Instagramなどを用いたSNSマーケティングを多くの企業が取り入れています。
報酬を払って芸能人やモデル、スポーツ選手などの有名人を起用することもあります。
しかし、広告予算の少ない中小企業やスタートアップなどでは、「本当は芸能人に頼みたいけれど、お金がないのでインフルエンサーで…」などと考えているところもあるでしょう。
テレビに出ている芸能人の方がランクが上で知名度もあるので、広告効果も高いと思っているかもしれません。
ですが、SNSマーケティングにおける広告効果でいえば、芸能人よりもインフルエンサーのほうが高いようです。
インフルエンサーVS.芸能人
インフルエンサーと芸能人では、消費者の心理やブランドのイメージに与える影響が異なるのかを調べたノースウェスタン大学などの研究チームによる実験があります。
この実験では、参加者をランダムに2つのグループに分け、それぞれ異なるInstagram投稿を見せました。
一方のグループには、伝統的なセレブリティ(日本でいう芸能人)の投稿を見せました。例えば、『デスパレートな妻たち』に出演していた、エヴァ・ロンゴリアなどの投稿が含まれています。
もう一方のグループには、インフルエンサーの投稿を見せました。こちらはリアリティ番組『TheCity』への出演で有名になった、オリヴィア・パレルモなどの投稿があります。
どちらの投稿も同じ高級ブランドの商品を取り上げており、ポーズや見た目、投稿内容などもできるだけ同じように揃えられていました。
インフルエンサーのInstagram投稿のほうが高評価
投稿を見せた後で、参加者に対していくつかの質問が行われ印象や感情が評価されました。
その結果、インフルエンサーの投稿を見た人たちは、有名人の投稿を見た人たちよりも、その人物をより信頼できると感じ、紹介されているブランドに対してもより好意的な印象を持つことがわかりました。
また、インフルエンサーの方が「実際にそこにいるような感覚(現実感)」を強く与えていたことも示されました。
さらに、インフルエンサーを見ることで生まれる「羨ましい」という気持ちが、ブランドへの関心や購買意欲につながりやすいことも分かりました。
インフルエンサーマーケティングが効果的な理由
では、なぜインフルエンサーは、ここまで高いマーケティング効果を発揮するのでしょうか。
その理由は「共感性」と「親しみやすさ」にあります。
共感性
映画やテレビで活躍する芸能人は、どうしても消費者とは異なる世界にいる特別な存在として見られがちです。彼らの生活やライフスタイルは遠く感じられ「簡単には真似できない」という印象を与えます。
一方で、Instagramなどで活躍するインフルエンサーは、たとえ見た目が洗練されていても「元は普通の人」という背景があります。
彼らの生活スタイルは「ちょっと努力すれば自分にも手が届くかもしれない」と思わせるリアリティがあり、そこに強い共感が生まれます。
このように、憧れと親近感がほどよく混ざった存在であるため「この人が使っているなら私も欲しい」と感じさせやすいのです。
親しみやすさ
さらに、Instagramというプラットフォーム自体が双方向のやり取りを可能にしていることも大きなポイントです。
多くのインフルエンサーはフォロワーのコメントに返信したり、ストーリーズで質問に答えたりと積極的にコミュニケーションをとっています。
こうしたやり取りが「実際にこの人の意思で投稿している」「自分の声にも反応してくれる存在だ」と感じさせ、まるでリアルな知人のような親しみやすさを生み出します。
それによって、インフルエンサーをただの広告塔ではなく、信頼できる情報源として認識するようになり、ブランドへの興味や購入意欲が高まるということです。
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フォロワー数や知名度ではなく、ブランドの価値観に合うかどうか
今回の研究が示すように、インフルエンサーの存在は信頼や共感を通じてブランド価値を高める重要な存在になっています。
とくに、ブランドと消費者の間に生まれる「心理的な距離感」を埋める役割は従来の芸能人にはない独自の強みです。
しかし、こうした影響力はインフルエンサー自身のキャラクターや発信内容に大きく依存しています。
投稿の一つ一つがフォロワーとの信頼関係を築く材料であり、その信頼がブランドへの態度にも直結するのです。
だからこそ、インフルエンサーを起用する際にはフォロワー数や知名度だけではなく、その人が持つ世界観や価値観がブランドと合致しているかを丁寧に見極める必要があります。
また、近年はフォロワー自身も情報の受け手であると同時に発信者となり、ブランドに対して声をあげるようになっています。
インフルエンサーを介したコミュニケーションはそうした双方向の関係性を前提に、より透明で誠実であることが求められています。
インフルエンサーをどう活かすかは、マーケティングのテクニックではなく、ブランドがどう人と向き合うかという姿勢の表れでもあります。
短期的な注目を集めることよりも、長く共感され、支持される存在を選ぶことが、これからのブランドづくりには欠かせません。
参考文献:Jin, S.V., Muqaddam, A. and Ryu, E. (2019), “Instafamous and social media influencer marketing”

