新製品開発におけるデザインの戦略的価値:1300社の研究データから読み解く

新製品を市場に投入しても、なかなか売れない。良いアイデアがあっても、最終的な製品にうまく反映されない。

こうした悩みを抱える経営者の方は少なくないと思います。

多くの企業が技術力やマーケティングに注力する一方で、意外と見落とされがちなのがデザインの戦略的価値です。

ただ見た目を整えるだけの存在と思われがちなデザインですが、その真価はもっと深いところにあります。

実は、新製品の開発においてデザイン担当者がどの段階で、どのように関与するかによって、成果に大きな差が生まれることが、実証的に明らかになってきました。

1,300社の新製品開発に関するデータ分析

ウォーリック・ビジネス・スクールのステファン・ローパー教授らが、新製品開発へのデザイナーの関与度(新製品開発のプロセスにおいて、デザイン担当者がどの程度、関わっているかの度合い)の影響について調べた研究があります。

この研究では、1991年から2008年までの期間に実施された3回の大規模調査から、約1,300の製造業のデータを収集しています。

データの収集は郵送と電話によるもので、企業の経営者や開発責任者に対して、新製品開発に関する詳細な情報を尋ねています。

研究チームはまず、各企業が新製品を市場に導入したかどうかを確認しました。

そして、それらの新製品が売上の何割を占めているか、また、それらの製品が「市場にとって新しいもの」なのか「自社にとって新しいもの」なのかを分類しました。

次に注目したのは、デザイナーが開発プロセスのどの段階に関わっていたかという点です。

企画、試作、設計、マーケティングなど、合計7つの段階について、それぞれ関与の有無を確認しました。

最後に、統計モデルを用いて、「デザイナーの関与度」と「新製品の成果(売上や革新性)」との関係を分析しています。

このようにして、表面的な関連ではなく、因果関係に近いかたちでデザインの効果を検証しています。

デザイナーの関わり方が新製品の売上と革新性に影響する

収集したデータを分析した結果、デザインの担当者が新製品開発に関与することで、売上や製品の革新性にプラスの影響を与えることが明らかになりました。

特に重要だったのは、単にデザイナーの意見を取り入れるだけでなく、「どのように」取り入れるかという点です。

デザイナーが限られた一部の工程、たとえば試作や設計のみに関わる場合でも、売上においては一定のプラス効果が確認されました。

しかし、それ以上に効果的だったのは、デザイナーが複数の工程にまたがって関与するケースです。

最も顕著に効果が出ていたのが、デザイナーが新製品開発の全工程に継続的に関わるケースでした。

このような企業では、新製品による売上が他の企業に比べて20ポイント以上も高いことが示されました。

また、この効果はすべての企業で等しく現れるわけではありませんでした。

自社内で研究開発(R&D)を行っている企業では、デザインの関与による効果が特に大きくなっていました。

逆に、R&Dを行っていない企業では、デザイナーの関与による効果は限定的でした。

さらに、企業の規模によっても違いが見られました。

大企業では継続的なデザイン関与によって効果が強くなりますが、小規模な企業では一部の段階に関与するだけでも十分な効果が得られることが分かりました。

なぜデザインは売上と革新性にプラスの影響を与えるのか?

なぜ、デザイナーが新製品開発に関与すると、売上や製品の革新性に良い影響を与えるのでしょうか?

それには次のような理由が挙げられます。

1.ユーザー体験を高める

デザインは製品の見た目や使いやすさといった「ユーザー体験」を高める役割を担っています。

現代の消費者は、機能的に優れた商品を求めるだけでなく、感覚的に心地よい体験を提供してくれる製品に強く惹かれます。

デザインが関与することで、こうしたニーズに応える製品が生まれやすくなり、結果として市場での支持を得やすくなります。

2.技術者やマーケターに視点をもたらす

デザイナーは開発チームに新たな視点をもたらします。

デザイナーが関与することで、技術者やマーケターは異なる立場から問題を捉えることができます。

それにより発想の幅が広がり、他にはない独自性のある製品が生まれる可能性が高まるのです。

これにより、製品が単なる改良にとどまらず、これまでにない価値を持つ「革新的」なものへと進化するのです。

3.商品コンセプトの一貫性が保たれる

デザイナーが早い段階からプロジェクトに関与していると、商品のコンセプト設計から市場投入に至るまでの一貫性が保たれやすくなります。

これにより、顧客にとって分かりやすく魅力的な製品が完成しやすくなります。

逆に、デザインが後工程にしか関わらない場合、開発の意図や価値提案がうまく伝わらず、製品の魅力が弱まってしまうことがあります。

4.他社製品との差別化がされやすい

デザインは他社製品との差別化にも効果的です。

似たような機能を持つ商品が多い市場では、見た目や使い心地といった要素が、最終的な購買の決め手になることが少なくありません。

ユニークなデザインは製品の印象を強め、記憶に残りやすくするため、ブランド価値の向上にもつながります。

このように、デザインが単なる装飾ではなく、新製品開発の中核に関与することで、より魅力的で革新的な製品が生まれるのです。

だからこそ、デザインの関与度は企業の成果に直結すると言えます。

デザインを新製品開発の新たな柱に

この研究は、企業がデザインを「いつ、どのように」活用するかが、新製品開発の成否を大きく左右することを明確に示しています。

ただの装飾や見た目の調整ではなく、プロセス全体に戦略的にデザインを取り入れることで、売上や製品の革新性が大きく高まるのです。

特に今後、顧客体験やブランディングがますます重視される中で、デザインの重要性はさらに高まっていくと考えられます。

製品開発においては、技術やマーケティングと並ぶもう一つの柱として、デザインの役割を再評価する必要があります。

参考文献:Stephen Roper, Pietro Micheli. (2016). The roles and effectiveness of design in new product development: A study of Irish manufacturers.