金曜日の午後、なんとなく気が緩んで、ついネットショッピングをしてしまった、なんてことはないでしょうか?
実はそれ、ただの気の緩みではありません。
最新の研究によると、「終わりのタイミング」には人の判断を変える心理的な力があることが分かっています。
人は金曜日に楽観的になる
P2Pレンディング(ピア・ツー・ピアレンディング)をご存じでしょうか?
これは銀行などの金融機関を介さずに、個人同士が直接インターネット上のプラットフォームを通じてお金を貸し借りする仕組みです。
借りる側は簡易な審査で借りられ、貸す側は金利を得られるメリットがあります。
「終わりの節目」のリスクテイク
このP2Pレンディングで有名な「Prosper」というプラットフォームがあります。
トロント大学のアヴニ・シャー准教授らが、この「Prosper」で行われた金融取引、500万件以上のデータを分析したところ、貸し手側は金曜日にリスクの高い案件を選択する確率が高いことが分かりました。
つまり、高い金利で貸せるけれど、返してくれない可能性も高い相手に貸す傾向が強まったということです。
さらにその傾向は、月末や年末、連休前など「終わりの節目」となる日にも同様に見られました。
「今、選ぶものは良いものだ」と感じやすい
なぜそのような行動が起こるのでしょうか?
研究者たちは、「終わりが近づくと人は楽観的になる」という心理メカニズムが働くからだと説明しています。
週の終わりや月の終わりには、「今週は頑張ったから良い週だった」「来週こそもっと良いことがあるはず」といった、ポジティブな感情や期待が自然と生まれます。
その結果、人は「今、選ぶものは良いものだ」と感じやすくなり、多少リスクの高い選択にも前向きになるのです。
金曜日を想像するだけでも変わる
これは単なる推測ではなく、実験でも確認されています。
研究の第2部では、木曜日に参加者を集め、以下のどちらかのグループに割り当てました。
- 火曜日を想像して投資判断を行う
- 金曜日を想像して投資判断を行う
その結果、金曜日を想像したグループのほうが、楽観的な投資判断を行いやすいという結果になりました。
金曜日に効果的な広告戦略
この「終わりの日の心理」は、マーケティングにおいても見逃せない要素です。
とくに広告出稿のタイミングを考えるとき、金曜日が持つ心理的な効果を活かすことで、消費者の意思決定に強く働きかけることができます。
では、実際にどのような広告が効果を発揮するのでしょうか?以下のようなパターンが特に相性が良いと考えられます。
1.高単価な商品の広告
週の終わりに向けて気持ちが緩み、楽観的になっているタイミングでは、普段なら「高いな」と感じていた商品でも「今週頑張ったし、いいか」と購入を決断しやすくなります。
実際の調査でも「最も楽観的に感じる曜日」として43%の人が金曜日を挙げたというデータもあります。
そこで、高額な美容家電やファッションアイテム、限定モデルのガジェットなどは金曜日に訴求することで、効果が期待できそうです。
2.初回トライアル系の広告
「ちょっと試してみようかな」という心理が働きやすいのも金曜日です。
新しいスキンケアブランドや、食材宅配サービス、英会話の体験レッスンなど、「お試し」がキーワードの広告は、動機づけしやすい傾向があります。
3.週末イベント・セール系の告知
金曜日は週末に向けた予定を立てるタイミングでもあります。
そのため、週末のセール情報やライブ配信、ポップアップイベントなどの告知を出すことで「今週末の楽しみ」として記憶に残りやすくなります。
注意点:金曜日の広告にも「落とし穴」がある
ここまで金曜日の広告効果について、ポジティブな面を紹介してきましたが、注意も必要です。
研究でも指摘されていることですが、金曜日のリスク選好的な意思決定は、「長期的には損失につながる可能性がある」という点が挙げられます。
P2Pレンディングのデータでは、金曜日に選ばれた案件の方が、他の曜日に比べてリターンが悪い傾向にありました。つまり、「楽観的すぎる判断」がかえってミスリードになることもあるのです。
これを広告に置き換えると、「金曜のうちに買ったけど、よく考えたら必要なかった」と後悔させてしまうリスクもあるということです。
短期的なCV(コンバージョン)は取れても、長期的な顧客満足やLTV(顧客生涯価値)を損なってしまっては元も子もありません。
したがって、「勢いで買っても損しないような体験設計」を心がける必要があります。返金保証や初月無料といった「購入後の不安を和らげる要素」もセットで提示すると良いでしょう。
「何曜日?」というマーケティングの基本に立ち返る
広告効果を最大化するには、コピーやクリエイティブの工夫だけでなく、「いつその広告が届くのか」も重要です。
金曜日という「週末の入り口」は、多くの消費者にとって気持ちを切り替えるタイミングです。そのため、前向きな決断を後押しする心理状態が自然と形成されやすくなります。
もちろん、すべての広告を金曜日に集中させるべきだというわけではありません。
しかし、「誰に、何を、いつ届けるか」というマーケティングの基本に立ち返り、「曜日」という視点を広告戦略に組み込むことで、より繊細で効果的なマーケティングが可能になります。
次に広告を出すときは、曜日カレンダーを見直してみましょう。
参考文献:Shah, A. M., & Li, X. (2025). The Last Hurrah Effect: End-of-Period Temporal Landmarks Increase Optimism and Financial Risk-Taking. Journal of Marketing Research, 62(2), 207-226.