新製品開発(NPD)は、企業の成長を左右する重要な取り組みです。
しかし、開発に時間やコストをかけても市場に受け入れられず、期待通りの成果を出せないケースも少なくありません。では、同じようにリソースを投じても結果に差が出るのはなぜでしょうか。
技術力や市場調査の質だけでなく、チームを率いるリーダーのスタイルが大きな影響を持つことが、研究によって明らかになっています。
この記事では、変革型と取引型という二つのリーダーシップスタイルの違いと、それが新製品開発にどのような影響を与えるのかを解説します。
新製品開発とリーダーシップの関係
NPDが難しい理由
新製品開発は、研究開発やマーケティング、品質管理、生産など複数の部門が関わる複雑なプロセスです。
それぞれの専門知識や視点が異なるため、意見の衝突や優先順位の違いが頻繁に起こります。
さらに、市場環境の変化や競合の動きも激しく、不確実性の高い状況の中で意思決定をしなければなりません。
リーダーの役割
このような状況で重要になるのが、チームをまとめ、方向性を示すリーダーの存在です。
リーダーは単に指示を出すだけでなく、メンバーの創造性を引き出すのか、それとも効率や標準化を重視するのかによって成果が大きく変わります。
つまり、リーダーシップのあり方が新製品開発の成功に直結するといえます。
変革型リーダーシップと取引型リーダーシップの違い
変革型リーダーシップとは
変革型リーダーシップは、チームにビジョンを示し、メンバーの意欲や潜在能力を引き出すスタイルです。
特徴としては、カリスマ性による影響力、インスピレーションを与える言葉や行動、知的刺激による創造性の喚起、そして一人ひとりへの個別配慮があります。
このようなリーダーは、メンバーが自発的に挑戦し、より高い成果を目指す環境をつくり出します。
取引型リーダーシップとは
一方で、取引型リーダーシップは成果と報酬を交換するスタイルです。
約束された成果を出せば報酬が与えられ、基準を満たさなければ罰や厳しいフィードバックが与えられます。
このアプローチは効率や安定を確保する点では有効ですが、未知の課題に直面する場面や柔軟な対応が求められる状況では、メンバーの創造性や意欲を抑え込んでしまうリスクがあります。
リーダーシップとNPDに関する研究
研究目的
シーパトゥム大学のチョンラティス・ダラウォン博士のが、変革型と取引型のリーダーシップが新製品開発の成果にどのように影響するかを調べた研究があります。
成果は、新製品の市場での成功度と開発スピードの二つの側面から評価されました。
さらに、製品の革新性がリーダーシップの効果を強めたり弱めたりするかどうかも検証されました。
方法
調査はタイの製造業で行われました。
対象は自動車や電子機器といった分野の新製品開発チームで、研究開発、マーケティング、品質管理、生産など多様な部署に所属する189名から回答を得ました。
アンケートではリーダーシップスタイル、新製品の成功度、開発スピード、そして製品の革新性を測定しました。これらのデータを統計的に分析し、リーダーシップと成果の関係を検証しました。
研究の結果
変革型リーダーシップの効果
分析の結果、変革型リーダーシップは新製品開発の成功度とスピードの両方を高めることが明らかになりました。
市場でのシェア拡大や収益の確保といった成果だけでなく、開発プロセスを迅速に進める効果も確認されています。特に革新性の高い製品を開発する場合、このスタイルのリーダーシップがより強い効果を発揮しました。
未知の領域に挑むときこそ、チームを鼓舞し創造的な解決策を導くリーダーの存在が成果に直結するのです。
取引型リーダーシップの効果
一方で、取引型リーダーシップは新製品の成功度やスピードを下げる傾向が見られました。
標準化や効率重視の姿勢は、日常業務の遂行には適していても、変化の激しい環境での新製品開発にはマイナスに働きやすいのです。
特に革新性が高い製品では、取引型リーダーシップの負の影響がさらに強まりました。
報酬と罰則を軸にした管理は、不確実な挑戦を必要とする状況においてはメンバーの柔軟性を奪い、開発を停滞させる要因となることが示されています。
実務への示唆
高革新性製品の開発では変革型が必須
新しい技術や市場を切り開く製品を開発する際には、変革型リーダーシップが欠かせません。
メンバーに自信を与え、困難な課題に挑む意欲を引き出すことで、成果の確率を高めることができます。
組織としても、リーダーにビジョンを描き、メンバーを巻き込む力を育成することが重要になります。
取引型スタイルは慎重に使うべき
取引型リーダーシップは、効率や短期的な成果を求める場面では効果的です。
しかし、新製品開発のように不確実性が高く創造性が不可欠な場面では、過度に依存すると逆効果になります。
必要に応じて最小限活用しつつ、変革型リーダーシップを基盤に据えることが望ましいといえます。
分散型リーダーシップという新たな視点
新製品開発におけるリーダーシップ研究は世界中で進められていますが、国や文化によって求められるリーダー像が異なることも指摘されています。
例えば、権威を重んじる文化では取引型のスタイルが一定の安心感を与える場合がありますし、自由度を重視する文化では変革型のリーダーがより強い影響を持ちやすいと考えられます。
つまり、一つのスタイルが普遍的に最適というわけではなく、文化的背景や組織の特性によって解釈や効果が変わる可能性があるのです。
また、近年はリーダー一人に依存するのではなく、チーム全体で役割を分担し合う「分散型リーダーシップ」という考え方も注目されています。
このアプローチでは、状況に応じてメンバーがリーダーシップを発揮し、柔軟に意思決定が行われます。特にスタートアップのようにスピードと柔軟性が求められる環境では、この分散型の発想が従来のスタイルを補完する形で力を発揮することが期待されています。
さらに、AIやデータ分析が意思決定の中心に入りつつある現在、リーダーは従来のように全ての判断を下すだけでなく、テクノロジーを活用してチームの創造性を支援する役割も求められています。
参考文献:Chonlatis Darawong; The influence of leadership styles on new product development performance: the moderating effect of product innovativeness. Asia Pacific Journal of Marketing and Logistics 20 April 2021; 33 (5): 1105–1122.