企業がインフルエンサーに案件を依頼するとき、気にするのはフォロワー数だと思います。
フォロワー数が多ければ、SNSの投稿なども拡散されやすく、ブランド認知も高まりやすくなります。商品も売れやすくなるでしょう。
しかし、もう一つ重要な指標を忘れてはいけません。
それは、そのインフルエンサーがフォローしている数です。
多くのフォロワーがいても、フォローしている数が多ければ影響力は小さいといえます。
5万人のフォロワーがいても、5万人フォローしていたら、相互にフォローしているだけと評価されるのです。
フォロワー数をフォローしている数で割った数字を「FF比」といいます。上記の例ではFF比は1となります。FF比が小さいほど、フォロワー数の方が多いということです。
明確な根拠はありませんがFF比が0.6を超えているアカウントは、投稿が表示されにくくなるといわれたりもします。
また、インフルエンサーが多くの人をフォローしていると、それを見た消費者から「他者の意見に流されやすい自律性のない人間」と判断されることもあります。
それによって、そのインフルエンサーの意見に価値がないとみなされることもあるのです。
このようなマイナス影響を無視して、インフルエンサーに仕事を依頼してしまうと、予算が無駄になってしまいます。
44万件以上の投稿を解析した結果
FF比が重要なことは、ワシントン大学のフランチェスカ・ヴァルセシア博士らの研究でも判明しています。
この研究では、フォロワー数が1,000から100,000人のTwitter(現X)アカウントが行った44万件以上の投稿を分析しました。
その結果、フォロー数が少ないアカウントの投稿は、いいねやリツイートといったエンゲージメントが有意に高いことが確認されました。
つまり、同じ規模のフォロワー数のマイクロインフルエンサーであっても、フォローしている人数が少ない人の方が、投稿が拡散されて、注目を集めやすい傾向があるということです。
フォロー数が少ないほど自律的で影響力があると評価される
さらに別の実験では、大学生315名にTwitterプロフィールを提示し、そのユーザーが発信した投稿を見てもらいました。
実権の参加者は提示されたプロフィールについて「自律的に行動しているか」「影響力があるか」といった印象を評価しました。
さらに投稿に対して「いいね」や「リツイート」をしたいかどうかを答えました。
その結果、フォロー数が少ないユーザーほど「自律的」であると認識され、それが「影響力が高い」という評価につながっていました。
そして、影響力が高いと判断されたユーザーの投稿は、いいねやリツイートをしたいという意向も強く示されました。
つまり、フォロー数の少なさが「自律的で影響力のある人物」という印象を生み、その結果としてSNS上での反応を引き出しやすくなることが示されたのです。
投稿内のリンクのクリック率にも影響する
また、投稿内のリンクのクリックのされやすさについても検証しています。
こちらの検証では、プロフィールとそのユーザーが投稿したレストラン紹介のツイートが提示され、投稿内のリンクをクリックするかどうかが記録されました。
プロフィールはフォロワー数が多い状態に統一され、フォロー数だけを少ない場合と多い場合に分けました。
その結果、フォロー数が少ないユーザーの投稿の方がリンクのクリック率が高いことが確認されました。
具体的には、フォロー数が少ない条件では53.9%の参加者がリンクをクリックしたのに対し、フォロー数が多い条件では40.6%にとどまりました。
なぜフォロー数が少ないほうがエンゲージメントが高いのか?
なぜフォロー数が少ないユーザーの投稿のほうがエンゲージメント(いいね、リツイート、クリックなど)が高くなるのでしょうか?
その答えは「自律性のシグナル」にあります。
消費者はSNS上で他者の影響力を直接測ることができません。誰が本当に影響力を持っているのかは不明なのです。
そこで、プロフィールに表示される数値や行動パターンといった「観察可能な手がかり」をもとに推測します。
その中で「フォローしている人数」が重要な役割を果たします。
フォロー数が少ないユーザーは、「他人に流されず、自分の判断で情報を取捨選択している人物」と見なされやすくなるのです。
つまり、フォロー数の少なさは「この人は自律的で独立した考えを持っている」というシグナルとして働くということです。
そして、人間は「自律的である」とみなした相手を、より信頼できる影響力のある存在として評価します。
そのため、フォロー数が少ないユーザーの投稿は「価値のある情報源」として受け止められやすく、他者も積極的にいいねを押したり、シェアしたり、リンクをクリックしたりするようになるということです。
逆にフォロー数が多いと、多くの他者に依存して情報を得ているように見え、独自性や信頼性が弱まるため、影響力の認知が低下し、エンゲージメントにもつながりにくくなるのです。
信頼性や専門性が重要視される業界ほど注意
企業はフォロー数が少ないインフルエンサーと提携することで、消費者に「この情報は周囲に流されず、自律的に選ばれたものだ」という印象を持たせやすくなります。
これは、情報発信者が他人の影響に左右されず、独自の判断基準で商品やサービスを紹介していると感じさせるからです。
その結果、投稿内容自体の信頼性が高まり、広告的な要素があっても「本当に良いから紹介しているのだろう」と受け取られやすくなります。
特に、信頼性や専門性が重要視される業界(例:健康食品、美容、教育、金融)では、この効果が顕著に表れます。
こうした分野では、消費者は「誰が言っているのか」を非常に重視するため、フォロー数の少なさが伝える自律性はブランド価値の向上に直結します。
企業はインフルエンサーを選定する際、フォロワー数の規模だけではなく、その人が「信頼できる人物」と見なされるかどうかを慎重に見極めることが重要です。
SNSごとに異なる文化やアルゴリズムも考慮する
今回の研究は「フォロー数の少なさ」に注目しましたが、実際のSNSの影響力は多面的です。
たとえば投稿の頻度や内容の一貫性、ビジュアルの質、さらにはコメントへの返信姿勢なども、ユーザーがその人をどれだけ信頼するかに直結します。
つまり、フォロー数はあくまで信号のひとつに過ぎず、万能の指標ではありません。
また、SNSごとに文化が異なる点にも注意が必要です。
Twitter(現X)のように拡散性の高いプラットフォームと、Instagramのようにビジュアル中心で信頼関係を重視する場とでは、フォロー数の意味合いが変わる可能性があります。
さらに、近年ではTikTokのようにアルゴリズムが強く影響する場も台頭しており、「フォローする・される」という関係性の価値そのものが再定義されつつあります。
企業がこの研究結果を参考にする際は、「フォロー数の少なさ」という切り口を起点としつつも、それを他の要因と組み合わせて総合的に評価することが不可欠です。
参考文献:Valsesia, F., Proserpio, D., & Nunes, J. C. (2020). The Positive Effect of Not Following Others on Social Media. Journal of Marketing Research, 57(6), 1152-1168.