デジタルサイネージ広告は効果があるのか?事例研究で判明した売上アップの条件

店舗の売上を伸ばすために、今や多くの企業が注目しているのが「デジタルサイネージ広告」です。

動画で動きのある広告を流すことで、来店客の目を引き、購買行動を後押しできるのではないか──そんな期待から導入を検討する企業が増えています。

しかし、「とりあえず設置すれば効果が出る」というほど、現実は甘くありません。

実際のところ、デジタルサイネージ広告はどのような条件で効果を発揮し、逆にどんな場合に意味をなさないのでしょうか?

デジタルサイネージ広告の売上アップ効果

デジタルサイネージ広告の導入による購買行動の変化を分析した、ニューカッスル大学のチャールズ・デニス教授らの調査があります。

この調査はイギリスの大手スーパーマーケット「テスコ」が展開する100店舗を対象に行われたものです。

各店舗には、ヘルス&ビューティーや酒類、エンタメ商品などの売場ゾーンごとに40台以上のデジタルサイネージ広告が設置され、それぞれの売場に関連する商品情報コンテンツが繰り返し表示されました。

表示される内容は、新商品の案内、プロモーション情報、季節限定商品、一般的なブランド広告など、さまざまな種類のものがありました。

そして、デジタルサイネージ広告を導入している店舗と、導入していない店舗群の売上データを比較することで、広告の影響を統計的に明らかにしました。

「今何が安いのか」を表示したときが最も効果的

購買データを分析したところ、デジタルサイネージ広告が最も大きな効果を持つのは、来店客の「今この場での買い物ニーズ」に直結する情報を提示したときであることが分かりました。

たとえば、「今日は何が安いのか」「どんな新商品があるのか」「季節限定のおすすめは何か」といった具体的で実用的な情報は、顧客の消費行動に大きく影響しました。

こうした情報は、購買意思決定を促進し、短期的な売上を明確に押し上げたのです。

一方で、商品イメージやブランド価値を訴求するような、一般的なブランド広告は、来店者の購買行動にはあまり影響を与えませんでした。

広告効果が出やすいカテゴリ

商品カテゴリによって広告の効果に差があることも確認されました。

たとえば、キャンディーやスナック、ソフトドリンク、ワインやビール、DVDなどのヘドニック(快楽的)な商品では、デジタルサイネージ広告の影響力が大きく、平均で約14%もの売上アップが見られました。

これに対し、シャンプーや食器用洗剤、剃刀といった実用的な商品では、広告効果は比較的低くなっていました。

この傾向は、消費者が計画的な購入よりも、その場の気分や欲求に左右される商品のほうが、視覚的な刺激に敏感に反応しやすいことを示しています。

30秒で1回だけ表示か?15秒で2回表示か?

広告の見せ方に関しても重要な示唆が得られました。

たとえば、1回の30秒広告よりも、同じ内容を15秒ずつ2回に分けて放映したほうが、売上への効果が50%以上高まるという結果が出たのです。

これは、繰り返しの接触によって、来店者の記憶や注意がより強く喚起されることが原因と考えられます。

デジタルサイネージ広告のハロー効果

デジタルサイネージ広告の効果は単にその場で紹介された商品にとどまらず、同じブランド内の他商品や、関連する商品カテゴリ全体にも波及する「ハロー効果」が見られました。

実際に、広告対象商品の売上が伸びただけでなく、ブランド全体の売上が約7倍、カテゴリ全体では11倍以上の売上増加が観測された事例も報告されています。

このように、デジタルサイネージ広告は、内容・タイミング・表示方法の工夫次第で、非常に大きな購買促進効果をもたらすことが明らかになっています。

企業がデジタルサイネージ広告を効果的に活用するための戦略

企業がデジタルサイネージ広告を効果的に活用するには、単にモニターを設置して動画を流すだけでは不十分です。

重要なのは、来店客の状況や心理に合わせて「何を、いつ、どこで、どのように見せるか」を設計することです。

まず、デジタルサイネージ広告の設置場所は非常に大切です。

研究では、ディスプレイの角度や高さ、通行方向に対しての視認性が、広告の注目度を大きく左右することがわかっています。

とくに、遠くからでも目に入りやすい位置に設置された画面のほうが、立ち止まって見る人の割合が高くなっていました。人の流れを観察し、自然と目に入るような配置を意識することが重要です。

また、時間帯や曜日によっても、来店者の行動パターンは異なります。

たとえば平日の午前中は目的買いの人が多く、広告への反応は低めですが、夕方や週末は「ついで買い」や「なんとなく見て回る」来店客が増えるため、効果が高まる傾向があります。

時間帯に応じて流すコンテンツを変えることで、より高い反応が期待できます。

さらに、情報の「更新頻度」も効果に影響します。デジタルサイネージ広告の内容がいつも同じだと、リピーターにとっては「背景」と化してしまい、注目されなくなってしまいます。

週単位、あるいは商品入れ替えのタイミングなどに合わせて、こまめに内容を入れ替える工夫が求められます。

今後の可能性として注目されているのが「パーソナライズド・サイネージ」です。

AIやセンサー技術を使い、通行者の年齢層や性別、混雑状況に応じて、表示する広告を切り替えるような仕組みが実用化されつつあります。

このような技術を活用すれば、より的確なタイミングでメッセージを届けることが可能になります。

デジタルサイネージ広告はABテストにも最適

デジタルサイネージ広告は、単なる映像表示装置ではなく、リアルタイムに顧客の注意を引き、購買を後押しできる強力なマーケティングツールです。

ですが、その効果を最大限に引き出すには、データに基づいた設計と運用が必要です。

実は、デジタルサイネージ広告は「テストと改善」にとても適したメディアでもあります。

紙のPOPやポスターと違って、コンテンツを簡単に差し替えることができるため、複数のバージョンを試し、効果の高いパターンを見つけることができます。

たとえば、AパターンとBパターンの広告を異なる店舗で表示し、売上の差を見ることで、より良い表現や訴求点を見極めることができます。

また、最近ではスマートフォンを連携させる仕組みも登場しています。

QRコードやBluetoothビーコンを使えば、画面に表示された情報をその場でスマホに取り込み、クーポンを配布したり、商品詳細をWebで見せたりといった新しい導線をつくることも可能です。

デジタルサイネージ広告は単なる映像ツールではなく、顧客との対話の場として活用されるべき存在なのです。

参考文献:Charles Dennis, J. Joško Brakus, et al. (2014). The effect of digital signage on shoppers’ behavior: The role of the evoked experience.