社員のモチベーションが低下する原因!割引キャンペーンをしているせいだった

手っ取り早く集客したいと思ったとき、つい割引キャンペーンに走りがちです。

こういった分かりやすいマーケティング施策は、顧客に伝わりやすいですから、効果も出ます。

しかし、いつも割引ばかりしていると、顧客に「安くなるまで待てばいいや」という心理を持たれてしまい、通常価格で売れなくなることもあります。安っぽいイメージがついてブランド価値も毀損します。

実はそれだけではなく、割引にはもっと危険なデメリットがあるのです。

それは、社員のモチベーションが低下するということです。

なぜなら、商品やサービスの割引が、自分の仕事の価値まで低く評価された気分につながるからです。

割引の機会が多いと感じている社員はモチベーションが低い

WHUオットー・バイスハイム経営大学の研究チームが、ホテルやサービス業界で働く約300人を対象に行った、アンケート調査があります。

このアンケートでは、勤務先がどれくらい頻繁に、割引キャンペーンを行っているかを聞き取りました。また、仕事に意義を感じているかや、モチベーションも確認しました。

その結果、割引の機会が多いと感じている社員ほど、仕事に意義を感じず、モチベーションも低い傾向にありました。

しかも、辞めたい気持ち(離職意向)まで高いことが分かりました。

さらに別の人たちを対象に行ったアンケートでは、割引の金額や率が大きくなるほど、こういったマイナス効果が大きくなるという結果が出ました。

なぜ割引が社員のモチベーションを低下させる原因となるのか?

なぜ割引が社員のモチベーションを低下させるのでしょうか?

それは、割引によって、自分の仕事の価値を否定されたように感じるからです。

サービスや商品を通常よりも安い価格で売ると、その分だけ、「自分の働き」の価値も下がったように受け取る社員は少なくありません。

特にサービス業のように、社員の接客や技能がそのまま商品となる現場では、価格の変化が自身の評価と直結していると感じやすくなります。

社員は、自分の仕事が社会や組織にとって意味のあるものだと感じることで、モチベーションを維持しているのです。

そのため、割引が頻繁に行われたり、割引率が大きかったりすると、仕事の重要性が軽く扱われていると認識してしまいます。その結果、仕事に対する誇りや、やる気が損なわれてしまいます。

さらに、こうした割引は多くの場合、現場の意見とは無関係に経営判断として行われるため、社員は「会社は自分を評価していない」と感じやすくなります。

このような感情は、一時的に気分が落ち込むといった表面的な影響にとどまりません。仕事への情熱が失われ、職場に対する心理的な距離が生まれ、最終的には職場への忠誠心や定着意識が弱まる原因となります。

社員が「この会社では自分の貢献が軽んじられている」と感じれば感じるほど、やる気を失い、離職の可能性も高まっていきます。

このように、割引というマーケティング上の施策が、知らず知らずのうちに社員の内面に悪影響を及ぼしているということです。

割引の悪影響を抑えるための施策

顧客向けの割引が社員のモチベーションを下げる可能性がある以上、その悪影響を最小限に抑えるための対策が求められます。

会社としては、主に以下の3つの方向から対策を講じることが効果的です。

1.割引の目的と意義を社員に明確に伝える

社員が割引を「自分の仕事の価値が下がった」と受け取るのは、多くの場合、その背景や目的を知らされていないからです。

そこでまず重要なのは、割引を実施する際に、その理由や戦略的意図(例:季節的な集客対策、新規顧客の獲得、在庫調整など)を現場に明確に共有することです。

たとえば、「今回は競合他社の動きに対応するための短期施策」というように具体的な狙いを説明することで、社員の受け止め方は大きく変わります。情報の非対称性を減らすことで、誤解や不信感を防ぐことができます。

2.感謝と評価を明示的に伝えるマネジメント

研究では、社員が「会社から感謝されていない」と感じることが、モチベーション低下の中心的な要因であると示されています。

割引を行うことで発生するこうした感情的ギャップを埋めるには、日常的に上司やマネージャーが感謝や承認の言葉を伝えることが不可欠です。

割引期間中の業務に対して「忙しくなっても、サービスの質を落とさずに対応してくれてありがとう」といったフィードバックを行うだけでも、社員の心理的な満足感は大きく変わります。割引によって失われた「仕事の意味」を、感謝や賞賛によって補う姿勢が重要です。

3.割引の設計自体を見直す

割引の頻度や割引率が高すぎると、それ自体が「仕事の価値を下げている」という強いメッセージとして働きます。

そのため、割引戦略の設計段階で「社員への心理的影響」も考慮する視点が必要です。

大幅に価格を下げる場面では、その分を「特別キャンペーン」や「社会貢献」などポジティブな理由づけと組み合わせることで、割引のネガティブな印象を弱める工夫が有効です。

また、価格を下げる施策の代わりにサービス内容を追加する「バリューアップ型のプロモーション」や、限定的・選択的な割引(会員限定、紹介者限定など)を活用することで、悪影響を最小限に抑えることができます。

社員のモチベーションが企業の持続的成長につながる

サービス業では、社員一人ひとりの「感情」や「熱意」が顧客体験の質を大きく左右します。

そのため、社員のモチベーションの維持は経営上の根幹課題といえます。

特にに最近は、「意味のある仕事をしたい」と考えるZ世代やミレニアル世代の割合が増えており、仕事の意義や、自分の貢献がどう評価されているかに対する感受性が、以前にも増して高まっています。

このような環境においては、売上や集客を目的とした割引が、知らず知らずのうちに社員のやる気や誇りを傷つけていないかを見直す視点が求められます。

企業が長く価値を提供し続けていくためには、お客様だけでなく、現場で働く人たちにも「この仕事には価値がある」と感じてもらえる環境を整えることが欠かせません。

モチベーションは目に見えにくいものですが、その影響は確実に日々のパフォーマンスに表れます。それを守ることは、企業全体の持続的な成長のためにも必要な投資なのです。

参考文献:Troebs, C.-C., Wagner, T., & Herzog, W. (2020). Do Customer Discounts Affect Frontline Employees ?