オンラインレビューが購買行動に与える影響は数多く研究されてきました。
これまでの知見では、レビューは信頼性や安心感を与え、来店や購買意図を高める効果があることが分かっています。
ただし、その効果は一様ではありません。レビューを読むことで軽減される不安には大きく二つの種類があります。
料理やサービスが期待に応えてくれるかどうかに関する「パフォーマンスリスク」と、お金を払った価値があるかどうかに関する「財務リスク」です。
従来の研究は多くの場合、レビューが購買意図に与える影響を一時点で測定することにとどまっていました。
時間の経過に伴いレビューの役割が変化する可能性については、あまり検討されてこなかったのです。
この空白を埋めるために実施されたのが上海大学のパン・ホイフェンガらの研究です。
研究の方法
研究は韓国のレストラン利用者を対象に行われました。
調査は二段階に分けられ、まず2019年3月から4月にかけて初回調査(T1)が実施され、332名が回答しました。
その後約半年を経て、2019年8月から9月にかけて再度調査(T2)が行われ、274名が参加しました。
調査では、オンラインレビューの情報性や説得力、信頼性に関する評価を測定するとともに、パフォーマンスリスクと財務リスクの認識、そして実際にレストランを訪問しようとする意図が問われました。
分析手法には構造方程式モデリングが用いられ、時間の経過によるレビューの効果の変化が精密に検証されました。
研究結果の概要
初回訪問時(T1)のレビュー効果
初めての来店を検討する段階では、オンラインレビューは強い影響を持つことが確認されました。
レビューを読むことで訪問意図が高まり、料理やサービスに対する不安(パフォーマンスリスク)が和らぐ傾向が見られました。
また、費用が無駄になるのではないかという財務リスクは、訪問意図にマイナスの影響を与えていました。
つまり、初回訪問者にとってレビューは主に「サービスや品質への安心感」を与える役割を果たしていたのです。
再訪時(T2)のレビュー効果
半年後の調査では、レビューの影響力は明らかに弱まりました。
レビューを読むことで訪問意図が高まる効果は残っていたものの、初回に比べてその力は小さくなっていました。
また、パフォーマンスリスクを軽減する効果はなくなり、代わって財務リスクを下げる方向に働いていました。
ただし、財務リスクそのものは訪問意図に直接的な影響を与えなくなっており、レビューが間接的に来店を後押しする度合いは小さくなっていました。
時間とともに変わるレビューの役割
総じて、オンラインレビューは時間とともにその効果が変化することが示されました。
初回訪問では「品質やサービスの安心感」を提供するのに対し、再訪時には「お金を払う価値があるか」という感覚を支える方向にシフトしていったのです。
また、初回段階で形成された訪問意図は、半年後の再訪意図にも強くつながることが明らかになりました。
マーケティングへの示唆
初回訪問客へのアプローチ
初めての来店を検討する人にとって、最も大切なのは「安心できるかどうか」です。
料理の味やサービスの質、店内の清潔感や雰囲気に対する不安が大きければ、候補から外れてしまう可能性があります。そこで、レビューの中でポジティブな体験が強調されていることが新規来店の大きな動機になります。
例えば、「料理が期待以上に美味しかった」「スタッフの対応が丁寧で心地よかった」「店内が清潔で落ち着ける雰囲気だった」といった具体的な体験談は、初めての人に安心感を与えます。
したがって、公式サイトや予約ページ、SNSなどにおいて、こうしたレビューを積極的にピックアップし、視覚的に目立たせる工夫が効果的です。
リピーターへのアプローチ
一度訪れたことのある人は、すでに料理やサービスの基準を体験済みです。
そのため、同じ「安心感」を訴えるだけでは再訪を後押しする材料にはなりにくくなります。むしろ、コストパフォーマンスの高さや継続的な満足感を感じられることが重要になります。
割引クーポンや会員向け特典を提示したり、「ランチセットがこの価格でこのボリュームはお得」といったレビューを前面に出したりすることは再訪を促進します。
また、「2回目も満足できた」「リピートしても新しい楽しみがある」といった声も再来店の動機になります。単なる価格の安さではなく、支払った金額に見合う価値を伝えることがポイントです。
レビュー活用の時間軸戦略
オンラインレビューは一度読まれて終わる情報ではなく、顧客の経験に応じてその役割が変化していきます。
初回訪問時には「品質や体験に関する安心感」を提供し、再訪以降には「支払いに見合う価値」を訴求する役割へとシフトしていきます。
この時間的な効果を意識することで、レビュー活用はより戦略的になります。
例えば、新規客向けには体験談の信ぴょう性を高めるために写真付きレビューを重視し、再訪客向けには価格と満足度のバランスを伝える声を整理して提示する、といった使い分けが可能です。
レビューの役割が時間とともに変わることを前提に施策を設計することで、顧客との関係をより長期的に築いていくことができます。
進化するレビュー
今回紹介した研究は、レストランを舞台にしたものでしたが、オンラインレビューの役割は飲食店にとどまりません。
旅行、宿泊、映画、さらにはオンラインサービスやアプリ利用に至るまで、あらゆる分野で消費者は他者の声を参考に意思決定をしています。
特に近年注目されているのは、テキストだけでなく写真や動画を伴うレビューです。短い動画レビューやSNS上の投稿は、従来の文章中心のレビューよりも視覚的な信頼感を与えやすい傾向にあります。
また、AIによるフェイクレビュー検出技術や、ブロックチェーンを活用した改ざん防止システムなど、新しい仕組みも導入されつつあります。こうした技術進化は、消費者の安心感をより強固にする一方で、情報過多の中で何を信じるかという新たな課題も生み出しています。
さらに、レビューの「鮮度」も重要です。半年以上前のコメントより、直近の投稿の方が参考にされやすいのは自然なことです。
そのため、常に新しい体験談を収集し続ける仕組みを整えることが、信頼を維持する鍵になります。
レビューは時間とともに効果が変わるだけでなく、鮮度や形式によっても影響の仕方が異なるのです。
参考文献:Huifeng, P., & Ha, H. Y. (2021). Temporal effects of online customer reviews on restaurant visit intention: the role of perceived risk. Journal of Hospitality Marketing & Management, 30(7), 825–844.