【地産地消】地元産の商品の売上を増やす方法。店頭POPをプライミング刺激として利用する

地産地消には、食の安全性や新鮮さの確保、環境負荷の低減、地域経済の活性化といった、メリットが複数あります。

しかし、多くの人がそうした価値を認めていながらも、実際には地元産の食品を積極的には購入していないのが現実です。

その理由の一つに、「思い出せない」という問題があります。

つまり、買うつもりでいても、お店で他のことに気を取られて、もともとの意図を忘れてしまうのです。

スーパーでは割引や安売りの情報が目に入りやすいため、「節約」という別の目標が優先されてしまうのです。

では、その「思い出せない」を防ぐ方法があるのでしょうか?

その答えが「プライミング」と呼ばれる心理的な仕掛けにあります。

プライミングとは、ある刺激(言葉・画像・音など)によって、人間の無意識の中で特定の考えや感情、行動の準備状態がつくられる心理効果のことです。

たとえば、店頭で「地元農家を応援しよう」と書かれたPOPを見ると、「地元産を選ぼう」という意識が自然と高まり、実際の選択にも影響を与える可能性があります。

消費者は地元産に持つ良いイメージ

店頭POPをプライミング刺激とすることで、本当に地元産の食品の売上が伸びるのかを調べた、ザグレブ大学などの研究チームによる実証実験があります。

この実験ではまず、消費者が地元産の食品についてどのような意識を持っているのかを把握するため、スーパーマーケットの買い物客に店頭インタビューを行いました。

その結果、消費者の多くが地元産食品に対してポジティブな印象を持っていることが明らかになりました。

中でも、「地元産は新鮮でおいしい」「体に良さそう」「地元の経済や農家を応援できる」といった理由が頻繁に挙げられました。

これらのインタビューから得られた知見をもとに、研究チームは、どのようなメッセージを店頭POPに載せれば、消費者の心に響くのか慎重に検討しました。

そして最終的に、「私は地元産を買います」「それは新鮮だから」「地元の農家を応援するから」といったシンプルな3つのテキストメッセージと、若い男性農家が新鮮な野菜や果物を抱えている写真を使ったPOPを作成しました。

実際の店舗に掲示して売上を確認

作成したPOPはスーパーマーケットの店舗に掲示し、実際の売れ行きを確認しました。

対象となった店舗数は18店舗で、以下のように割り振られました。

  • 画像つきのPOPを掲示(6店舗)
  • 文字のみのPOPを掲示(6店舗)
  • 何も掲示しない(6店舗)

対象となった商品は、消費頻度が高く、季節性がある「リンゴ」と「サクランボ」です。これらは、地元産と輸入品で同一品種のものを隣り合わせて陳列しました。

陳列スペースの広さ、商品の量、価格表示の仕方など、POP以外の条件はすべて統一されました。

価格については、どの店舗でも地元産のほうが輸入品よりもやや高く設定されてました。これは一般的なスーパーの現実的な販売状況を反映しているといえます。

POPを掲示すると地元産が売れる

最終的な売上を集計したところ、POPを掲示した店舗では、明らかに地元産の商品の購入割合が高まりました。

とくに画像付きのPOPがもっとも大きな効果を示しました。たとえばリンゴの場合、POPなしの店舗では地元産が全体の約34%しか売れていなかったのに対し、画像付きPOPを導入した店舗では約56%まで上昇していました。

これは、およそ20ポイントに及ぶ大幅な改善です。

サクランボでも同様の傾向が見られ、画像の効果はテキストよりも一貫して強いことが確認されました。

価格に敏感な低所得層でも地元産を買うようになる

さらに会員カードの購買履歴を分析したところ、価格に敏感な低所得層であっても、POPによって地元産を選ぶ確率が高まることが分かりました。

この層は通常、安価な輸入品を優先する傾向がありますが、画像POPを見た場合には、地元産を選ぶ可能性が高まりました。

つまり、金銭的制約があっても、視覚的に訴えるメッセージが購買行動にしっかりと影響を与えていたということです。

一方で、もともと地元産の食品をよく購入していた「高品質志向」の消費者に対しては、POPの効果は限定的であることもわかりました。

この層は、POPの有無にかかわらず、もともと地元産を支持する傾向が強いため、新たにプライミングを行っても行動が大きく変わる余地が少ないといえます。

なぜPOPを導入すると地元産の食品が売れるのか?

POPを導入した店舗で地元産の購入比率が明確に高まった理由は、以下のような心理的メカニズムによって説明されます。

1. 記憶を呼び起こす「リマインダー効果」

POPは、消費者がもともと持っていた「地元産を選びたい」という意図を、買い物のタイミングで思い出させる役割を果たします。

スーパーの中では多くの情報(割引、陳列、混雑など)に囲まれているため、消費者はもとの意図を忘れてしまうことがあります。

そこで、POPが視覚的なきっかけとして働き、消費者の“良心的な目標”を再び意識させるのです。

2. 行動目標の「優先順位」を変える効果

人は同時に複数の目標(例:節約、時短、健康、地元支援)を持っています。

通常、価格の安さや手間の少なさといった実利的な目標が優先されやすいですが、POPが導入されると「地元農家を応援する」「健康的で新鮮なものを選ぶ」といった目標が強く意識されるようになります。

その結果、価格よりも価値を重視した選択が促され、地元産の商品が選ばれやすくなるのです。

3. 視覚的訴求力による印象強化(特に画像POP)

研究では、写真を用いたPOPの方がテキストだけのPOPよりも効果が大きいことが示されています。

これは、画像が「心理的な距離」を縮め、地元産食品をより身近に、現実的に感じさせるためです。

たとえば、農家の人物が写った写真を見ることで、「誰のために買うのか」「買うことで何が支援できるのか」がイメージしやすくなり、選択に影響を与えます。

4. 即時性の高い意思決定支援

POPは、ちょうど「買うかどうか」を判断している瞬間に消費者の目に入るため、行動を変えるタイミングとして最適です。

この「その場での意思決定を後押しする」効果が、POPの非常に大きな特徴です。

ポスターや広告と異なり、POPは商品と一緒に目に入るため、行動に直結しやすいのです。

小さなメッセージでも行動を変えるプライミング刺激となる

地元産の食品を選びたいという気持ちは多くの人が持っていますが、買い物の現場では価格や習慣に流されて、その意図が忘れられてしまうことがあります。

そこで、POPのような目に入りやすい情報があると、「あ、そうだった」と思い出し、実際の行動が変わるのです。

今回の実験では詳しく検討されていませんが、同じような手法がほかの分野にも広げられる可能性があります。

たとえば、環境に配慮した商品や健康的な食品など、「いいと分かっていても選ばれにくいもの」に対しても、POPを活用することで消費者の行動を変えることができるかもしれません。

人間の行動は、必ずしも考えや意志だけで決まるわけではありません。

ちょっとした「きっかけ」があるかどうかが、その選択を左右します。

お店の中にある小さなメッセージであっても、行動の変化を生み出すプライミング刺激としての力を持っているのです。ぜひ有効活用しましょう。

参考文献:Ruzica Brecic, Dubravka Sincic Coric, et al. (2021). Local food sales and point of sale priming: evidence from a supermarket field experiment.