ショート動画は、ここ数年でマーケティング分野において急速に存在感を増してきました。
TikTokや、YouTube Shortsといったプラットフォームの出現により、企業やブランドは、限られた時間の中で商品やサービスの魅力を伝える手法として、ショート動画を積極的に活用するようになっています。
とはいえ、ただショート動画を投稿すれば、売れるわけではありません。
わずか数十秒という短い尺の中で、スキップされるリスクを避けながら、消費者の購買意欲を本当に動かすコンテンツを届けなければなりません。
本記事では、最新の実証研究をもとに、「ショート動画がどのようにして購買意欲に影響を与えるのか」「成功する動画に共通するポイントは何か」をわかりやすく解説します。
消費者の心理に強く作用する3つの要素
ショート動画に含まれるさまざまな要素のうち、何が視聴者の購買意欲に影響を与えるのかを検証した、中国の北京語言大学のチームによる研究があります。
研究チームは、既存のマーケティング理論や技術受容モデルなどを踏まえ、消費者の心理に強く作用すると考えられる、以下の3つの要素に着目しました。
- 楽しさ
- インフルエンサーの関与
- 知覚された有用性(※1)
(※1 動画が役に立つと感じられる度合い。たとえば、短時間で商品の特徴や使い方が分かるかなど)
これらの3つの要素が購買意欲に影響するかを検証するために、実際の消費者を対象としたアンケートを行いました。
この調査では、ショート動画に対する視聴者の印象や、そこに登場するインフルエンサーへの信頼感、動画の内容の有用性や楽しさに関する認識などが問われました。
そして、集められたデータを統計的に分析することで、それぞれの要素と購買意欲との間にどのような関連があるのかを探りました。
分析結果
分析の結果、3つの要素すべてが消費者の購買意欲に対して有意な正の影響を与えることが明らかになりました。
それぞれのについて詳しく説明します。
1.インフルエンサーの関与
最も強い影響を示したのは「インフルエンサーの関与」でした。
具体的には、動画の中に登場する人物に対して信頼感や親近感を抱くことで、その人物が紹介する商品に対してもポジティブな印象を持ちやすくなり、その結果「買ってみたい」という気持ちが強まるという傾向が見られました。
インフルエンサーが持つ影響力は、視聴者との間に築かれた弱いながらも効果的なつながりによって支えられており、短い動画の中でもしっかりと信頼を生む力を持っていることが示されています。
2.知覚された有用性
「動画の内容が役に立つ」と感じた人ほど、購買意欲が高まる傾向も確認されました。(知覚された有用性)
これは、動画を通じて商品に関する情報が簡潔に、かつ効果的に伝えられることで、商品に対する理解が深まり、購入の意思決定がしやすくなることが要因です。
短時間で必要な情報が得られるという特性は、忙しい現代の消費者にとって非常に価値のあることなのです。
3.楽しさ
ショート動画に「楽しさ」があることも、購買意欲に影響を与えることが確認されました。
楽しい動画は、視聴者の注意を引きつけるだけでなく、ポジティブな感情と結びつくことで、商品への印象も良くなります。
その結果、動画の内容がより印象的に記憶され、購買行動につながりやすくなるのです。
今後のショート動画マーケティングで考慮すべきこと
今後、ショート動画はさらに多様な形へと進化していくと考えられます。
すでに、AIを活用した自動編集や構成の最適化、さらには視聴者の反応をリアルタイムで分析し、それに応じて動画の内容や順序を変える技術も登場しています。
音声認識を用いた自動字幕生成や翻訳機能の精度も高まりつつあり、これにより、言語や聴覚に制限のあるユーザーにもリーチできるようになっています。
また、ユーザーの視聴履歴や行動データをもとに、好みに合った動画を的確に届けるレコメンド機能の高度化にも貢献しています。
これにより、単に「ウケそうな動画」を作るだけでなく、「その人に響く動画」を作ることがますます重要になります。
たとえば、同じ商品を紹介する場合でも、ユーザーの属性や関心に応じて、動画の表現方法や出演者を変えるといったパーソナライズの工夫が求められる時代になってきています。
さらに、視聴から購入までの導線もよりシームレスになっています。
アプリ上で視聴中に「気になる」と思った瞬間にタップ一つで商品ページへ移動できたり、その場で決済まで完了できる仕組みが進化しており、「見たらすぐ買える」環境が整いつつあります。
こうした流れは、企業にとって非常に大きなチャンスとなります。
しかしその一方で、ユーザーの目はどんどん肥えてきており、単なる広告や宣伝と感じられるコンテンツは簡単にスキップされてしまいます。
そのため、商品やブランドをただ紹介するだけではなく、ユーザーの感情や関心に寄り添い、「見て良かった」と思える価値のある動画を届ける必要があります。
参考文献:Yani Xiao, Lan Wang, Ping Wang. (2019).Research on the Influence of Content Features of Short Video Marketing on Consumer purchase intentions.