ネットショップを運営していると、「もっと詳しく説明すれば売れるはず」と思い、つい情報を盛り込みたくなるものです。
商品の特徴や魅力、レビュー、使い方まで、丁寧に書き込んだ商品ページは、一見すると親切で信頼感のあるものに見えるかもしれません。
しかし実際には、その「情報の多さ」が消費者の購買意欲を下げてしまっている可能性があります。
最近の調査では、情報を与えすぎることで、消費者が混乱したり不安になったりし、結果として「何も買わずに離脱する」という行動を選びやすくなることが明らかになっています。
ネットショップの情報量と購買意欲の関係
ネットショップに掲載される説明文などの情報量が、消費者の心理にどのような影響を当たるのかを調べた、南京工業大学などのチームによる研究があります。
この研究では約200人の男女を対象に、商品に関する情報と、それに対する心理的負担や、それによる購買行動への影響について、聞き取りを行いました。
その結果、商品の説明が多すぎると、ネガティブな心理状態となり、「買いたい」という気持ちが低下してしまうことが分かりました。
説明の多いネットショップが売れない理由
商品説明が多いと消費者はなぜ「買わない」という選択をしてしまうのでしょうか?
その理由には主に脳の処理能力の限界と心理的な不安の増加が関係しています。
ここでは、それをできるだけわかりやすく、段階的に説明します。
1.脳は一度に処理できる情報量に限りがある
脳には処理できる情報量に限界があるため、情報が多ければ多いほど負担が大きく掛かります。
これを「認知的負荷(cognitive load)」と呼びます。
ネットショップでは、商品の仕様、サイズ、レビュー、比較表など、多くの情報が一度に表示されます。
それらをすべて理解し、比較し、判断するには、相当な集中力と判断力が求められ、認知的負荷がかかります。
認知的負荷が高まると、消費者は次第に「面倒くさい」「疲れた」「もう少し後で考えよう」と感じるようになります。
そして最終的には、商品を選ぶこと自体を避けてしまい、ページを閉じて何も買わずに終わってしまうことが多くなるのです。
2.「選べない」ことで不安が強くなる
人は判断材料が増えすぎると、判断への自信を失ってしまう傾向があります。
たとえば、性能がよく似たパソコンが10種類並んでいて、それぞれに長い説明が書かれていた場合、違いを正確に理解して選ぶのはかなり大変です。
その結果、「決めきれない」「自信が持てない」と感じてしまい、「今は買わなくていいや」と決断を先送りしてしまうことがよくあります。
3.フラストレーションや疲労が購買意欲を下げる
たくさんの情報を読んで比較しても、答えが出ないと人はイライラします。
そして、「なんだか疲れた」「考えるのがしんどい」と感じるようになります。これがフラストレーションや心理的疲労につながります。
買い物は本来、楽しい体験であるべきですが、情報過多のせいで逆に「ストレス」や「不快感」を感じると、人はその状況から逃げたくなります。
そして、その手段として「買わない」という選択を無意識に取るのです。
4.判断を間違いたくない気持ちが「やめる」行動につながる
ネットショッピングでは実物を手に取れない分、「失敗したくない」という気持ちが強くなります。
そのため、情報が多くて複雑になればなるほど、「自分の判断が正しいか不安になる」「間違えるくらいなら買わない方がいい」と考えてしまいます。
これは「リスク回避」という心理で、特に高額商品や初めて買う商品に対してよく見られる反応です。
消費者を離脱させないECサイトの設計
こうした消費者心理を踏まえると、ECサイトは「情報の量」よりも「情報の出し方」や「見やすさ」「選びやすさ」に重点を置いて設計することが大切だとわかります。
以下では、情報過多によって消費者がストレスや混乱を感じて購買をやめてしまわないようにするための、具体的な改善ポイントを説明します。
1.情報は「必要なときに見せる」構造にする
すべての情報を最初から一度に見せると、消費者は圧倒されてしまいます。そこで「情報の出しすぎ」を防ぐために、段階的に情報を開ける仕組みが効果的です。
- 「商品概要」→「詳細を見る」ボタンで追加情報を開く
- タブ形式(スペック/レビュー/Q&A)で内容を整理する
- よくある質問(FAQ)は折りたたみ式にする
このように、必要な人だけが深掘りできる構造にすることで、関心のある情報にだけ集中でき、認知的負荷を下げることができます。
2.比較しやすいシンプルな表現を使う
専門用語が多かったり、文章が長かったりすると、「読むのが面倒」「意味がわからない」と感じさせてしまいます。視覚的に理解しやすいデザインが求められます。
- アイコンやイラストで機能を簡潔に伝える
- スペック表は横並び比較ができるようにする
- 「この商品は○○な人におすすめ」といった短い要約をつける
こうした工夫によって、消費者が「自分に合っているかどうか」を素早く判断できるようになります。
3.選択肢を絞る・絞りやすくする
選べる商品の数が多すぎると、「どれがいいかわからない」と迷いが生じます。選択肢を整えることが、購入の後押しになります。
- 「おすすめ順」「人気順」などの初期ソートを工夫する
- 利用シーンや悩み別のフィルター機能を設ける
- 「スタッフの一言コメント」などで決定をサポートする
選ばせすぎないことが、判断をスムーズにするポイントです。
4.判断に安心感を持たせる仕組みをつくる
情報が多いと、「本当にこれでいいのか」と不安になりやすくなります。買い物に対して安心してもらうための要素を明確に伝える必要があります。
- レビューの要点をまとめて表示(★の数+短いコメント)
- 「この商品を買った人はこんな商品も買っています」
- 返品保証やサポート体制をわかりやすく提示
こうした安心材料が、購入の後押しにつながります。
5.感情的なストレスを減らすデザインにする
文字の大きさや色、余白などの視覚設計も、心理的な疲労に大きく関わります。ごちゃごちゃしたレイアウトは、それだけで「読む気」をなくしてしまいます。
- 余白をしっかりとる
- 重要な情報だけを強調(太字・色分けなど)
- 文字サイズや行間を適切に保つ
見た目のストレスを減らすことで、滞在時間が延び、自然な購買行動につながります。
迷わずに判断できる情報設計やデザインが重要
ネットショップでは、商品の良さを伝えることはもちろん大切ですが、それ以上に「どう伝えるか」が重要になってきています。
今回の研究が示したように、説明が多すぎると消費者は迷いやすくなり、最終的には「買わない」という判断をしやすくなります。
最近では、スマートフォンでネットショップを利用する人が増えており、画面が小さい分、情報の見やすさや読みやすさがさらに求められるようになっています。
細かい説明や長い文章よりも、一目で理解できる見せ方が、消費者にとっては親切なのです。
「たくさん伝えたい」という気持ちはよくわかりますが、大切なのは「選びやすくしてあげること」です。
買う側の視点に立って、迷わずに判断できる情報設計やデザインを取り入れることが、これからのネットショップには求められます。
参考文献:Gideon Appiah Kusi, Mst Zannatul Azmira Rumki, et al. (2022). The Role of Information Overload on Consumers’ Online Shopping Behavior.