広告の説得力を高めるには「現在形」を使え!研究が示す言葉選びのコツ

ウェブサイトや広告には、キャッチコピーや商品の効果、お客様の声を載せていることが多いと思います。

どの企業もいかに説得力を高め、消費者の行動に結びつけるかを必死に考えて、内容を厳選しているでしょう。

ところで、このとき文章の「時制」まで意識しているでしょうか?

つまり、現在形か過去形かということです。

実は、どの時制を使うかによって、説得力に違いが出ることが分かっているのです。

過去形より現在形のほうが説得力が増す

動詞の時制が説得力に与える影響を調べた、ヨーク大学のグラント・パッカード准教授らの研究があります。

まず最初に行われたのは、大規模なレビュー分析です。

研究者たちは、AmazonやYelpに投稿された50万件以上のレビューを自然言語処理(NLP)で解析し、現在形を使っているレビューと、過去形を使っているレビューを比較しました。

その結果、現在形を多く使っているレビューは、「役に立った」と評価される傾向が強いことがわかりました。

どのカテゴリ(書籍、音楽、電化製品、レストラン)においても同じような傾向が見られました。

そして、この傾向は、レビューの長さや語彙の複雑さ、主観性や感情語の使用など、50以上の言語的特徴をコントロールしたうえでも維持されました。

つまり、現在形か過去形の違いだけで、評価の差が出たということです。

現在形の紹介文は高い評価と行動意欲につながる

次の実験では、参加者にビーチを紹介する文を読んでもらい、その魅力度を評価してもらいました。

このとき、紹介文は現在形と過去形の2種類を用意し、参加者はどちらかを読みました。

  • 現在形:「このビーチは雰囲気が良い」
  • 過去形:「このビーチは雰囲気が良かった」

こちらでも、現在形を用いた表現の方が、より高い評価と行動意欲(もっと知りたい、選びたいなど)を引き出すことが確認されました。

なぜ現在形のほうが説得力が高まるのか?

なぜ現在形のほうが説得力が高くなるのでしょうか?

それは、現在形のほうが「今も通用する真実」のように感じられるからです。

過去形で「このレストランはおいしかった」と言うと、「以前はそうだったけど、今は違うかもしれない」と受け取られる可能性があります。

つまり、その意見が「昔の個人的な体験」に限定されてしまうのです。

それに対し、現在形で「このレストランはおいしいです」と言えば、「今もそうなんだ」と思ってもらいやすくなります。

さらに、現在形は「個人の一時的な感想ではなく、常に全員に当てはまる事実」という印象を与えます。

言い換えると、話し手が自分の意見に自信を持っていて、それが一般的な事実に近いように聞こえるのです。

その結果、聞き手や読み手は「この人はちゃんと分かって言ってるな」「自分にも当てはまりそうだな」と感じやすくなり、内容を信じやすくな、説得力が増すのです。

時制の効果をマーケティングに応用する

このように、言葉の時制を意図的に現在形にするだけで、説得力を高めることができます。そしてこれはマーケティングにも応用が可能です。

商品説明や広告コピーでは、過去の実績や体験を語る場面が多く見られますが、それらを現在形に言い換えることで、消費者に「今も通用する価値がある」と印象づけることができます。

たとえば、「この化粧品はユーザーテストで高評価を得ました」と言うよりも、「この化粧品はユーザーテスト高評価を得ています」と現在形にすることで、今現在、まさに効果があるのだという印象を持たせることができます。

また、自社のウェブサイトや広告に、お客様の声を掲載する際にも、過去形ではなく、現在形で記述されたものをピックアップしましょう。それにより、レビューがより信頼できる印象になり、購入意欲につながりやすくなります。

さらに、SNS投稿や動画広告のスクリプトなどでも、話し手のセリフを現在形で構成することで、視聴者に対して自信やリアルタイム性を印象づけることができます。これにより、より強い共感や行動の後押しが期待できます。

つまり、時制の使い方を戦略的にコントロールすることで、「今もその効果が継続している」「自分にも当てはまる」といった認知を引き出し、説得力を高めることができるのです。

これは広告文だけでなく、セールスピッチ、商品説明、ECサイトの商品レビュー表示文など、あらゆる消費者接点で応用できるシンプルかつ強力な戦略です。

ネガティブな表現においても同様の説得力を持ってしまう

言葉のちょっとした違いが、人の心に大きな影響を与えることは、今回の研究からもはっきりしました。

特に現在形は、「今、ここにあるリアルさ」や「続いている価値」を伝える力を持っています。

さらに興味深いのは、ポジティブな表現だけでなく、ネガティブな表現においても、現在形は過去形よりも説得力があるということです。

たとえば、「この映画は退屈でした」よりも「この映画は退屈です」と言う方が、読み手はより強く「自分もつまらないと感じそうだ」と思いやすくなるのです。

ですから、ネガティブなレビューが現在形で書かれていたら、早めに対策をしたほうが良いといえます。

伝えたいことが本当に相手に届くかどうかの分かれ道は、「言い方」にあるのかもしれません。

広告戦略においては「時制」という小さな視点も、ぜひ意識しましょう。

参考文献:Grant Packard, Jonah Berger, Reihane Boghrati. (2023). How Verb Tense Shapes Persuasion.