衝動買いさせる方法。心理学論文から見えるヒント

買うつもりはなかったのに、店頭でふと目に留まった商品をつい手に取ってしまう。

あるいは、ECサイトで「残りわずか」「今だけ送料無料」といった表示を見て、気がつけば購入ボタンを押していた――。

このような消費者の「衝動買い」は、マーケティングの視点から見ると、非常に大きなチャンスを秘めています。

衝動買いは、商品そのものの魅力だけではなく、感情・環境・情報の見せ方といった「仕掛け」が大きく影響する行動です。

つまり、販売する側が心理的なポイントを正しく理解し、的確に施策を講じることで、購買意欲をその場で引き出すことが可能なのです。

本記事では、研究をもとに、消費者がなぜ衝動買いをしてしまうのかと、実務で使える具体的な施策を説明します。

人が衝動買いをしてしまう条件

なぜ人は衝動買いをしてしまうのでしょうか?

その心理を調べた、ムスリム大学の研究チームによる分析があります。

それによると、衝動買いには、「気分と感情」「商品の見せ方」「個人の性格」の3つの要素が関係していることが、分かりました。

各々について簡単に説明します。

1.気分と感情の影響

人はそのときの気分によって行動が大きく変わることがあります。

特に嬉しいことがあって気分が高まっているときや、疲れてストレスを感じているときなどは、感情に基づいた行動を取りやすくなります。

このような状態のとき目に入った商品に対して冷静な判断ができなくなり、予定外の買い物、つまり衝動買いが起きることがあるのです。

研究では、ポジティブな感情(喜びや達成感)だけでなく、ネガティブな感情(不安やイライラ)も衝動買いを引き起こすことが指摘されています。

「今日はよく頑張ったからご褒美にスイーツを買おう」と思うこともあれば、「なんだか気持ちが沈んでいるから、何か買って気分を変えたい」と思うこともあるのです。

2.商品の見せ方

商品がどのように陳列されているか、またどんな言葉で紹介されているかも、衝動買いを促す大きな要因です。

特に、目立つポップ広告や「今だけ」「残りわずか」といった限定感のある表現は、人の注意を引きつけ、即決させる心理的な効果を持っています。

こうした現象は「フレーミング効果」や「アンカリング」といった行動経済学の考え方で説明されています。

フレーミング効果とは、情報の伝え方によって受け取る印象が変わることを意味します。たとえば、「20%オフ」と書かれていると、それだけでお得な気がして購入の後押しになるのです。

また、アンカリングとは、最初に見た情報(たとえば定価)が基準となって、それ以降の判断がそれに引きずられるという心理現象です。

このように、商品をどう見せるか、どう伝えるかによって、消費者の行動は大きく左右されます。

買うつもりがなかった商品でも、うまくデザインされた売場や広告によって「つい買ってしまう」のです。

3.個人の性格傾向

衝動買いのしやすさには、個人の性格や心理的な特徴も関係しています。

研究では、自己コントロールの力が弱い人や、新しい刺激を好む性格の人が、衝動的な買い物に陥りやすいことが示されています。

たとえば、我慢が苦手だったり、直感的に行動する傾向が強い人は、店頭で目についた商品にすぐ反応してしまうことがあります。

また、「今までにないもの」や「珍しいもの」に惹かれる人は、新しい商品や限定品に心を奪われやすく、それが衝動買いの引き金となることもあります。

さらに、年齢や収入、性別などといった個人の背景も関係する場合があります。

若年層、特に10代後半から20代の人々は、自己コントロールの発達がまだ不安定であることや、新しい体験や流行への関心が強いことから、衝動買いをしやすい傾向があるとされています。

また、可処分所得に余裕のある人は、「今買っても後悔しないだろう」という安心感があり、欲求に対してより素直に行動しやすくなります。

衝動買いを引き出すための販売側の具体的な対策

衝動買いは、消費者の感情や環境によって引き起こされる行動であり、販売側が工夫することでその発生を高めることができます。ここでは、実際の販売現場やマーケティングで取り入れやすい具体策を6つ紹介します。

