BtoBビジネスにおいては、一度の取引額が大きく、また契約期間が長期に及ぶことが多いため、顧客との関係性が非常に重視されます。
企業は単なる商品やサービスの提供者としてではなく、ビジネスパートナーとしての役割が求められるのです。
そのためには、顧客のニーズや期待を正確に把握し、的確な提案や支援を行うことが欠かせません。
しかし、現実には日本の多くの中小企業が営業活動やマーケティング施策において、担当者の経験や勘に頼っている場面が少なくありません。
このような属人的な対応は、顧客が求めるものが複雑化・多様化している現代においては、見込み顧客の取りこぼしや、既存顧客の離脱につながります。
こうした課題を解決する手段として、データにもとづいたマーケティング戦略(データドリブンマーケティング)が注目されています。
企業が保有する顧客データや購買履歴、Web上での行動データなどをもとに、顧客ごとのニーズや関心を可視化し、より精緻なアプローチが可能になります。
こうしたデータドリブンなアプローチをCRM(顧客関係管理)に組み込むことで、顧客の行動を先読みし、個別の対応がしやすくなるのです。
その結果、顧客との接点が最適化され、信頼関係の構築がスムーズに進みます。顧客満足度が高まれば、リピート購入や契約更新にもつながり、結果として企業の収益の安定と成長を後押しすることにもつながります。
このように、データを活用したマーケティングは、BtoB企業にとって、不可欠な手段となりつつあります。
アパレル業界のBtoB企業を対象とした調査
BtoB企業が効果的なデータドリブンマーケティングを行うには、何にフォーカスすれば良いのでしょうか?
それを調べた、マウント・カーメル・カレッジの研究があります。
この研究では、アパレル業界のBtoB企業を対象として実証的な調査が実施されています。
調査手法としては企業のマーケティング担当者に対してオンラインでアンケートを実施しました。
アンケートの内容は多岐にわたり、企業がデータドリブンマーケティングを導入しているかどうかの現状把握に加えて、どのような技術が使われているのか、組織内のデータに対する文化や姿勢、データの正確性や一貫性といった質の側面についても詳細に尋ねられました。
また、データドリブンマーケティングを取り入れることで、実際にCRMのどのような側面が改善されたのか、あるいは導入に際して直面した課題には何があるのか、といった実務的な視点からも質問が行われました。
CRMの強化につながるデータドリブンマーケティング
調査の結果まず分かったことは、多くの企業が既にデータドリブンマーケティングを取り入れているということです。
回答した企業の約6割が、積極的にデータドリブンマーケティングを導入していると回答したのです。
中には、顧客の行動履歴や購買履歴をもとにキャンペーンを最適化したり、見込み客の選定にAIを活用したりしている事例もありました。
そして、特筆すべきなのは、多くの担当者が、データドリブンマーケティングを導入したことで顧客との関係性がより深まり、長期的な信頼を築けるようになったと実感している点です。
顧客からの反応をデータで素早く察知し、それに合わせてアプローチを変更することで、より満足度の高い対応が可能となっているのです。
クレームの早期発見や、リピート率の向上といった具体的な成果につながっているケースも見受けられました。
そして、このようなデータドリブンマーケティングの効果を得るためには、特に「データの質」と「テクノロジーインフラの充実」が重要であることも分かりました。
1.データの質
データドリブンマーケティングの効果を最大化するうえで特に重要であるとされたのが、「データの質」です。
データが正確で信頼できるものであればあるほど、顧客の動向を的確に把握できるため、CRMにおける施策もより効果的になります。
多くの回答者が、データの整備状況が施策の成果に直結していると考えており、単にデータを集めるだけではなく、品質管理が不可欠であるという認識が共有されていました。
2.テクノロジーインフラの充実
さらに、企業が持つ「テクノロジーインフラ」もデータドリブンマーケティングの成功に大きく影響する要因であることが明らかになりました。
高度な分析ツールや自動化システムが整っていれば、データを活用した顧客対応が迅速かつ柔軟に行えるため、CRMの各プロセスにおいて有利に働くという結果が示されています。
データドリブンマーケティングは仕組みづくりから
この研究は、BtoB企業にとってDDMがCRMを強化するうえで非常に役立つことを示しています。
特に、質の高いデータと、それを活用するための技術や組織文化が重要です。
ただし、現場ではデータ管理の難しさや、社内の抵抗感といった課題もあります。
これからのBtoB企業に求められるのは、データを「集めること」ではなく「使いこなすこと」です。
そのためには、社員全体でデータ活用の価値を理解し、変化に対応できる柔軟な組織作りが必要です。
今後は、業界ごとの事例や中長期的な効果についても研究が進むことが期待されます。
CRMを本気で強化したいと考えるBtoB企業の方は、まず「正しいデータ活用」の仕組み作りから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献: Sivakami R and KJ Abinaya. (2024). A Study on Data-Driven Marketing for Enabling Better CRM in B2B Industry.