食料品のパッケージの色やデザインは、売上に大きな影響を与えます。
不味そうに見えたり、不健康に見えたたら売れません。
なので、「美味しそう」かつ「ヘルシーそう」に見せたいところです。
彩度が高いと美味しそうに見えるが、不健康に思われる
しかし、ヘルシーに見えるパッケージは「味気なさそう」に映り、逆に美味しそうに見えるパッケージは「体に悪そう」に映るという矛盾があります。
こうした印象の違いは、「彩度」によって生み出されていることが多いです。
彩度とは、色の鮮やかさのことです。
たとえば、クッキリと濃いなオレンジ色と、くすんだオレンジ色では、前者の方が彩度が高いといえます。
これまでの研究では、彩度の高いパッケージは「美味しそう」と感じられやすい一方で、「カロリーが高そう」「健康には良くなさそう」といった印象を持たれやすいことが分かっています。
一方で、彩度が低いパッケージは「ヘルシーには見えるけれど、美味しくはなさそう」と受け取られやすいことも分かっています。
「彩度」×「主成分の色との一致」
「美味しさ」と「健康さ」を同時にアピールできるパッケージは存在しないのでしょうか?
それを調べたのが、ウィーン大学のカタリーナ・シュタイナー博士らの実験です。
この実験では、参加者に果汁ジュースのパッケージを見せ、「どれくらい美味しそうか」と「どれくらいヘルシーに見えるか」を評価してもらいました。
ジュースの種類はオレンジ、マンゴー、アップルの3種類で、それぞれのジュースに対して以下の4パターンのパッケージが用意されました。
- 彩度が高い×主成分との色が一致
- 彩度が高い×主成分との色が不一致
- 彩度が低い×主成分との色が一致
- 彩度が低い×主成分との色が不一致
※主成分との色の一致とは、例えば、オレンジジュースなら、オレンジ色のパッケージは一致で、赤色やピンク色のパッケージは不一致ということです。
彩度が高いパッケージは美味しそうに見える
実験の結果、分かったことは、彩度が高いパッケージの方が美味しそうに見えるということです。
さらにその効果は、主成分とパッケージの色が一致しているとき、特に高まりました。
彩度が低い場合も、主成分とパッケージの色が一致しているときのほうが美味しそうに見える傾向にありましたが、その差はそれほど大きくありませんでした。
彩度が高いパッケージのほうが美味そうに見えるのは、その鮮やかさが、日常的に見る果物や野菜の色と結びつき「新鮮」「味が濃い」「熟している」といった印象を与えるためと考えられます。
主成分とパッケージの色が一致していれば高彩度のほうがヘルシーに見える
ヘルシーに見えるかどうかに関しては面白い結果が出ました。
主成分とパッケージの色が一致している場合には、彩度が高いときのほうが、ヘルシーに見えると評価されたのです。
一般的なイメージや過去の調査では、彩度が低いパッケージの方がヘルシーに見られると思われていましたが、主成分の色と一致している場合には、逆になったのです。
これは、主成分と一致した高い彩度の色が、本物の果物を連想させ、「熟していて栄養がある」という直感的な判断につながったことが要因と考えられます。
なぜ高彩度でもヘルシーに見えるのか?
なぜ、今回のような結果になったのでしょうか?
それを説明する前に、なぜ彩度の高い色が、不健康に見られてしまうか?を考えてみましょう。
それは、「人工的だ」と感じてしまうからです。
自然界には彩度の高いもの(=ツヤツヤした原色のもの)は、意外と少ないです。
そのため、彩度の高いものを見たとき、脳は「人工的に作った=不健康」というイメージを持ってしまうのです。
しかし、主成分と同じ色であれば、より本物をイメージしやすくなりますから、人工的とは感じず、不健康なイメージも持たないということです。
果汁ジュースかスポーツドリンクかでも印象が変わる
ちなみに、今回の果汁ジュースの実験では、主成分の色と一致していないパッケージでは、彩度の高低とヘルシーに見えるかどうかに違いはありませんでした。
しかし、スポーツドリンクを使った別の実験では、低彩度の方が「よりヘルシーに見える」と評価されました。
これは、スポーツドリンクのように、最初から人工的なイメージが強いものにおいては、彩度の高さが、さらに不健康なイメージを高めてしまうからと考えられます。
パッケージデザインに応用する際の注意点
今回の実験結果をパッケージデザインに応用する際には注意点があります。
それは、使われた飲料パッケージがすべて実在しないブランドだったことです。
つまり、参加者はその商品について事前知識を持っていない状態で評価をしました。
もしこれが有名ブランドの商品であれば、ブランドのイメージや過去の経験が判断に影響を与える可能性もあります。
そのため、実際のマーケティングの現場では、パッケージの色だけでなく、ブランドの認知や既存の印象との組み合わせにも注意が必要です。
視覚の力は強力ですが、それを最大限に活かすには、商品全体の「文脈」を意識することが大切です。
色彩の設計は、見た目の工夫にとどまらず、ブランド価値や購買体験全体とつながる重要な戦略の一部なのです。
また、今回の実験対象者はドイツ人とオーストリア人ですから、必ずしも日本人と同じセンスとは限らないことにも注意してください。
参考文献:Steiner, K., Kunz, S. and Florack, A. (2025), How can health look tasty? Effects of packaging color saturation on beverage health and taste expectations depend on color match.