検索広告に重点を置くべきか、それともディスプレイ広告に投資すべきか。あるいは、従来のテレビや新聞といったオフライン広告もまだ有効なのか。
媒体が多様化する中で、広告出稿の判断が難しくなっている企業も多いと思います。
よく言われるのは、「検索広告は売上に直結しやすい」「ディスプレイ広告はブランド認知に強い」といった一般的な見解です。
しかし、それらの施策が本当に企業の売上や価値にどの程度のインパクトを与えているのか、データに基づいて語られる機会はそう多くありません。
今回は、そうした疑問に明確な答えを示してくれる実証研究を紹介します。
ディスプレイ広告vs検索広告vsオフライン広告
広告の種類ごとに、売上や企業価値に与える影響がどう異なるのかを分析した、フランクフルト大学のエマニュエル・ベイヤー博士らの調査があります。
この調査では、アメリカの上場企業1651社の7年間にわたるデータを使いました。
まず最初に、企業が広告の種類ごとに、いくらの費用をかけているのか調べました。広告の種類は大きく3つに分けられています。
- オフライン広告:テレビや新聞、雑誌、ラジオなど、従来のメディアでの広告。
- オンライン・ディスプレイ広告:バナーや動画広告など、ウェブサイトに表示される広告。
- 検索広告:Googleなどの検索エンジンで、検索結果の上部などに表示される広告。
それから、これらの広告が企業の「売上」と「企業価値」にどう影響しているのかを検証しました。
検証の結果、次のことが分かりました。
1.最も売上を増やすのは検索広告
最も売上を増やす効果があったのは検索広告でした。特に短期的な売上を伸ばすのに非常に有効でした。
検索広告は、ユーザーが特定の商品やサービスを探して検索を行っている、その瞬間に広告を表示させることができます。
つまり、「今すぐ買いたい」と考えているタイミングで広告を届けられるため、商品やサービスの購入に直結しやすいのです。
2.ディスプレイ広告は企業価値を高める
ディスプレイ広告は検索広告のように短期的な売上アップ効果はやや劣るものの、長期的に企業の価値を高める効果があることが分かりました。(ここでいう企業の価値はトービンのq(※1)で算出しています)
ディスプレイ広告は、バナーや動画といった視覚的に目を引くフォーマットで配信されるため、ユーザーの記憶に残りやすく、ブランドの認知度を高める効果があります。
また、購買段階に入っていない潜在層にも情報を届けることができるため、ブランドのイメージ形成やファン獲得といった側面で大きな役割を果たします。
こうした積み重ねが、企業の将来的な収益力に対する市場の評価につながり、企業価値の向上へと結びつくのです。
(※1【トービンのq】企業が投資家からどれくらい将来性を期待されているかを示す指数。「企業の市場価値÷企業が持つ資産の再取得コスト」で計算。この指標が1より大きい場合、企業の市場価値が資産の価値より高く評価されていることを意味する)
3.オフライン広告の効果は小さい
オフライン広告についても、売上および企業価値に対して一定の正の効果が確認されています。
しかし、その効果は検索広告やディスプレイ広告と比べて小さいものでした。
テレビや新聞といった従来型メディアは、依然として広範なリーチを持つ一方で、ターゲティングの精度や効果測定の面ではオンライン広告に劣っています。
そのため、広告投資としての効率性は限定的となってしまうのです。
マーケティング施策を設計する際の注意点
以上の結果から、検索広告とディスプレイ広告の効果が高いことが分かります。
しかし、注意しなければならないことがあります。
今回の調査では、検索広告とディスプレイ広告を同時に活用した場合、相互の効果を弱め合ってしまう可能性も示唆されているのです。
これは、同じユーザーが短期間に両方の広告に触れることで、「しつこい」「押しつけがましい」と感じ心理的な反発持ってしまったり、広告メッセージが多重化して訴求の焦点がぼやけてしまうことが原因と考えられます。
したがって、マーケティング施策を設計する際には、それぞれの広告の役割を明確にし、目的に応じて適切に組み合わせることが重要です。
短期的な売上を優先するなら検索広告に比重を置き、長期的なブランド構築を目指すならディスプレイ広告を戦略的に活用するといった判断が求められます。
業界によっても広告への反応が異なる
業種によっても、広告の効果が多少異なることも分かっています。
たとえば、ITや小売業などデジタルとの接点が多い業界では、オンライン広告の影響がより大きく出る傾向が見られました。
逆に、エネルギーや製造業などの分野では、オフライン広告の存在感も依然として無視できないことが示唆されています。
そのため、広告施策を考える際には、業界の特性やターゲットとなる顧客層の行動パターンを考慮したうえで、検索広告・ディスプレイ広告・オフライン広告のいずれに重点を置くのかを見極めることが重要です。
それぞれの広告手法が持つ強みと限界を正しく理解し、自社にとって最適なバランスを設計しましょう。
参考文献:Emanuel Bayer, Shuba Srinivasan, et al. (2020). The impact of online display advertising and paid search advertising relative to offline advertising on firm performance and firm value.