同じ種類の商品でも高いものを選ぶ人もいれば、安いものを選ぶ人もいます。これには当然、収入なども関係していますが、他にも性格の影響があります。
高いものを選ぶ人はリスクを避けたいという心理が強く、安いものを選ぶ人はチャンスを狙いたいという心理が強いのです。
前者をPrevention-oriented(予防志向)、後者をPromotion-oriented(促進志向)といいます。
それぞれ以下のような特徴を持っています。
予防志向
- 特徴: 安全や義務、失敗回避に重きを置く。
- 心理的傾向: 慎重で、リスクや「マイナスの結果」に敏感。
- 行動様式: 現状維持や失敗を避けるためにリスクを回避しやすい。
- 判断基準: 「失敗しないこと」「損をしないこと」を重視。
- 消費行動の例: 高価格商品を「品質が安定していて安心」と評価し、リスクの少ない選択を好む。
促進志向
- 特徴: 成功や進歩、理想の達成に重きを置く。
- 心理的傾向: 楽観的で、可能性のある「プラスの成果」に敏感。
- 行動様式: 新しいチャンスや利益を得ようと積極的に行動しやすい。
- 判断基準: 「どれだけ得られるか」「理想にどれだけ近づけるか」を重視。
- 消費行動の例: 安い商品でも「もしかしたら良い品質かもしれない」とポジティブに解釈しやすい。
これらの志向は固定化されたものではなく、売手が与える刺激によって変化させることが可能です。
つまり、高い商品を売りたいなら予防志向へと誘導するような販促を行えば良いということです。
消費者の志向を操作する実店舗での実験
消費者の志向を操作することで売上が変化するのか調べた、ソウル市立大学校などの研究チームによるフィールド実験があります。
この実験では実際の消費者行動を観察するために、ショッピングモールにに設置されたファッションジュエリーのブースを使いました。販売されている商品の価格は、$5から$189まで幅がありました。
消費者の志向を操作するために、店頭の掲示するサイネージを利用しました。
ある週は「失敗しない選択を」といったような予防志向を想起させるサイネージを掲示し、別の週は「自分の理想を実現しよう」といったような促進志向を想起させるサインを掲示しました。
これらのサイネージは1週間ごとに切り替えられ、両条件をそれぞれ14日間実施しました。
売上データを分析したところ、サイネージの内容の違いによる来客数の違いはありませんでした。
しかし、商品の平均購入価格には明確な差がありました。
促進志向を喚起するサインを見た客は平均$16.89の商品を購入したのに対し、予防志向を喚起するサインを見た客は平均$22.75の商品を選んでいました。
この差は統計的に有意で、曜日、来客数といった要因をコントロールしても変わりませんでした。
つまり、予防志向を喚起された消費者は、促進志向を喚起された消費者よりも高価な商品を選びやすくなったのです。
誘導された消費者の志向
このような結果となった理由は、誘導された消費者の志向が価格と品質に対する認識を変化させたためです。
促進志向に誘導されると、成功や理想の達成に意識を向けやすくなるため、商品を見るときに「うまくいけば良いものに出会えるかもしれない」といった楽観的な見方をしやすくなります。
特に低価格の商品は品質のばらつきが大きいと認識されやすいため、その中の「最高品質の可能性」に注目して過大評価しやすいのです。結果として「安いのに意外と良いかもしれない」と考え、低価格の商品を選ぶ傾向が強まります。
一方、予防志向に誘導されると、失敗や損失を避けることを重視するようになるため、品質が安定していることを好みやすくなります。
価格が高い商品ほど品質管理がしっかりしており、ばらつきが小さいと考えられるため、安心感を与える高価格の商品を選びやすくなるのです。そのため、予防志向を喚起された来店客は安価な商品を避け、相対的に高めの価格の商品を選んだのです。
自社の商品特性を考慮して志向を誘導する
以上の実験結果からいえることは、まず顧客の志向を確認することで、効果的な接客ができるということです。
促進志向が強い顧客は、低価格でも「もしかしたら良い商品に出会えるかもしれない」と期待しやすいため、安価な商品の価値を強調するメッセージが有効です。「お買い得なのに高品質」といった訴求を用いることで、購買意欲を高めることができます。また、限定キャンペーンや「新登場」といった言葉で期待感や可能性を刺激するのも効果的です。
一方で、予防志向が強い顧客に対しては、安心感や信頼性を前面に押し出すことが重要です。「長持ち」「品質保証」「返品保証」など、失敗を避けられると感じさせる情報を強調することで、価格が高めの商品でも選ばれやすくなります。特にナショナルブランドや耐久消費財の販売では、このような安心材料を明確に提示することが購買につながります。
また、売り手側として積極的に展開したい商品がある場合には、その価格帯によって顧客に与える刺激を変えることで、顧客の志向を誘導することが可能です。
高価格帯の商品を売りたいなら予防志向へと誘導し、低価格帯の商品を売りたいなら促進志向へと誘導することで、一時的に顧客の判断基準を変えることが可能となるのです。
ただし、こうした志向が常に有効なわけではありません。商品によっては逆の選択をする可能性もあります。たとえば国産の一流メーカーの商品は安くても品質は保証されていると判断されます。
そのため、予防志向の人が「高いお金を払って失敗するのは嫌だな」と判断して、安い商品を買う可能性もあるのです。自社で扱う商品の特性も考慮したうえで、顧客の志向を誘導することが大切です。
参考文献:WJ Choi. 2020. Guess Who Buys Cheap? The effect of consumers’ goal orientation on product preference.