ジオターゲティング広告のデメリットは心理的リアクアタンス!効果を最大化する方法

スマートフォンの普及により、位置情報を活用したモバイル広告、いわゆるジオターゲティング広告が一般化しています。

「近くのスターバックスでラテが50%オフ」といった通知に心を動かされる消費者も少なくありません。

しかし、ターゲティングがあまりにピンポイントすぎると、消費者が「監視されている」と感じ、広告に反発してしまうというデメリットもあります。

このような反発は「心理的リアクタンス」と呼ばれ、広告効果を損なう原因となります。

そこで今回は、位置情報と行動データを活用したジオターゲティング広告において、どのような条件下で広告効果が高まり、逆にどんな場合にデメリットが生じてしまうのかを、実証実験に基づいて解説します。

大切なポイントは消費者の商品への「関心度」によって、戦略を変えることです。

ジオターゲティング広告の効果を検証

キングス・ビジネス・スクールのステファン・F・ベルンリッター教授らがジオターゲティング広告の効果を検証するために、いくつかの段階的な実証研究を行っています。

それぞれ異なる方法を用いながら、実際の購買行動と心理的反応の両方に着目し、戦略設計に必要な示唆を導き出すことを目的としています。

1.小売店でのフィールド調査

最初に行われたのは、ファッション小売企業の協力を得て実施されたフィールド調査です。

この調査では、同企業の公式モバイルアプリと連動した位置情報システムを用い、店外(ジオフェンシング※1)および店内(ビーコン※2)で広告を配信しました。

そして、実際にその後消費者が広告された商品カテゴリを購入したかどうかを追跡し、広告の配信場所が購買行動に与える影響を分析しました。

その結果、商品への関心が低い消費者に対しては、店内で広告を受け取ることで購買確率が有意に上昇することが確認されました。

一方で、商品への関心が高い消費者にとっては、店外での広告効果はありましたが、店内での広告配信はむしろ逆効果となり、購買確率を下げる傾向が見られました。

※1特定の地理的エリアに仮想的な境界線を設定し、その範囲に出入りしたユーザーに対して自動的に通知やアクションを行う技術です。
※2近距離にいるスマートフォンに向けて信号を発信する無線技術。

2.仮想現実(VR)を活用した実験

次に行われたのは、仮想現実(VR)を活用したラボ実験です。

この実験では、VR空間内に再現されたスーパーマーケットを舞台に、参加者が商品を探して買い物をするというシナリオが用意されました。

広告は、店内または店外のタイミングでモバイル端末に表示され、消費者が広告をどう感じたか(特に心理的リアクタンス)や、その後実際に広告対象の商品を選んだかを記録しました。

こちらの実験では、商品への興味が薄い参加者にとっては、店内で広告を受け取ることでリアクタンスが抑えられ、購買行動につながることが確認されました。

一方、商品への興味が強い参加者は、店内でのパーソナライズされた広告を「過剰である」と感じやすく、心理的リアクタンスが高まり、結果的に購買を避ける傾向が見られました。

消費者の反応は単なる好みではなく、心理的な自由の侵害に対する防衛反応として現れていたということです。

3.広告がない場合との比較

3つ目の調査では、前述の店内・店外広告の効果を、広告が全くない場合と比較しています。

この実験でも、商品への関心が低い消費者には店内広告が有効であり、高い消費者には逆効果になる傾向が再現されました。

さらに、広告がなかった場合と比べても、条件によっては広告が購買を促す一方で、場合によっては広告なしの方が購買率が高いケースもありました。

ターゲティングの精度が高すぎると逆効果となることがあったのです。

4.割引と非価格型プロモーションの比較

最後の調査では、広告の内容、すなわち価格割引か非価格型プロモーションかという違いが、PCIとどのように相互作用するかを検証しました。

広告はすべて店外で配信され、内容のみが異なる条件として設定されました。

分析の結果、商品への関心が低い消費者にとっては、割引のある広告プロモーションが最も効果的でした。

反対に、関心が高い消費者には、新商品の情報提供やブランドストーリーなどを伝える非価格型プロモーションの方が効果的であることが示されました。

価格訴求は強力なインセンティブではあるものの、関与度が高い消費者にはかえって「安売り」として価値を損ねる可能性もあるということです。

また、この調査においても心理的リアクタンスが重要な媒介変数として作用しており、プロモーションの種類によって心理的反応が変わることが購買意欲に直結するというメカニズムが裏付けられました。

ジオターゲティング広告を効果的に活用する方法

企業がジオターゲティング広告を効果的に活用するには、「誰に・どこで・どのような広告を出すか」の3つの要素を慎重に組み合わせる必要があります。

今回の実証研究から導かれる最も重要なポイントは、消費者の「製品カテゴリへの関与度(Product Category Involvement:PCI)」に応じて、広告の内容とタイミングを調整することです。

1.関与度が低い消費者への戦略

まず、関与度が低い消費者、すなわちその商品カテゴリにあまり関心を持っていない人に対しては、店内で広告を表示することが有効です。

商品が目の前にあるという状況と広告の訴求が一致することで、購買への心理的距離が縮まり、行動につながりやすくなります。

このときには価格割引など、具体的でわかりやすいインセンティブを提示すると効果が高まります。

たとえば、「この商品、今だけ30%オフです」というメッセージなどは、店内で出会った商品に対する即時的な関心を喚起します。

2.関与度が高い消費者への戦略

一方で、関与度が高い消費者、すでにその商品カテゴリに興味や知識がある人に対しては、店外で広告を配信する方が効果的です。

店内での過度にパーソナライズされた広告は「押しつけがましさ」や「監視されている感覚」を生みやすく、リアクタンス(反発)を誘発するおそれがあります。

店外での広告はその点で心理的な距離を保てるため、情報として自然に受け入れられやすくなります。

また、関与度の高い消費者には、価格割引よりも新商品の案内やこだわりの品質に関する情報といった非価格型プロモーションが好まれる傾向があります。

消費者心理を踏まえた設計力が求められる

以上のように企業がジオターゲティング広告を設計する際には、まずターゲットとする消費者の関与度を把握し、その上で広告の配信場所と内容を最適化することが重要です。

関与度が低い消費者には「店内×価格訴求」、関与度が高い消費者には「店外×情報訴求」というように、それぞれの組み合わせで心理的リアクタンスを抑え、購買意欲を高めることが求められます。

また、パーソナライズの精度を高めるだけでなく、「なぜこの広告が自分に届いたのか」が自然に納得できる設計になっていることも、消費者の受容度を左右します。

違和感のない文脈、過度でないタイミング、信頼できるブランド発信であることが、ジオターゲティング広告の成功を左右する要因となります。

企業は、技術的な正確性と同時に、受け手の心理を踏まえた設計力が求められるのです。

参考文献:Bernritter, S.F., Ketelaar, P.E. & Sotgiu, F. Behaviorally targeted location-based mobile marketing.