任するのも一つの手です。特に中小企業では、経営者がマーケットの動きや顧客の声を直に把握していることが多く、その感覚を会社全体の方針に活かすことができます。

また、マーケティングの専門家を外部から一時的に招く形で支援を受ける方法もあります。

全てを自社内で完結させるのではなく、必要な知見だけをスポットで得ることで、費用を抑えながらマーケティングの質を高めることができます。

さらに、社内でマーケティング思考を育てることも大切です。

社員の誰かにマーケティングの知見を身に着けさせ、少しずつ「市場の視点を持った意思決定」ができるようにすることで、組織全体にCMO的な発想を浸透させていけます。

マーケティングは宣伝ではなく経営

マーケティングは単なる宣伝活動ではなく、顧客の変化を捉え、売上や事業成長につなげるための重要な経営機能です。

最近では、マーケティングが新しい市場機会を見つけたり、商品開発の方向性を導いたりする場面でも中心的な役割を果たしています。

とくにデジタル化が進む現在、顧客のニーズはより細かく、より速く変化しています。その変化に気づけるかどうかが、企業の競争力を大きく左右する時代です。

どんな規模の企業であっても、マーケティングの力をうまく活用できれば、大きなチャンスをつかむことはできます。

参考文献:Atanas Nikolov , Plamen Peev & Mihail Miletkov (2021): Chief marketing officers and firm performance: A multinational perspective on the value relevance of the chief marketer.