新商品を開発したり、新しいブランドを立ち上げるとき、多くの企業が「覚えやすさ」や「発音のしやすさ」を意識してネーミングするかと思います。
しかし、実はそれ以上に重要な要素があるかもしれません。
それが「名前の響きが持つ性別のイメージ」です。
その商品の特性にもよりますが、フェミニン(女性っぽい)な名前のほうが売れることが多いのです。
ブランドランキングの上位は女性的な名前が多い
ネーミングがブランド価値にどんな影響を与えているのかを分析した、カルガリー大学ハスケインビジネススクールのルース・ポガチャル博士らの研究があります。
この研究では、世界最大のブランディング会社インターブランド社が毎年発表している「Global Top Brands」ランキングに登場するブランド名を分析対象としています。
日本でも、よく話題になるランキングなので知っている人も多いかもしれません。現在のところアップル社が12年連続1位です。
研究者たちは、言語学的な基準によって、このランキングに出てくるブランド名の性別スコアを算出しました。
具体的には、名前の長さ、語尾音(母音か子音か)、アクセントの位置などの言語的特徴をもとに、男性っぽさ、女性っぽさを数値化したのです。
その結果、ランキングの上位にあるブランドの名前は、女性的なものが多いことが分かりました。
ランキング入りしているブランドのうち、55%が女性的、36%が男性的、9%が中性的な名前であり、統計的にも有意な分布の差が確認されました。
ネーミングが商品選択にどんな影響を与えるのか?
さらに研究者らは、ブランド名の性別イメージが、実際の選択にどう影響するのかも、実験によって、調べています。
ここでは、以下の架空のブランド名を用意しました。
- 「Nimilia(ニミリア)」女性的なブランド名
- 「Nimeld(ニメルド)」男性的なブランド名
女性っぽい名前のチャンネルは選ばれやすい
そして、400名の参加者に「Nimilia YouTubeチャンネル」または「Nimeld YouTubeチャンネル」と、無作為に選ばれた他のYouTubeチャンネルとの間でどちらの動画を視聴するかを選ばせました。
その結果、女性的なブランド名である「Nimilia」のチャンネルは43%の参加者に選ばれ、男性的な「Nimeld」のチャンネル(32%)よりも有意に多く選ばれました。
女性っぽい名前の商品は選ばれやすい
続いて行われた実験では、金銭的なインセンティブを用いて、より現実的な選択行動を測定しました。
大学生150名を対象に、実験参加の謝礼として、以下のうちから好きなものを選ばせました。
- 「Nimilia」ブランドのハンドサニタイザー(※1)
- 「Nimeld」ブランドのハンドサニタイザー
- 50セントの現金
(※1 ハンドサニタイザーとは手の消毒ジェルのことです。ちなみにこの実験はコロナ禍前に行われたのですから、ハンドサニタイザーを選びやすいバイアスが掛かっている可能性は考慮する必要はないといえます)
この実験で最も多く選ばれたのは「Nimilia」のハンドサニタイザー(49.3%)であり、現金(36.0%)や「Nimeld」(14.7%)よりも有意に高い選択率となりました。
なぜ女性っぽいネーミングが効果的なのか?
なぜ女性っぽい名前ほど、ブランド価値が高く、消費者からも選ばれやすいのでしょうか?
それは、女性っぽい名前が「温かさ」という心理的印象を通じて、消費者の認知や感情にポジティブな影響を与えるからです。
進化心理学的な話になりますが、私たち動物は、よく知らない他人やモノと遭遇したときに、まず最初に「敵か味方か(安全か危険か)」を判断します。そうしなければ命を落としてしまうからです。
この判断をするときに、温かさを感じると、「協力的、信頼できる、親しみやすい」といった感覚が生まれ、味方であると判断しやすくなるのです。
つまり、ブランド名が言語的に女性らしい場合(たとえば、語尾が母音で終わっていたり、音が柔らかく長めだったりする場合)、消費者は無意識のうちにそのブランドに「温かい」「親しみやすい」といった印象を抱き、自分の味方と判断しやすくなるのです。
これは、実際の性別に関係なく、「女性=温かい存在である」という文化的・社会的なステレオタイプが広く共有されているからです。
その結果として、ブランドに対する好感度や信頼度が高まり、他の競合ブランドよりも選ばれやすくなるということです。
商品の特性によっては逆効果となる
しかし、常に女性っぽいネーミングが有利となるわけではありません。
別の実験では、男性向けの商品や、機能性が重視される商品では、女性っぽいネーミングは効果を発揮しなかったり、逆効果となってしまうことも分かりました。
この理由は違和感やズレを感じてしまうことにあります。
たとえば、男性用のシェービング用品やスポーツ用具に、女性らし優しそうな響きを持つブランド名がついていると、名前と製品のイメージに違和感を持たれる可能性があります。
このようなミスマッチは、製品への信頼感や共感を損なってしまうからです。
また、家電製品や工具といった製品は、どれだけ使いやすいか、長持ちするか、コストパフォーマンスが良いかといった「論理的・実用的な基準」で評価されます。
そうした商品では、「優しそう」「親しみやすそう」といった温かい印象は、それほど意味を持ちません。
むしろ、「温かい名前=頼りなさそう」とネガティブに受け取られるおそれもあります。
このように、消費者が製品に対して何を求めているか(感情的価値か実用的価値か)、そしてその製品が誰に向けたものなのか(主なユーザーの性別)によって、名前の効果は変わってきます
自社のサービスや製品の特性をきちんと見極めたうえで、最適なネーミングを考えることが大切です。
参考文献:Pogacar, R., Angle, J., Lowrey, T. M., Shrum, L. J., & Kardes, F. R. (2021). Is Nestle a Lady? The Feminine Brand Name Advantage.