1.「限定感」を演出する

「今しか買えない」「数に限りがある」といった雰囲気を演出することで、消費者に「買う理由」を与えることができます。こうした希少性は、行動を早める心理的な圧力となり、衝動買いを後押しします。

  • 「本日限定セール」や「在庫限り」の表示を設置する
  • ECサイト上で「残り〇点」や「〇人がカートに入れています」と表示する
  • 会員限定の短期間クーポンを発行する

2.目立つディスプレイと商品配置

商品が視界に入りやすい位置にあるかどうか、あるいはどれだけ印象に残る工夫がされているかが、衝動買いを左右します。特に、動線上の終点やレジ前などは、決断を誘発する場として有効です。

  • レジ横や出口近くに手に取りやすい小物を配置する
  • エンド棚に注目商品を置いてポップで強調する
  • 商品の目線の高さや照明の当て方を工夫する

3.感情に訴えるコピーやストーリー

「これを買えば気分が上がる」「毎日が少し豊かになる」といった印象を与える言葉は、理屈よりも感情に働きかけます。気分転換やご褒美という理由付けを自然に与えることで、購買に結びつきます。

  • 「頑張った自分へのご褒美に」
  • 「この香りで、日常を特別に」
  • 「気分が上がるカラーで、今日をもっと楽しく」

4.お得感を強調する価格表示

価格そのものではなく、「今、買うことがどれだけ得か」を印象づけることが重要です。比較対象や割引表示があるだけで、消費者は合理的でなくても「いま買うべきだ」と判断しやすくなります。

  • 通常価格とセール価格を並べて表示する
  • 「2点目半額」や「まとめ買いで割引」などセット販売を提案する
  • 「あと〇〇円で送料無料」と表示して追加購入を促す

5.SNSでのユーザー投稿や口コミの活用

「他の人も買っている」「人気がある」といった情報は、消費者に安心感と購入意欲を与えます。これは、みんなと同じ行動をとりたい、という人間心理をうまく利用した方法です。

  • 商品の使用例やレビューをサイトや店頭に掲示する
  • SNSキャンペーンを通じて「#〇〇買った」などの投稿を促す
  • インフルエンサーによる紹介を活用し、自然な口コミとして届ける

6.店内BGMや香り、照明による雰囲気の演出

音や香り、光の演出は、意識していないうちに人の気分に影響を与えます。居心地のよい空間をつくることで、消費者が長く滞在し、買い物を楽しみながら衝動買いをしやすくなる環境が整います。

  • 明るく軽快な音楽を流して店内の雰囲気を活気づける
  • 柔らかいアロマの香りを空間に漂わせる
  • 商品カテゴリーに合わせて、温かみや高級感のある照明を使い分ける

きっかけは衝動買いでも、良い商品ならリピートにつながる

衝動買いは一時的な感情やその場の環境によって起こるものですが、そこで得られた体験がポジティブなものであれば、次回以降の購買にもつながる可能性があります。

つまり、衝動買いは単なる「一回きりの売上」ではなく、ブランドへの好印象やリピート購入のきっかけになることもあるのです。

また最近では、オンライン上でも衝動買いを促す仕掛けが増えており、たとえば「ライブコマース」や「リアルタイムの在庫表示」などもその一つです。

ライブ中に限定価格が提示されたり、他の視聴者の購入が可視化されたりすることで、消費者の判断はさらに即時的になります。

こうした変化に対応するためにも、販売側は「衝動的な感情」が生まれる瞬間を見極め、それに合わせた体験設計を行うことが大切です。

商品だけでなく、「出会い方」「見せ方」「感じ方」にまで目を向けることで、消費者との距離を一歩縮めることができるのです。

参考文献:Mandung, F., Sahari, S., & Razak, S. R. . (2024). Exploring Consumer Psychology in Marketing Management: A Strategic Perspective through Descriptive Inquiry and Literature Review.