ホテル・旅館のクチコミへの返信が5.6%も予約数を高める。しかし逆効果の内容もある

ホテルや旅館の予約サイトには、宿泊客からのクチコミが書き込まれます。

素晴らしかったというポジティブなものもあれば、苦情などのネガティブなものもあります。

ホテルや旅館側としては、返信すべきかどうか悩みどころでしょう。

基本的にはクチコミへの返信はしたほうが良いとされています。予約数の増加につながるからです。

しかし、内容によっては逆効果となり、予約数を減らしてしまうこともあります。

クチコミに返信すると翌週の予約数が5.6%増加する

クチコミへの返信がホテルの予約数にどのような影響を与えるのかを明らかにした、アムステルダム自由大学のアナ・ロペス准教授らの調査があります。

対象となったのは、宿泊予約サイトBooking.comに投稿された、18,320件のクチコミと、それに対する5,564件の返信です。

対象となったホテルは、規模やブランド、ターゲット(ビジネス客向けか観光客向けか)に違いがあり、より多様なデータを得ることができています。

この分析の結果分かったことは、クチコミに返信をすること自体が、予約数にプラスの影響を持つということです。

具体的には、ある週にホテルが1件でも返信を行った場合、翌週の予約数は平均して5.6%増加していました。

これは返信の有無そのものが信頼や誠意を伝えるシグナルとなり、消費者の意思決定に影響を与えていることを示しています。

プラスの効果をもたらす返信内容

今回の調査で分かった重要なポイントは、返信内容によって、予約数がプラスにもマイナスにもなるということです。

まず、プラスの効果をもたらしてくれる返信を紹介します。

1.責任者の肩書と名前

マネージャーや責任者の肩書きと名前を添えて返信した場合、翌週の予約数が平均して約2%増加することがわかりました。

責任ある立場の人物が直接関与していることが、誠実さのシグナルとなり、宿泊を検討している見込客に安心感を与えるためと考えられます。

逆に、スタッフや部門名しかない返信では同様の効果は見られませんでした。

2.プライベートなチャネルへの誘導

クチコミ欄という公の場でやり取りを続けるのではなく、「詳しくはメールや電話でご案内いたします」といった形で、プライベートなチャネルに誘導する対応も有効であることが判明しました。

このような対応を行った週では、予約数が平均で4.1%増加していました。

これは、個別に丁寧に対応しようとする姿勢が伝わり、信頼性や柔軟性を好意的に評価する材料になるためと考えられます。

3.実質的な補償の案内

「次回のご宿泊時に◯%割引をします」や「無料の朝食をサービスします」といった具体的な補償を返信に盛り込むことで、翌週の予約数が平均で約2%増加することが確認されています。

このような対応は、サービスの失敗に対して実質的な償いが行われていると感じさせる「分配的公正感(distributive justice)」を高めるためと考えられています。

4.客側の事実誤認への反論

クチコミの内容に事実誤認や誇張が見られた場合に、その誤りを丁寧な言葉で正し、「実際にはこういう事情がございました」と説明するような対応は、翌週の予約数を約2%押し上げました。

このような防御的な対応が好影響をもたらす理由は、ホテルが一方的に非を認めるのではなく、冷静かつ根拠を示して誤解を解こうとする姿勢が、「誠実でプロフェッショナルなブランド」として映るためです。

多くの潜在顧客は、クチコミの真偽をすべて鵜呑みにするわけではなく、むしろホテル側の反応によって最終的な判断を下しています。

その意味で、事実関係を明確にしつつ丁寧な言葉で説明することは、ブランドの信頼性を守るうえで極めて有効な手段といえます。

マイナスの効果をもたらす返信内容

ここからは逆効果となる返信内容を説明していきます。つまりそれを書くと予約数が落ちるというものです。

1.「申し訳ございません」という謝罪

実務でよく使われる表現の中には、かえって予約数を減らしてしまうものも存在することが示されました。

その代表例が「申し訳ございません」といった謝罪の表現です。

このような謝罪が含まれる返信は、翌週の予約数を約4.9%減少させることが分かりました。

謝罪は誠意の表れとして評価されると思われがちです。しかし、レビューを読む第三者にとっては「謝罪しなければならないレベルのサービスを提供している」と評価されてしまうようです。

とはいえ、日本の場合は、必ずしも謝罪しないことがプラスになるとは限りませんから、臨機応変な対応が求められます。

2.「ぜひまたお越しください」

「ぜひまたお越しください」といった再訪を促すメッセージも、良い印象を与えるとは限らないことが分かりました。

こうした表現はあまりに定型的すぎて、本気で問題解決に向けて行動しているように見えないことがあるからです。

返信の中にテンプレ感を読み取ると、消費者は誠実さに疑問を感じ、予約を避ける可能性が高まります。

3.「詳しい状況を教えてください」

クチコミの内容に関して追加情報を求める返信も、悪い影響をもたらしました。

「詳しい状況を教えてください」といった対応は、一見丁寧に感じられますが、返信を読んだ第三者には「ホテル側が問題の本質を理解していない」と映ってしまいます。

そのため、やりとりの完結性が損なわれ、結果として予約数が約3.9%も減少するというマイナスの影響が生じました。

クチコミへの返信を開始する前に考慮すべき注意点

以上のように、ホテルや旅館のクチコミに対する返信は、その内容さえ間違えなければ、予約数を増やす効果があるといえます。

しかし注意すべきことがあります。

それは、クチコミの返信を始めたら途中でやめるのは難しいということです。

たとえば、ある時を境に急に返信しなくなってしまうと、そのこと自体がサービスの質が落ちたような印象につながってしまいます。

「返信できないくらい人手不足ということは、宿泊した時も十分なサービスを受けられないのでは?」と、判断されてしまう可能性もあります。

ですから、返信をする際には、自社の人員と仕事量を考慮し、繁忙期であっても十分に対応できる余裕があるのか判断してからにしましょう。

参考文献:Ana Isabel Lopes, Edward C. Malthouse, et al. (2024). Is webcare good for business? A study of the effect of managerial response strategies to online reviews on hotel bookings.